安定主義
「ふう」
エルシーは溜め息をつく。
「あのコミュ障、もしそんな大事な隠し事してたらただじゃ済ましませんよ……」
「エルシー、どうかしたの?」
ビクゥと肩を震わせて驚く。いつの間にか後ろにスイジーがいた。
「ちょうどいい、あなたにお聞きしたいことがあったんです」
「へ?」
首を傾げるスイジーを無理矢理部屋の隅へ連行する。
「あ、二人とも、ちょっと待っててください。ね?」
「はい」
「はい」
その隠された威圧に、スイジーは気付かない。
「さて。今なら心は生かしておいてあげますので隠してる事を吐きなさい」
逃がすまいと足をすくませてくる恐ろしい形相。さすがにスイジーも察したようであった。
「な……い」
「私の前で嘘付けませんからねあなた。何かあるんですね」
「うぐ」
遠くから見ているフィーミャとシエフは、スイジーの怯え様を見てそっと合掌した。ハロゲンは怖い。
「そ、の、隠してたつもりはなくて」
「川」
「うっ」
「やっぱり。あなたがやけに沈んでいるから不思議だったんです。そういう事だったんですね」
「だって。わ、私のせいかもしれないから」
細々とした声を震わせる。
「さっき、聞いた。ハーミの人たちはいつもここの人たちに嫌がらせをするって。それに、さっき話した憎悪だって、あれはきっと私のせいで、」
「あなたのせいじゃない」
「でも、」
「だってあなた自身は何もしていないじゃないですか」
「……私は」
「大体あなたが責められることが間違ってるんですよ。思考を持たないものに責任転嫁するっていうのはもうどうにもなりませんけど、あなたにだって心はあるんですから」
「……」
流れ出る言葉に圧倒され、黙り込んでしまう。
「とにかく、私に変な隠し事しないでください」
「……」
「お返事は?」
爽やかな笑顔である。実に爽やかだ。
「はい……」
用意された選択肢はイェスだけ。
「それで、確かあなたは自分からこの依頼に関わったと記憶してますが……知っていたからですか?」
「それは……それだけじゃない」
「別に理由が?」
意外な言葉だった。
「そのことについて、あの二人に聞こうと思っていたのだけど……」
「?」
「ハーミのことを調べていたら、かつてここにあった研究所に行き着いたの」
「研究所ですか」
「そう。……あら、二人は」
「あ、あそこ」
気がつけば二人は離れた所、バルコニーに座っていた。
「あ、こっち椅子あるからおいでよー」
シエフに言われ、二階に上がる。と言ってもそう呼べる部分はバルコニーだけだが。
「座って座って」
促され、腰かける。
「二人に、聞きたいことがあるの……」
「なんだい?」
「昔、ここは人間のいる研究所だったの?」
二人は、驚いたように顔を見合わせた。どうやら本当のようだ。
「確かに、そうだった。私たちも協力していたよ。勘違いしないで欲しいのは、私たちは望んでここにいたってこと」
「珍しく、親切な研究者さんたちだったのよぉ。でもかの元素狩りのときにここも襲われてねぇ。みんな、私たちを逃がしてくれたのぉ」
「とても充実していて、素敵な暮らしだったわぁ。だから、心配するようなことはないの」
「……そうだったのね」
話を聞きながら、エルシーはぼんやりと、ここにも元素がいたんだなあと考えていた。
「でもそのときの傷跡っていうのかな……未だに残っているのは辛いことだね」
ハーミの者たちがここに住む者を嫌うのは、村が元素狩りに巻き込まれたからというのもあるだろう。
「それで結局……あっ!」
エルシーが突然声を上げる。
大事なことを伝え忘れていた。とっても大事なことを。
「その……えっと、さっき聞いたんですけど、ここの入口の建物が燃えているだとか」
「え?」
「なんだって?」
「あの廃墟みたいな建物です。燃えてます」
「はあああい!?」
「伝えるの遅いよ!?」
つい川のことに気を取られて、頭から消えかけていた。
「フェルニーが消火しているようですけど……うーん、というか私たちどうすればいいんでしょう?」
ここにいるのは敵ではない。ならば戦う必要も無い。
というかそもそも留まってなくてもいい。
「あ、待って!」
そこで叫んだのは、フィーミャ。
「他にも仲間が来ているんでしょう?ここには私たち以外の子もいるから、争いになっているかもしれないわ」
他の元素たちも、ここにいる集団が敵だと思ってやって来ているだろう。
争っていても何も不思議なことはない。
「確かにね。皆、そんなに凶暴な人達じゃないけ、ど……」
突然、シエフが硬直する。
三人はその視線の先を見る。
「あっれー?なんか広いところに出てき……」
目と目が合う瞬か
ごほっ、ちょっとプールみたいな匂いが、ごほっごほん。さて。
四人のいる部屋に入ってきたのは、見覚えのある二人……と思いきや、もう一人がぴょっこり顔を出した。
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