三
『タクシーに乗るのって結構難しいですよね?』
照美が明人に話しかける。
「いや、なんも難しくないやろ。乗って目的地告げるだけやんけ」
明人が照美にそう返す。
『そうですか? ほんならお手本見せてもらえますか? うちがタクシーのドライバーしますんで、あなたは客として乗ってきて下さい』
「まかしとき」
明人の合図で、二人はコント漫才の形に入る。照美はドライバーのフリをしてハンドルを握る格好をする。
「タクシー!」
明人が手を上げ呼びかける。
『……』
照美は呼びかけを無視している。
「タクシー!」
『……』
「おい、タクシー!」
『……』
「止まれや!」
明人が照美の頭を軽く叩く。
「止まらな話進まんやろ!」
『あぁ、すいません。もう一度初めからお願いします』
「頼むで、ほんま……。へい! タクシー!」
『はい、どうぞ。……五百円になります』
「なんの金や! チャージか? チャージでも取るんか? このタクシーは」
『しかし、お客さん珍しいですね』
「何がや」
『高速道路でお客さん乗せたの、私初めてですわ』
「わし今どこにおったんや! 高速で手ぇ上げてたんか? 頭おかしい奴やんけ」
『どこまで行きましょ?』
「あぁ。なんばの方向行ってくれや」
『あぁ、それはですね。諦めないことが肝心ですね』
「は?」
『一人、二人じゃ捕まらんことも多いですけど、諦めずに声を掛け続けるのがコツですわ。その日に飲みに行かんでも、電話番号だけでも聞いてですね……』
「それはナンパの方法や! おれが言うたのはなんばの方向や! 耳悪いんかお前! 耳鼻科でも行っとけや!」
『実家?』
「耳鼻科や! 耳鼻科行け言うとんねん! なんやコイツ」
『それよりお客さん、この前幽霊やと思ったらただの酔っぱらいの客やったって話、今からしますね』
「はぁ?」
『あれは、夏の暑い日でしたわ。夜の遅い時間に走ってましたら、暗い道で手を上げてる女性がいましてね』
「おい」
『ちょうど客も乗せてなかったんで、ラッキーやなぁ思って乗せたんですわ。でもね、その客が変な客でしてね。髪の長い女の人で肌は雪のように白くてですね。どこいきます?って聞くと小さい声で、とりあえず出してって言うんですわ』
「あのな」
『ほんでしゃーないから車を出したんですが、なんか気持ち悪くなったんでバックミラー見ると、お客さんの姿がないんです! うわー、幽霊やー、思ってふと座席の下見ると、酔っ払ってただ寝てただけだったちゅう話ですわ。どうです? びっくりしました?』
「知ってたわ! お前一番最初にネタバレしとんねん! なんの驚きもなかったわ!」
『あ、お客さん、着きましたよ』
「おう、なんば着いたんか?」
『いえ、耳鼻科です』
「耳鼻科かよ! もうええわ!」
――明人が大きく照美にツッコミを入れた。
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