第6話 遺児の証明

 貴族の男が紫色の布から取り出したものは、掌に収まるほどの大きさの木片であった。ただの板ではなく、朱塗りの上に金色の文字が書かれている。


 飾り緒と翡翠の玉が付いた其れはシンの見慣れたものとよく酷似していた。


 シンは其れをいつも首からかけていた。驚きつつもシンは懐から其れを取り出した。こちらは翡翠の玉は既になく、角の部分は塗りもげかけている。


割符わりふというものです。お互いを証明する様な時に使いますな」


「…これは割符だったのか」


 男は重々しく頷くと割符の合わせる部分をシンに向けて差し出した。


「これは王家にのこされた先王の遺児に渡した物の片割れでございます」


 シンは震える手で自分の物を差し出す。


 割符の片割れ同士は——。


 ピタリと合った。


 シンは大きく目を見開く。


「しかしこれだけでは心許ない。申し訳ないがあと一つ、示して頂きたい」


 男が目配せするともう一人がこれまた華美な装丁の冊子を取り出した。中には遺された子の特徴が記されていると説明される。


「記録されたのは一歳の時の記録であるそうですが、黒子ほくろの位置やその他の身体の特徴が記されております」


「要はそれが俺の体と合うかどうかって事か」


よろしいですかな?」


「ああ」



 判別には時間を要さなかった。


 男達はシンの顔を見た時から、この少年が先王の遺児に間違いないと確信していたからだ。簡単な照合を終え、今度はシンの方がその様子を伺われていた。


 シンは「先王の遺児に間違いない」と断定され、驚きを隠せなかった。


 突然降って湧いた望外ぼうがいの幸運を手にした喜びと、今までほうって置いて今更何だという怨嗟えんさとがやって来る。


 シンは眩暈めまいさえ覚えた。


 だが同席していたシンの腹心の友にして右腕とも呼べるソウはこの話を疑った。十年以上も時をてから現れた事が怪しいと言う。


 その事について男達は詫びと共に説明を始めた。


 病弱な王太子が王位にくと決まった時に、それに対抗する火種を残せなかった事。そして大金を渡したシンの母親が行方をくらました事。そして何故今なのか——。


「貴方の兄上が会いたいと望んでおられます」


 つづく


 次回『何家かけの男』

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