第7話 何家の男

 ここの所、長くせっている現王が、子の居ない自分の後継あとつぎにシンを呼びたいのだと言う。


「王が貴方のことを知ったのはついひと月ほど前のことでございます」


 親族や王族の血を引く有力な貴族の中から王太子を探す事について検討した際、シンの事が初めて現王に上奏じょうそうされたのだ。


「俺がお城に行ったら、何かいい事があるのか?」


 シンの幼い問いに、後ろ盾を任された貴族が答える。


「おそらく、良い事は何一つありませんな」


 その切り捨てた様な回答にシンとソウはギョッとした。彼らは彼らでこの大人達が甘い言葉で登城を誘うだろうと思っていたのだ。例えば衣食住に一生困らないとか。


 それが全く反対の言葉である。


 むしろシンのやる気をぐ様な事を言う。男は続けた。


「確かにそれらに困る事は無いでしょう。代わりに王となる為の教育を受け、そしてまた政治の道具として使われるか生命を狙われるか…」


 自分達がいつも必死で掻き集めているものについてあっさりと困らない、と言われ、ソウはつい口を出してしまう。


「俺らにとっちゃ、着るものがあって食いモンがあって住むとこが有るのはこの上ないことだぜ。わかるか?この上ないんだ」


「自由が無くなりますぞ」


 男がさらりとそう言うと、もう一人が慌てて割り込んだ。


何家かけの!おかしな事を言うでない…!シン様、どうか気にならさず」


 シンは目を細めて貴族達の値踏みをした。何家かけの、と呼ばれた方が力がありそうだ。何より甘言でシンを釣ろうとしない。


「俺は勉強した事がない」


 シンがそう言うと、彼はふっと笑った。


「我々の調べでは、貴方が孤児でありながらも読み書きが出来る、となっておりますぞ」


 それは嘘ではなかった。

 知識の有る無しが損得に関わる事があると知ってから、シンとソウは貧民街に流れ着いた学のある老人などから読み書きを習い、それを年下の者にも少しずつ教えていた。


「少し出来るだけだ。王様の勉強とは違わぁ」


「貴方に学ぶ意欲があれば、それは問題になりませぬ。むしろ心配すべきは危険が増える事でしょうな」


「危険?ここだって十分危険な場所だ」


 男は首を横に振って否定した。


「貴方お一人の命が危うくなるのでございます」


 つづく


 次回『兄の想い』

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