逃げてきた男



 本当に犯人――いや容疑者は戻ってくるのだろうか?


 その疑問はいくら時間が過ぎても、同級生たちの心から消えなかった――イチヤ以外は。


「『忘れ物』ってそんなに大事なものなのかなあ。あんな古いものばかりだけれど」


「私にはゴミにしか見えないけどなぁ~」


「ただのゴミじゃないぞ。『不燃ゴミ』だ」


「不燃ごみは隔週の木曜日だった気がするんだけど……」


「こらこら、いまそんな話してる場合か!」


 イチヤが四人をたしなめた。


「言ったろ! 犯人はもう一度、現場に戻ってくるって。何で僕を信じないんだ? それと、お前らがゴミ扱いしてる『忘れ物』だけどな……僕は何だかあの品物に、物を集める人間コレクターの執念みたいな物を感じるんだ……絶対ヤツにとって必要なものだ。だから戻ってくるって信じられる!」


 拳を握って力説したイチヤだったが、仲間の痛い視線を感じて我に返る。


「だ・か・ら! 変人を見つけたみたいな目で僕を見るなって! そもそもお前らにはさ、好きなものを収集する執念が足らないんだよ! だから同志の繊細な気持ちがわかんないんだ!」


「繊細? 繊細な人って猫娘ゾンビになりきって銃乱射して、一般人に噛み付くゲーム好きなのぉ?」


「イチヤの言う『同志』って、これから来るかもしれない容疑者のことだよね? 会ったことも無いのに、もう友達になったの?」


「あれ? 確か犯行後に現場に戻ってくるのって、放火犯の心理じゃなかったかしら?」


 ツッコミの三重奏がイチヤに襲いかかる。


「ぐぐぐ、チキショウ。三人揃ってあらゆる角度から否定しやがって……」


 タイチがその最後トリを務めた。イチヤの肩をポンポンと叩く。


「イチヤ、すげえ格好いいことを言ってるかもしれないけどな、その格好じゃあ、説得力が失せるぞ」


 その通りだった。イチヤの格好は上から下まで、軍隊の基地から逃げ出してきた兵隊そのものだった。



 半信半疑ながらイチヤの説を信じた私たちは、話し合った結果、アイの部屋で容疑者を待ち伏せする事に決めた。


「よし、さっそく待ち伏せする準備をしよう! 全員解散!」


 そう叫んでアイの家を飛び出していったイチヤの、戻ってきた格好が何故かこの脱走軍人の重装備だった。


「お前らの方がおかしいだろ! リアルに犯人かもしれないんだぞ! 凶器を持ってたらどうするんだ!」


 イチヤがアサルトライフルを構えて力説した。


「こら、銃身を向けるな! いや、そうだけどさ……お前どこの国の出身なんだよ。近代軍人なのに脇差しまで差して、国も時代錯誤もはなはだしいぜ!」


「仕方ないだろ? 家の装備を手当たり次第持ってきたから……揃えてる暇なんて無かったんだよ!」


「わかるけどさぁ」


 タイチは腰にぶらさがっているそれ・・を指さした。


「何でこんなものまで?」


「あー懐かしい!! これ小学生の時にみんながランドセルに付けてた、防犯ブザーじゃん! こーやって引っ張ると鳴るんだよね! よく先生に叱られた!」


「わ! 触るんじゃない!」

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