タイチとイチヤの闘い/馬鹿騒ぎの結末



 アイには世話になっているから文句は言えない。だがもううんざりだ。私が黙って部屋を出ていく時も近いだろう。


「ヴヴヴヴォーーーノ!!!」


「や、やめろーーーー!!」


 苦しげに手を伸ばして訴えかけるタイチ。だが無常にもカードはイチヤの手を離れ、カードの山の上でバウンドした。


「再び勝利~♪」


 崩れ落ちたタイチは、しばらく黙っていたが、やがてワナワナと震えだした。


「こんな……こんな、小狡こずるい頭を使うゲームはうんざりだ……やっぱり……男は力で勝負だ!! うぉぉ!」


「ま、待てタイチ! 汚いぞ!! うわぁ!」


「キャ! な、何!?」


 ベッドの上に乗り込んできた二人に、アイがパニックになる。


「いてて! ま、マジに力入れんな! ぐ、ぐわわわ!」


「はっはっはっ! その声が聞きたかった! 勝利~♪」


 変則卍固めを決められて苦しそうなイチヤと、勝ち誇るタイチ。


「く、く、くそ……」


 動けないイチヤが声を絞りだした。彼はまだ諦めてはいなかった。


「イ、イ、イチヤさまを……」


 イチヤはタイチの見えない背中で、められていない方の腕を動かしていた。


「な、め、ん、な……にゃ!」


 イチヤの指が尖った槍になって、タイチのお尻の『あの部分』に突き刺さった。


「ぎゃああああああ!!」



 激痛に悲鳴をあげるタイチ。思わず捕まえていた手を放してしまった。ニヤリと笑ったイチヤが、すぐにそこから脱出しようとするが――。


「あ、頭が外れない……わ、わ!」


 バランスを崩したイチヤが後退あとずさる。一歩、また一歩、そしてプニッと。


「え?」


 イチヤの足が何かとても柔らかいものを感じた。


「ったぁぁぁーーーい!!!」


 右のお尻を踵で思いっきり踏まれたアイが、猫みたいな悲鳴を上げた。


「うわ!! 手が動かない……お、落ちる!!」


「いたたたたた!! さすっても痛いの取れないよぉ。アザになったらどうすんだ、こらイチヤ!! え? え? きゃあ!!」


 ろくな受け身も取れないイチヤたち三人は、まとめてベッドから落っこちてきた。その先には――。


「わ、わ、ちょっと、ちょっと。こっちに来ないでくれ!!!!!」


「え、嘘でしょう? ……いや、きゃああ!!」


 ドッカーン!!!!


 アイの家全体を揺らす、ものすごい衝撃だった。バリバリと何かが割れ、バシャッという液体の飛散る音がした。とどめにテーブルがひっくり返る振動が響いた。


 結局この一連の大騒ぎは、勉強部屋にいた四人がひとつの肉団子みたいにくっついて、終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る