マリアの嘘



「考えてみれば、女子は一階で風呂に入ってたんだろ? 男子だってさっきまで家に帰ってて、今ここに戻ったばかりなんだぜ?」


 タイチはふと考え込み、ちらりと私の方を見たが、すぐに首を横に振って言い直した。


「ひとりで行動してたやつなんて、誰もいない。という事は、だ。犯人は無関係な外部の人間じゃないか?」


 タイチの珍しくまともな意見に、マリアも含めて皆が「確かに」という顔をした。


「でもさ、無くなった物を考えてみると、不思議だよね。メガネケースに、ブローチ、スプーンとトレーディングゲームのカードでしょ?」


「うんうん。トシカズの言う事、スゴクわかりみ。持っていった人の気持ち、良くわからないよねえ」


「私もアイと同じ思い。高価な物ないよね」


「イチヤのカード、お金使ってるかもしれないけど、元は200円でしょ? この中で一番、高いのはマリアのブローチかな?」


「……あ、でもそんな高いものじゃ……ない……と、思う……けど……」


 マリアが変に言いよどむ。


「いや、あれは三千円でお釣りがくる――」


「タイチ!」


 マリアが超反応でさえぎろうとする。


「へえ、すごく可愛いのに、値段それぐらいなんだ……え? 何でタイチが知ってんの? あ……まさか……マリア! あのカメオ、お母さんから貰ったって言ってたのに……」


「……ごめんなさい」


 マリアはそれ以上答えられず、顔を真っ赤にしてうつ向いてしまった。


「嘘だったのね! もぉ! これじゃワタシますます馬鹿じゃない! いつの間に二人がそんなトコまで……く、くやし過ぎる!」


 嫉妬と恥ずかしさで半泣きになったアイが、タイチに飛びかかって、首をギュッと締め付けた。


「く、くるしい……」


「あーもう! アイも止めなよ。ますます犯人のことが分からなくなってきたよ!」


 トシカズが諦めたように大きな声で嘆いた。

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