不思議な小包

 のんびりと紅茶を飲んでいると、ピンポンというチャイムの音がした。


「あら、配達のようですね」


 届け物などの時はチャイムを、普通の来客の時は、ベルを鳴らしてもらっている。


 そのため、中にいてもある程度は区別がつく。


「クロル様、お願いできますか?」

「わかりました」


 書類の整理をしているフェルニーに言われ、クロルは玄関へと向かった。


 扉を開けると、小包を持った青年が立っている。


「あら、シモンさん。いつもありがとうございます」


 よくElementsに荷物を運びにやってくる、顔見知りだった。


「こんにちはー」


 人当たりの良い爽やかな笑顔を浮かべる、真面目そうな青年だ。


 ささっと手続きを済ませると、まだ配達があるらしく駆け足で戻っていった。


「何でしょう」

「開けてみましょうか」


 包装を開けると、中から出てきたのは小包とメッセージカード。


 メッセージカードには、これが誰に宛てたものなのかが示されていた。



「スズー、いるー?」


 クロルは、Elementsの廊下を歩いていた。

 耳がピコピコ揺れるのも、尻尾がクネクネ揺れるのも、どちらも付けているので原理は不明である。


「ぴ?」


 目的の少女は、個室からぴょこっと顔を出した。


「あーよかった、渡したいものがあるの」

「ぴ⋯⋯」


 それは、紙の小包。


「見覚えある?」

「なくはないです」

「金色の髪、紫の瞳の子に渡してほしいって書かれててね。多分あなたかなーって思ったんだけど」


 スズは小包をじいっと見る。


 少しすると、こくんと頷く。


「私だと思います」

「よかった、じゃあ、はい」


 スズは小包を受け取ると、再び個室に引っ込んだ。


(やけに目を輝かせていたけど、中身は何なのかしら)


 クロルは、スズが中身ではなく小包自体にとても喜んでいたことを知らない。



 包装紙を破らないように、丁寧に開けていく。


 白い箱が現れる。開けてみると、そこには美味しそうなお饅頭。


「わあぁ⋯⋯!」


 キラキラした目の輝きが一層増す。


 まさか、わざわざElementsに送ってきてくれるとは。

 小包をよく見てみると、送り主の住んでいる町は、エルスメノス南部に位置する、大都会ミデレーリアらしい。


「⋯⋯ぴ?」


 ふと、引っかかるものを感じたような気がした。


「⋯⋯うーん、やっばり気のせいですね」


 嬉しさが、それをかき消した。

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