煉瓦の町フィスプ

 ビアンカの南側の近い位置。小さな森を挟んだ向こう側に、フィスプという町がある。


 別名、煉瓦の街。

 その名の示す通り、道や建物などには煉瓦が多く使われている。


 エルスメノス王国中を走る列車に乗って、二人の少女がフィスプへとやって来た。


「ふいー、着いたわね」

「え、えと、町長のカーマンさんが駅の近くにいるはず」


 エインとスイジー。二人は、フェルニーのご指名によるお仕事中だ。


「局地的に木が枯れる、ねえ。ふーむ」


 今回の依頼の内容は、フィスプ付近の森の木が特定の場所だけ枯れてしまうので、原因を調べてほしいというものである。

 詳しい話は、町長が直々に教えてくれるようだ。


 駅舎を出ると、噴水の近くに立っていた老人がこちらに手を振った。


 見た目の特徴は伝えていたようだし、フィスプの人の髪色はほとんどが濃いので、すぐにわかったのだろう。


「あの人よね」

「多分」


 駆け寄ると、老人は深々と礼をする。


「よくぞ来てくださいました。わたくしが町長のウェルズィ・カーマンです。ささ、是非わたくしの家へお越しくださいませ」

「ご自宅ですか?」

「ええ。今回の依頼は実は、私と近しいもので話し合った上での独断でもありまして⋯⋯」


 人差し指を立て、小声で言う。


 組織の中の個人名義の依頼は、よくある事だった。


 組織となれば人が集まる。その人々の中には、元素の介入を快く思わない者もいることがあるのは当然だから。


 町長の家は、駅前広場からそれほど離れていなかった。

 周りよりかは少し大きく見える屋敷であった。門を開けると、石畳の道がある。その両側には、植物が不規則な配置で育っている。

 形は整っているので、植物自体の手入れはされているようだ。


 そして、二人は屋敷の応接間に招かれた。


 壁にはフィスプの写真であろうものが飾られている。古いものから最近のものまで、年代はバラバラだ。


 クラッシックなソファに座るように促され、そのフカフカした感触の上に腰を下ろした。


 部屋には白い飾り枠のついた煉瓦の暖炉があるが、もう使う季節は過ぎ去ったため、しばらく使われた気配はない。


「すみませんね、わざわざ」


 ウェルズィも、失礼、と一言、反対側にある同じソファに腰掛ける。


「いいえ、お仕事ですので」


 誇らしげに胸を叩くエイン。スイジーは控えめに頷く。


「それでは、早速詳細をお聞かせいただいても?」

「はい。まず、フィスプの南側にある名もなき森。そこの木が、一部のみ枯れてしまったことはご存知ですな」

「はい。その後、そこには何の植物も育たなくなったと」

「その通りです。土を調べてみても異常はなく、特に異変はないようでした。しかし⋯⋯」

「明らかにおかしい。人智を超えている、と」

「そうなのです。どうすれば良いのかわからず、噂に聞いたElementsへとご依頼した限りです」


 ウェルズィの表情は、疲れているようだった。

 Elementsが、最後に残った頼みの綱なのだろう。


「了解しました!あたしたちが必ず解決してみせます!ね、スイジー?」


 スイジーは慌てながらコクコクと頷く。


「それはそれは⋯⋯どうぞよろしくお願いします」


 ウェルズィは、ほっとしたように微笑んだ。

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