第4話 紅華十二年

 紅華こうか十二年。

 中華戦国の世において、五国立国の中のショウ国の年号である。


 現在のショウ王の在位十二年を指す。その十二年は決して安定したものではなかったが、大きな戦は二つばかりでどちらにも勝ち、今は束の間の平穏の中に人々はひたっている。


 この在位の短い王には一つの心配事が常に付きまとっていた。


 体が病弱であったのだ。


 王位に就いたのは十の時であったから今は二十二であるが、子ども時代から病と共に過ごしてきた為いつも周りをはらはらさせてきた。


 頑強ならざる為に廷臣ていしん達が政務をり行ってきたのだが、この王の唯一備わった力がその面々をまとめ上げる力である。


 もちろん彼一人の力では無い。

 一つには、幸運な事に彼に忠誠を誓う有力な大臣がいた事。また一つにはその大臣が仲間をせて協力し、王が幼い時から一体となって政務に力を入れてきた為である。この王は病弱でも政務それのみに力を注いできたと言っても良い。


 それのみ——であったが故に懸念があった。後継者の問題である。体が弱い彼は、戦国の世において、いつその命が召されるのかという心配が無くならぬのである。


 それでも二十二年保った命が、在位十二年にしてついに風に揺らぐ蝋燭ろうそくのごとく弱々しくなっているのである。


 王はこの年、病で長くとこにつく事が続いたのである。後継あとつぎ不在のまま——。



 王には無論むろん後宮がありきさきも幾人かいたのだが、その誰も懐妊のきざしも無い為に、このまま彼の後継者は現れないはずであった。


 ところがこの年、王が長くせってからの後一人の少年が王太子として立てられる。


 シンと呼ばれるその少年は、王の歳離れた異母弟であった。


 つづく


 次回『異母弟・新』

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