世間話

「私あの子見たことあるよ」

「でしょうね」

「わ、私は…話したことはないかもぉ」

「そうなんですか」

「……」

「……」


 沈黙。重たくはないが、なんだか忙しい沈黙だ。


「やだこの沈黙重たいやつより耐え難い!!」


 最初に口を開いたのは、一番最初を歩いていた少女。


「ああああんたら二人がなんでここにいるのよ!?」


 そんなことを言われても、


「「「「どっちの二人?」」」」

「どっちもだ!」

「エインおねーちゃん、だいじょうぶ?」


 混乱するエインを心配し、手を掴む少女、パルチ。

 癒しだね。


「ええ、大丈夫」

「エイン、こういう時はな……一度考えるのをやめるんだ」

「キュオル!?しっかりして!?」

「あ、シエフ、椅子3脚お願いねぇ」

「はいはい」


 シエフが指をパチンと鳴らすと、ポンと音がして椅子が現れた。


「まあ、椅子だしレプリカでもいいでしょ」


 シエフの、夢……簡単に言い換えれば妄想を具現化する力。

 とは言っても、生き物や食べ物は出せないし、まず出しているのは本物ではない。もし拳銃を生み出したとしても、その引き金はビクともしない。つまり、切り取られた夢、具現化された物体は変化しないのだ。


「その、まあ。とりあえず座りなよ」

「ご丁寧にどうも……」

「シエフ、エインおねーちゃんたちとおともだちなの?」


 ちょこんと椅子に腰掛けたパルチは、じっとシエフの目を見つめて訊ねる。


「んー、まあ知り合いだね。ルーニやヤパも知っている人達だよ」

「そうなんだ!」


 いつもは伏せがちな目を大きく開いて、両手を口にあてる。この動作には穢れなど皆無なのだ。


「懐かしい名前ねえ」

「元素狩りより前に会ったきりだからな」

「……で、落ち着いたところで。あなた達の外見に関して、先程から気になっているんですが」


 エルシーがそう話し出すのを特に気に留めず、エインとキュオルも椅子に座る。


「どうして全く老いてないんです?というか随分とご長寿ですね」


 その瞬間、エインとキュオルは、脳に亀裂が入ったような衝撃を感じた。


「そこの二人、まさかとは思いますが」

「いや知ってたしぃ?知ってましたしぃ?気付いてましたよもちろんぅ?」

「むむ無ろ論んん」

「……」


 ため息をつく。


「二人とも、種族……種族?種族でいいかな。種族的に老いとは無縁なの」

「ちょっと待て」


 世間話のようなノリでスイジーが話すのを、エインが素早く停止させる。


「あなたがなにを言っているのか私よくワカラナイデス」

「パルチよくわからない」

「あたしもよくわからない」

「あれ?何だか私もぉ?」

「やめろ……なんかこっちまでわからなくなってきただろう!」


 一旦みんなが口を閉ざす。


「で、スイジー。さっきのことをエインにもわかるように」

「何だか解せないが頼むわ」

「えっ……、えっと、あ……だから、フィーミャは元から全く老いないけれど……、えっと」

「そこだぁ!」

「ぴゃ!」


 立ち上がり大声を出したので、スイジーは驚いて縮こまる。あざとい。


「ちょっとエイン、こいつを脅かさないでください」

「えっ、さーせん。でも、その……フィーミャが老いないってどういうこと?」


 そう言うと、スイジーはきょとんとした顔をする。あざとい。


「ふ、フィーミャは、えっと……元々、妖精と人間の間に生まれた半妖だった、から?」


 やはり世間話。スイジーはさも当たり前のように言っているが、本人のフィーミャすら驚いていた。


「あの、確かにそうなんだけどぉ、どこでそれを知ったのよ?」

「どこって、初めてあなたと会った時……」

「あの時に!?でも、私そんなこと一言も……」


 南西のとある島。そこで初めて出会った。

 自分の正体は絶対に明かさなかったはずだ。もちろん、自分以外に知っているものもいないはずだった。


 それなのに、彼女は自分を見た瞬間に気が付いたというのか?


「そ、その……聞く必要も無いかなと思って……聞かなかったの。でも、確かにそう感じて……フェルニーやルーニもそう思うって言ってたし……感覚的に」

「……まあ、詳しいことはさほど重要ではない。それで、どうして今の私が……老いと程遠い種族だと知っているんだい?君とは、例の出来事の後に一度も会っていないと記憶しているが」

「あ、と、あなたも……。いえ、とりあえず……まず、あの時あの島にいた者。わ、私が知っている限りでは全員……」


 その後に発せられた言葉は、この衝撃の荒波の中でも、特に大きいものだった。


『あの島』に無関係なパルチだけが、小さく首を傾げた。

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Elements まそほ @masoho118

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