はぐれ者に救いの手を

 森での暮らしは、私にとって新鮮なものだった。


「君、虫怖くないんだね」

「何故恐れることがあるの?私たちの方が怖いでしょうに」


 小屋に迷い込んだハチを外へ逃がしながら、素っ気なく答えた。


「環境が変わって嫌がるものだと思ったけど」

「嫌がってほしいのかしら」

「遠慮しとくよ。君のワガママは一味違いそうだし」


 両手を上げてケラケラと笑う少女。


「暖かいベッドなんて、自分の体温で作れる。美味しい食事も安全な住まいも、自分で作れるものじゃない」

「意外だね。周りの人に任せてるイメージがあったんだけど」


 その幻想は、当然といえば当然。⋯⋯もしかすると、本当は間違っていないのかもしれない。私があまりにも姉に嫌われていただけで。


「自分のことは自分でできるわ、前からずっとそうしてきたし。元々私ははぐれ者だったからね。真面目すぎるってよく言われたわ⋯⋯、ただ面倒事に関わりたくなかっただけなんだけど」

「本当に消えれて、気分はどう?」

「清々しいわ」

「でも君は、そのペンダントを後生大事にしているみたいだ」


 首から下げている銀色のペンダント。美しい宝石がひとつ、ぶら下がっている。


 なんの宝石かは知らないが、どうでもよかった。

 宝石だって、食べちゃえばみんな同じよ⋯⋯毒があるかないかはさておき。


「これはお母様が、『私』にくれたんだもの」

「『君』に、ねえ」

「私の前世がどんなに疎まれた存在であっても、贈られた物を捨てるほど非情じゃないわ。それに、結構お気に入りなのよ?」

「そうかい」


 ペンダントを自慢げに見せつけた。


「じゃ、不満もないようだし、そろそろ木の実でも採りに行こうか」

「そろそろ無くなってきたものね。私、この森の木の実好きよ」

「高貴なお口にあったようで何より」


 わざとそのような言い回しをする少女だが、無視をした。

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