僕らが犯人を許したのには理由がある

まきや

いつもの5人/名ばかりの勉強会



「おりゃーーー! くらえ、タイチ!!」


 イチヤの勝利の雄叫び。


「数字10枚重ね出し! か~ら~のおぉぉ、スキップ×4、リバース×3、VNOヴォノ、はい上がり!!」


「ま・ぢ・か!? ぐわぁぁぁぁ!」


 指をすり抜けて落ちる、タイチの残り一枚のカードと、断末魔の叫び声。少年の頭と肩がガックリと下がる。


「イェ~イ」


 スポーツ刈りのタイチの頭越しに、イチヤはボディビルのポーズで勝利を誇った。


「ねえ、もう少し静かにしてくれよ! 集中できないよ」


 生真面目なトシカズから、抗議が入った。


「二人とも休憩はそろそろ……ねえ、宿題を一番やらないと駄目な人、タイチなんだよ?」


 これまた優等生のマリアらしい説得が続く。


「わかった、わかった。あとひと勝負だけ!」


 タイチに反省の色はなかった。。


「はっ、はっ、はっ。受けてた~つ! ぞーんび、にゃ!」


 こちらも、はなっから遊ぶつもりのイチヤ。ちなみに最後の台詞を説明すると、イチヤはゲームのキャラ『猫娘ゾンビ』の大ファンだった。


 グダクダなやる気のおかげで、勉強部屋は一向に静かになる様子がない。


 そんなどうしようも無いやり取りを眺めながら、私は深い溜め息をついた。



 小学校からの幼馴染みたちが集まっているのは一戸建てのアイの自宅、二階の勉強部屋。


 あの『事件』のあと、勉強嫌いのタイチの成績が破滅的に落ち込んでいるのを心配したマリアが急遽、補習を提案し皆をここに召集したのだった。


 私はそんな暇ではないし、嫌だとアイに伝えたのだが、お目付け役にと言われ、強引にその場に座らされていた。


 まず、こらえ性のないタイチ元引きこもりが遊び出した。気がつけば真面目に勉強しているのは、タイチのサッカーチーム仲間の大人しいトシカズと、とにかく真面目で年上のお姉さんのようなマリアの二人のみ。


 もうひとり、この部屋の主人のアイはというと、ベッドに寝転んでケラケラ笑いながら漫画を楽しむ始末だ。


「や、やべえ……最初から鬼みたいな配役の悪さ……呪いだ、イチヤの呪いだ!」


「カードのせいにするなよな。今回配ったのはタイチだぞ」


「わかってるよ! うるさいな! くっそー何かこの部屋、暑くなってきたぞ! 窓開けるぞ、窓!」


「わ、わ、これどーなっちゃうの? 私の泥棒さま!! ちょっとドキドキ!!」


 みな勝手に喋っていて、見事なカオス状態。このまま勉強が進む雰囲気なんて、これっぽっちもなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る