第9話 紫珠の教練校

「条件がある」


「おい!シン、行くのか?」


 ソウが驚いて立ちあがり、椅子を倒した。それは「ガラン」と妙に大きな音を立てる。


「条件、とは?」


 男に落ち着いた声で聞かれ、シンは立ち上がる。


「俺が居なくなれば、ここの親無し子達は守る者が居なくなる。この街をこいつらが安心して暮らせる街にしてもらう」


「…わかりました」


「それともう一つ」


「は。何なりと」


「ソウを連れて行きたい」


「シン⁈」


 腹心の友は驚きとあらがいの声を上げたが、驚いたのは貴族の男達も同様であった。この二人も顔を見合わせる。


 しかし直ぐに『何家かけの』男が頷いて認めた事を示す。


うけたまわりました」


たがうなよ」


 こうして貧民街の少年は王太子という地位に就いたのであった。





「その噂の王太子様が、近々教練校に入るらしいじゃねぇか」


「ああ、私も聞いている」


 カイとケイは王都の外れに位置する紫珠しじゅの教練校でその話をしていた。


 ショウ国内の貴族や将校の子弟、又は有望であると認められた庶民の子を学ばせる為の学校であり、その内の三分の二程ほどの生徒が寮に入っている。


 残りの三分の一は所謂いわゆる高位の貴族の子弟で、自宅からの通いの者だ。毎日授業に出る身でも無く、紫珠しじゅの教練校を出たというお墨付きを貰い、仕官に有利にする為に在籍していたりする。


 ちなみに庶民の出の者というのは誰でも良い訳ではなく、一定の学力か武力を認められた者又は有力な商人の子らが入学している。彼らも士官や武官になる為日々学んでいるのだ。


 特筆すべきは八歳から入学でき二十歳まで在籍できる事であろう。更に男子のみではなく女子も十五歳まで在籍が許されている。


 学ぶ科目は男子と女子では違い学舎も寮も当然分かれているが、基礎となる漢学儒学等は等しく学び、男子は武術と政治に関わる学問を、女子は良妻賢母になる為の裁縫、音楽、作法を学ぶ。


 女子も紫珠しじゅの教練校を出れば、貴族ならより良い嫁ぎ先に、市井の出なら女官として宮廷に出仕を許される。その為にこの国立の学校の人気は高い。


 ケイは勿論もちろん貴族としてだが、カイはケイの一族——しゅう家の力によって通学を許された身分である。


 彼らは通学では不便なの事も有ると、近くに『隠れ家』を二人で勝手に作り、授業の合間に休んだり個人的に鍛錬したりと自由にしている。


 その企てをしゅう家に内密に行うとこは若者にありがちな家への反発心があったと言えよう。



 つづく



 次回『城壁の上』

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