高エネルギーリン酸結合パワーっ!!

「ぴぃ?」


 独特な鳴き声をあげ、首を傾げるのはリンのスズ。

 スズという名前の、リンである。


 首を傾げた理由というのは、目の前に転がる荷物である。


「あの馬車から落ちてきた」


 ふむ。


 届けよう。



 馬車は港から離れ、高級住宅街へと向かっていく。


 スズは家の屋上を跳ねて渡り、追いかける。

 水素結合が切れたのかと思うくらいのパワフルさだ。


「固体に無理を強いますね⋯⋯」


 気体だったら風に乗ってスイーっと飛んでいけるのに。液体だったら液状になってスイーっと這っていけるのに。


 固体って、何だか不便⋯⋯?


「規則正しく並んでしまっているからですね⋯⋯!」


 置いていかれないように、頑張ってついていく。高級住宅街の屋敷たちは屋根が多いが、大体距離がえげつないので普通に追うことにする。


 先程は人がいる場所だったのでよく見える上から追いかけたが、人通りの少ないここなら平気だろう。


 やがて馬車は止まると、屋敷の前に来る。

 町長シャーロットの家だ。


(ぴ、ぴぃ⋯⋯疲れた)


 ぜえはあと息を切らしつつ、馬車に駆け寄る。


 中からは、金髪の綺麗な少女が出てきた。服装を見る限り、都会からやってきたのだろう。


 その後を続いて出てきたのは、上品な茶色のワンピースに身を包んだ黒髪の少女。

 暗い色の瞳は、光を吸い込んでしまうようなミステリアスな魅力を持っていた。


 こちらに気づくと、少し考えたあと、何かに気付いたようにハッとする。


「ごめんなさい、もしかして積み荷を落としてしまったのかしら」

「ぴ⋯⋯多分」


 紙袋には、なにか書類のようなものが入っている。

 本かもしれない。


「ありがとうございます、助かりました⋯⋯これを失くしていたら大変なことになるところでした!」

「いいえ、構わないのです」


 金髪の少女は90度腰を折る。態度を見る限り、黒髪の少女の方が身分が上なのだろうか?


「⋯⋯あなたは、ビアンカの方?」

「はい、そうです」


 そう言うと、黒髪の少女は微笑んだ。


「いい街ですね、ここは。みんな明るく、助け合っている」

「あなたはビアンカの人じゃないんですか?」

「そうですね⋯⋯よく来るけれど、住んでいるわけではありませんので」

「ぴい⋯⋯」


 少女は荷物を受け取る。


「ごめんなさいね、今持ち合わせが何も無くて⋯⋯後ほどお礼をさせてもらいます」


 ぺこりと頭を下げると、二人は屋敷の入口へ向かっていった。


 よし、なんとか目的達成。大切なものらしかったので、必死に追いかけた甲斐があった。


 それじゃあ、Elementsに帰ろう。

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