第11話 男装の少女

「あの子か?」


 ケイに聞かれてカイは無言で頷いた。


「そうかここの生徒なら女だてらに剣を学ぶ者もいるだろうな…かなり珍しいが…」


「しかし」とケイは続ける。


「お前の剣を受けるくらいだから、相当鍛錬を積んだに違いないな」


 感心したように言うケイに反発するようにカイは、


「どうせお嬢様の気まぐれって奴だろう。周りが相手する訳がねえ」


 と悪態をつく。

 だが、悪態をつきながらカイは気分が高揚するのを感じていた。それが自分の剣を受けられた怒りから来るものなのか分からないまま、一人胸の内で呟いた。


(見つけた…)





 訓練で使った杖を道場の隣にある用具庫に収めるとシュンは明るい広場に出て眩しさに目を細めた。


 軽く溜息をつく。


 どの武芸も面白い。

 面白いのだがここで学べるのは基礎だ。所謂いわゆる『型』と反復練習、それと少しの組手。実戦に繋がるのは上級生になってからである。


 本格的な武術を訓練するのは上級生の武官組へ進んでからになる。厳密な年齢枠が無いから、シュンよりも年若い者でも既にそちらへ進んでいる者も居るだろう。いち早く戦場へ出て武功を立てて名を挙げたい者は数多い。


 シュンが今在籍して居る組は貴族、士族の出身者が多く、たしなみの一つとして武術を習っている者ばかりであった。


 そのように気軽に武術を行う者達の後を追っていると、ふと先日の夜の事が思い出される。



 友人の屋敷で賊と合間見えた時の事である。


 その一撃は重く、今もその衝撃を思い出す事は容易だ。手に走る衝撃以上に、全身に走った戦慄せんりつの方が大きかった。


(容赦なかった)


 シュンは自分のおごりを反省する。

 そこいらのコソ泥が現れたと思い、捕らえようとした。が、現れた賊はそのようなものではなく明確な殺意を持って空から舞い降りたのだった。


 辛うじて一合目を合わせたが、シュンはそれを受けるだけで精一杯であり、これを受けきれなければ自分が斬られる事を感じて恐怖したのだ。


 賊はこちらを子どもと見てか、力で押して来た。此ればかりは今のシュンでは応じきれない。


 何故あの時賊が引いたのか、シュンはいまだにわからない。切ろうと思えば切れたはずなのに。


(騒ぎを恐れたのだろうか?)


 そしてもう一つ忘れられないものがある。


 月に照らされた彼の目を、確かにシュンも見たのである。驚きに見開かれた目ではあったが、鋭く強い意志の光を持った目。


(私の周りには無いあの眼差し…)


 生き延びたと感じた時、シュンは初めて自分が剣の道を進んできた事を間違いではなかったと思った。


 それは友人・花蓮の父に厚く礼をされた事も影響していた。蔵を賊から守った事を感謝されたのだ。


(私の剣が他人に感謝される日が来ようとは思いもしなかった)


 シュンは少し口元をほころばせながら学科棟へ向かった。




「行っちまうぞ」


 少女を追って、慌てて城壁の回廊を回り込もうとするカイの襟首をケイはぐっと捕まえた。


「な、何すんだよ、ケイ?」


「慌てなくて良い」


 つづく


 次回『張家の娘』

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