第5話 異母弟・新

 現在の若き王が王位につく前。つまり前王がよわい四十程にして崩御する前に、市井の遊女に手を付けて産まれたのがシンである。


 十三年の間、彼の存在は前王とその側近が知るのみであり、隠されていた。それはシンの存在が今のショウ王の地位を脅かしかねないとしての事であった。


 ただで隠された訳では無い。

 多額の金と実子であることを証明する『割符わりふ』を与えられたのである。


 しかし大金は人を惑わす。


 又は狂わす。


 大金を渡された若き元遊女の母親は、あっという間にそれを使い果たし、再び元の世界へ身を落とす事となったのだ。


 そしてシンが四歳の時に客との人情沙汰で刺されて命を落としてしまう。後に残されたシンは、ただお守りのように『割符わりふ』を握りしめていたという。


 そして彼は九年の月日を市井の貧民街で過ごす——。


 たくましく生き抜いた彼は歳下の者の面倒をよく見た為、街の子ども達の頭目となっていた。なったは良いがその実、仲間と生きる為にあらゆる悪さをした。


 孤児の仲間らと共に盗みを主な生業とし、あと少しすれば街の悪党達の仲間入りを果たしていただろう。


 しかしその運命の歯車を止める為か、シンが十三歳の時に突然現れた貴族の風体をした男達に声をかけられる。


「俺が王様の子どもだって?」


 声をかけて来たのは前王の側近で唯一シンの存在を知る者と、現王——つまりシンの腹違いの兄が後継者としてのシンの後ろ盾を頼んだ、ある有力貴族であった。


「そんなバカな話があるか」


 とシンは一蹴した。


 男達の一人が懐から何かを取り出す。

 紫色の高価そうな布の包みがシンの目に留まる。


 男はゆっくりと布を外し、その中身をシンに見せた。


 つづく


 次回『遺児の証明』

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