預言者到来
地面に生える草すら無い。土があらわになり、石ころがいつくか転がっている
辛うじて立っている木にしがみつく葉の色は黄色。茶色。一片、また一片と散っていく。
近づくだけで命を吸い取られそうな荒廃した土地。
それが、木を中心とした円のように広がっている。
「こ、これが、カーマンさんの言っていた⋯⋯」
「多分そうよね、あそこだけおかしい。周りは変わった様子はないわ」
警戒しながら、近付いていく。
荒れた円に入ろうとした、その時。
「止めときな」
背後からだった。
振り返ると、そこには女性が立っていた。
「そこに踏み入れば最後、生命を吸い尽くされるよ」
どこかの何千年も前の古い王朝にありそうな服を着た女性の声は、大人びている。
「お前さん達が⋯⋯例えば元素だとか妖精だとか、人間じゃない限りは構わないがね」
琥珀色の長い髪に、萌黄色の瞳。
「あなたは、一体⋯⋯?」
袖先を口にあて、ニヤリと笑う。
「私はフララ⋯⋯ただの通りすがりさ」
纏うオーラはただ者ではないことを十分に示していた。
「あ。あの、ちょっとこっちきてくれますか?」
「え⋯⋯?」
エインがけろりとした表情で言う。
「いいよー」
「いいの⋯⋯?」
スイジーは焦りながらその状況を見守る。
そして、フララと名乗る謎の女性がエインの横まで来た時。
「うおりゃあっ!」
蹴った。
「蹴った⋯⋯!?」
「へぶぼっ」
フララは、サークルの中へ吹っ飛ぶ。
生命を吸い尽くされている様子はなさそうだ。
「………」
「さて、あんたの話が本当なら、あんたは人間じゃない」
「や、やり方が豪快すぎる⋯⋯初対面の方に何ということを⋯⋯!」
控えめに突っ込むスイジー。もっと主張していいんだよ。
「くっ⋯⋯お前さんなかなかの策士だね」
たぶん違うとオモイマス。そんな声を心の中に反響させる。
「さあ、お前は何者だ!吐きやがれ!」
「わーっ、酷い、川にとびこんでやるー!未だ誰も行ったことのないビッグで豪快な爆発実験してやるー!」
「さてはお前、アルカリ金属だな!?」
「ひーっ、よくぞ見破ったー!!」
(たすけてえるしー)
場の空気についていけず、一言も発せなくなる。
「とまあ、さて、茶番はこれくらいにして」
「そうね」
「お願いだからそうして」
「お前さんたちが、アレか。この森の異変を調査しに来たっていう?」
「そうね」
「ふむ、Elementsか」
「そうね」
「そうかそうか、やっぱり私の直感に狂いはないな」
「そうね」
「…」
「私の直感、よくあたるんだよ」
「そうね」
「しかしまあ、これ以上被害が拡大することは無いだろう」
「そうね」
「エイン⋯⋯そこは流してはいけないところ」
「おおっと危ない、詳しく聞かせてもらいましょうか」
いくら元素同士とはいえやけに対応が雑な気がするが何故だろう。
「まあ、そのつもりで来たし。⋯⋯昨日の夜、私は、この事件の犯人を追っていたんだ」
服に着いた汚れを払いながら、フララは立ち上がる。
「奴の目的はわからんが、ここで何かをしていたよ。だから取っ捕まえて尋ねようと思ったんだがねぇ、何分逃げ足が速くて。流れ星みたいに消えちゃったんだ。私の力が至らんかったよ」
すまないねえと言いつつ、頭を搔く。
「⋯⋯術式は全て解除されてしまっているけれど、まだ魔力が少し残っている。生命力を吸うということは、自身の魔力だけでは足りなかったから⋯⋯?残った魔力の量から見て、そこまで力がない訳でもない。⋯⋯ならば、大掛かりな魔術を行使しようとした⋯⋯みたい⋯⋯」
「はえー、あんたそんなことまで分かるの?あたしはあんまり感じないわ」
「おや驚いた。彼女は魔術師なのかい?」
「そうよ、一応あたしもね。でもま、あたしは力が弱いから、あんまり魔力とか感じられないわけ」
「⋯⋯」
スイジーは、エインの言葉にどこか納得のいかなそうな顔をするが、本人は気が付いていない様子だ。
「⋯⋯それで、その犯人は……警戒して、どこかへ行ってしまったの?」
「……ハイ、恐らく」
「どこへ行ったかはわからない」
「………⋯ハイ、恐らく」
「ええー。まあいいわ、収穫っちゃ収穫だし」
「ハイ恐らく」
「ま、魔力が完全に消えれば、土地も、元通りになるはず⋯⋯この森の危機は去ったと考えてもいいでしょう」
「なーんかしっくりこないけど、犯人がいないなら帰るしかないわね」
やれやれと溜め息をつく。
「⋯⋯で?あんたは結局、どれ なわけ?」
「私かい?私はフランシウムさ」
にひひ、と妖しげな笑みを浮かべながら言った。
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