Elements

白黒赤

　ハーミ近くの森。

｢あんた、誰だい？｣

　そう声を掛けられた。

　フードで顔を覆っている者が後ろをつけていたのだから、そういう反応をするのも当然か。

｢こんな森奥まで……まさか、ずっとつけていたの？やん、お姉さん困っちゃうわ｣

　ウェーブのかかった長いブロンドヘアーの少女と、真っ赤なショートヘアの少女。

　もちろん。後を追っていたのは事実だ。

｢一体あたしらに何の用？聞くだけ聞いたげる｣

｢……貴女方が誰で、何をしているか、知りたくて｣

　隠す必要も無い。

｢ハーミの方々がこの状況で村を離れるとは思い難い。もしハーミの方だとしても、その目的を教えてもらいます｣

｢あんた、誰なのよ？｣

｢……｣

　警戒心の強い二人だ。何となくそう感じた。

　少々気が早い気もするが、大人しくさせた方が円滑に進む…か？

｢わたくし、｣

　スカートを持ち上げ、一礼する。

｢通りすがりの魔術師でございます｣

　足元に魔方陣を展開する。

｢なっ！｣

｢本当何なのよお！｣

　二人も素早く臨戦態勢にはいる。

｢鉄製の乙女たち、捕らえてしまいなさい！｣

　少々詠唱が雑だが、古い付き合いの術式は、しっかりと応えてくれる。魔法陣から、四つの棺桶が飛び出す。

　棺桶たちは口を開くと、二人を納めんと飛び回る。

｢ひい！何よこのホラー！｣

｢鉄製にしてはなんか堅いし、銃が聞かないじゃないか！もう！｣

｢本体狙え！｣

｢それだ！｣

　そう言ってブロンド少女が発砲するが、スカートの中から取り出されたフライパンに弾かれる。

｢Oh……！彼女のスカートの中はどうなってるんだ！？｣

｢それよりも銃弾を弾いた彼女の瞬発力とフライパンの耐久力を気にしなさいよ｣

｢わたくしのスカートは、別名四次元スカートでございますの｣

｢何それCOOOOL！！｣

｢あんたの感性本当理解に苦しむわあ｣

｢ふふ、それでお二方｣

　スカートの中から、金属バットを取り出す。

｢大人しくするか大人しくさせられるか、どちらかお選びくださいませ？｣

　彼女こそ、Elementsのラスボスことフェルニー様でおわしますのであった。

｢ふむ、なるほど。やはりそうでございましたか｣

　事の顛末を話すと、やはり否定された。

　二人はどうやら森の中に住んでいるようで、ハーミの人々からは煙たがられていたようだ。それが度を越して、執拗な嫌がらせなども過去にあったという。

｢濡れ衣なのよお。あいつら、あたし達を恨んでるみたいだし？｣

｢詳しいことはわかんないけどね、あたしらにゃ｣

｢それに関しましては、恐らく昔の……｣

　と、それを遮るように通信機が着信を訴え始める。

｢少々失礼しますわ。はい、フェルニーでございます｣

『エルシーです。何かフィーミャとシエフがいるんですけど』

｢……はい？｣

　思わず素頓狂な声を上げる。

『私にもよく分かりませんけど』

｢はあ、なるほど。こちらも二名ほどお話をさせていただいていまして、やはりこの依頼は｣

『真っ赤な嘘と』

｢ええ、そうですわ｣

　塩素の力で真っ白にしたいくらいに真っ赤です。

｢少しは良くなったがまだひねりが足りませんわ｣

『私、真っ赤にするのも得意ですよ？』

　ひいい厳しい怖い。

｢それで、エルシー。やはりこの村は……。あら？｣

　何となく振り返った瞬間、それは目に入ってきた。

『何ですか？』

｢火｣

　木々の向こうに、赤い火と灰色の煙が上っているのが見える。

｢え？｣

｢ねえちょっとお、あの方向ってまさか！｣

　赤髪の少女が走り出す。

　ブロンド少女とフェルニーもそれを追う。

｢……火事？なぜ？｣

『フェルニー、どうかしましたか？』

　火元に辿り着くと、そこではもはや、大きな炎しか見えなかった。近くに立っているだけで相当な熱が伝わってくる。

　あと少しでも近づけば、この状態を保てないほどの炎。

｢やっぱり！｣

　目の前で燃えているものの原型はもうわからないが、恐らく建物だろう。

｢ここは？｣

｢あたしたちの家。正確には家まで繋がる場所｣

　そう、そこは元素一行が入っていった廃墟。

｢巨大地下工場の入口よ｣

｢巨大地下工場？｣

　嫌な予感が頭をよぎる。

『フェルニー、あの？』

｢エルシー、あなた今どこにいるの！？どうやってそこへ！？｣

『えっ？えーと、どこかは知りませんが、廃墟みたいな場所から、魔術で地下へ行きました。もしかすると、先程聞こえた巨大地下工場かもしれません。』

｢廃墟｣

｢えっ？ああ……そうだ。ここはまるで廃墟のように見せていたかも｣

｢燃えています｣

『え？』

｢その廃墟｣

『えっ！？』