銀色の歌姫

「じゃあ始めようか」


 そう言うと少女は空中をなぞるように筆を動かす。

 するとそこにはしっかりと絵が描かれ、実体化してエインに襲いかかる。


「うおっと!」


 避けると、絵は地面に吸い込まれるように消えていく。再び襲いかかってくることは無さそうだが、すぐに新たな絵が描かれる。


「面白い力ね」

「汎用性には富んでいるんじゃないかな」


 銀塊をかわしながら返す姿には、余裕がある。


「でも、あたしだってちゃーんと戦えるのよ?」


 得意気に言うと、マイクを生み出し手に握る。


「それじゃあお客さん約二名!あたしの歌を聴きやがれ!」


 元気よく叫ぶと、一体どういう原理なのか曲が流れ出した。


「………」


 唖然とするベレー。

 しかしすぐに気を取り直すと、警戒する。


『眩しく光り輝くあなたの

 瞳はいつでも優しくて』


 魔法により奏でられる音に合わせ、カラフルな星がベレーめがけて飛び出していく。


「これは⋯⋯っ!?」


『桜舞い散る この季節に

 心奪われた』


 ベレーが放った絵さえも、触れた瞬間に弾け散るように打ち消される。明らかに銀ではなかった。


『何気ない日々 雑踏のなかで

 私は見つけた

 大切なもの 守りたいもの

 あなたの笑顔が好き』


「いやいや、こんなのってアリな訳?」


 ベレーは焦ったように呟く。リチェはそれを心配そうに見つめている。


「ベレー⋯⋯」


 小さな声は震えていた。


『何一つ変わらない世界で

 巡り会えた奇跡 信じたい

 教えてくれた煌めきを

 私も輝き始めた』


『近くて遠いよ もどかしい距離

 触れあう指の先から

 桜舞い散る この季節に

 勇気振り絞った』


「こりゃあ、勝てませんな⋯⋯」


 攻撃は全て弾かれ、星を避けるのにも限界を感じる。

 魔法だけで描いた絵では太刀打ちできない。せめて実体があるものならば…といったところか。


「なるほどね。私の弱点ってことだね」


 気づきもしなかった。というより、魔法を封じられたことがなかったのだ。


『銀色に光る 輝く想い

 伝えたい静かな想い

 桜舞い散る この季節に

 心揺らしてる⋯⋯』


 そんなベレーの様子を見て、エインは歌をやめる。


「どう?二番まで聴いてく?」

「いやいや、降参。それにこんな力、人間業じゃない」

「まあ、人間じゃないもの」


 なぜかどや顔で言う。


 リチェがぱたぱたと駆け寄ってくと、不安そうにベレーの後ろに隠れる。


「私もね、最初は、探してた。他の元素を。でも、旅を続けたかったんだ」

「Elementsに来たら旅ができなくなりそう。そう思った?」

「そう。危ないからって止められてね」


 苦笑いをしながら、天を仰ぐ。


「楽しかったなー、旅は。でももうおしまいか」

「そんなわけないでしょ、考えすぎよ」


 エインはふふんと笑う。なぜ彼女が得意気なのかはわからない。


「確かにうちのギルドのラスボスはおっそろしいけど。そんな鬼じゃないわよ。案外自由にやってるわよ、私たち」


 たまに脅されるけど。思い付いたように付け足す。


「じゃあ、旅⋯⋯しても良いにゅ?」

「もっちろん!と思う。ほぼ確実にね」


 リチェの目がキラキラと輝く。敵意は完全になくなったようだ。


「とりあえず、あたしはエイン。きらんきらんの銀よ!」

「あ、銀⋯⋯ああ。えっと、私はベリリウム。こっちがリチウムのリチェさ」

「なるほどやっぱりそうか。じゃあ、とりあえずギルドに来てもらうけど良いかしら?」

「まあ、そうするしかなさそうだしね」

「ベレーはいっつも諦めが早いにゅ」

「あはは、それ何十回目だってば」

(何十⋯⋯?)


 こうして元素界のアイドル(自称)エインは任務を見事に遂行した。


 今回出会った元素たちが友好的だったのが幸いしたのだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る