Ⅱ.麗奈と執事

 黒塗りの高級車の後部座席から、麗奈は外の景色を眺めていた。ネオンの灯りが右から左へ流れていく。


 ほどなく、車は閑静な住宅街にある一軒の家の前で止まった。門には【売家】の看板が掛けられている。


「ここね? 橘」


 麗奈が後ろに立つ橘に確認をする。


「間違いありません。麗奈様」


 橘が綺麗な立ち姿勢のまま答えた。


「ストーカーに殺されるだなんて、最悪ね」


 麗奈が呟く。


「ねぇ、橘。この子は最期、どんな気持ちで亡くなったのかしら?」


 その言葉に、橘は少しばかり動揺し、そのすぐ後に笑みを零した。


「麗奈様になら、お分かりになるのではないでしょうか?」


 悟られないよう平常の声色で橘が返す。その言葉に、麗奈がフッと笑みを漏らす。


「意地悪な答えですこと」


 麗奈が門に手を掛ける。


「橘。アナタ怪我の具合はどうなの?」


「問題ございません。麗奈様」


「そう。……ならいいわ」


 キィィと甲高い音を立て、門が開かれる。橘が麗奈の前に進み、玄関の鍵をピッキングで開錠する。


「今度来るときは、静香も誘おうかしら」


 麗奈が誰に言うでもなく呟く。


「それは、良いお考えかと」


 橘が警戒しながらゆっくりと玄関の扉を開いた。


「ねぇ、橘。何だか私、少し気持ちが浮ついているようだわ」


 麗奈が家へと入っていく。


「とびっきりのヤツ、頂けませんこと?」


「承知いたしました」


 橘は麗奈の耳元に顔を近づけた。



「……ブタ野郎」



 麗奈の手に持った十字架が、パリッと音を立て放電した。

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