時間はこちらを見ない

「あの、近くに水はないでしょうか。出来るだけ多くの」

「えーと、うん、ある!マーキャンデリまで流れてる川が!」

「マーキャン、デリ……そういえば」

『今何て言いました?』

「あ、いえ何も!」

『本当ですか?』

「……」

『……』

「ま…マーキャンデリと、言いましたわ」


 ハーミの近くに川があるということは知っていた。しかし、歩いていくような距離ではない。現に村から離れて数十分は経つ。川があるのはそのさらに先。


 マーキャンデリとは、海に面する工業都市。

 川の上流にも、工場を作っていた。


「ですが、今回の件とは関係ないと思います。確かに森を抜ければ川ですが、随分と距離もありますからハーミの方々が利用しているというのは考えにくいです。そのような情報もありませんでした」

『そうですか』

「待って待って」


 遮ったのはメアリー。


「ハーミの人たち、昔水が足りなくて困ったことがあったんだ。小さな村での出来事だから記録には残っていないけど、その近くの川の水は使っていたんだよ。当時はあまりたくさんは運べなかったけれどね」

「……」

「機械化とか道の整備とか進んで最近はよく来るから、ハーミの人たちを警戒しているなら気をつけて行かないとだよ」

「その、昔というのはどれくらい前でしょうか」

「えーっと……」

「百十何年か前よ」

「あーそうそう、それくらい!」

「そうですか」


 しまった。

 彼女をここへ連れてきたのは失敗だったのかもしれない。いや、大失敗だ。

 関係がないと思っていたが、密接な繋がりがあった。


「……エルシー」

『はい、全て聞こえていました』

「も、申し訳ございません。わたくしの調査が甘かったばかりに……」

『えっ、あ、いえ、謝る必要は……ただ、あの様子だと知っていた可能性があります。わかりませんけど。とにかく、今は消火を。一旦切ります』

「……」


 プツリと通信が切れる。


「そうですね、消火を急ぎましょう……水を運びます。川まで案内していただけないでしょうか」

「あっ、は、はい!」


 早くやらねばならないことが、目の前にはある。反省をする時間は、後で取れば良い。

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