『タクシーに乗るのって結構難しいですよね?』


 照美が明人に話しかける。


「いや、なんも難しくないやろ。乗って目的地告げるだけやんけ」


 明人が照美にそう返す。


『そうですか? ほんならお手本見せてもらえますか? うちがタクシーのドライバーしますんで、あなたは客として乗ってきて下さい』


「まかしとき」


 明人の合図で、二人はコント漫才の形に入る。照美はドライバーのフリをしてハンドルを握る格好をする。


「タクシー!」


 明人が手を上げ呼びかける。


『……』


 照美は呼びかけを無視している。


「タクシー!」


『……』


「おい、タクシー!」


『……』


「止まれや!」


 明人が照美の頭を軽く叩く。


「止まらな話進まんやろ!」


『あぁ、すいません。もう一度初めからお願いします』


「頼むで、ほんま……。へい! タクシー!」


『はい、どうぞ。……五百円になります』


「なんの金や! チャージか? チャージでも取るんか? このタクシーは」


『しかし、お客さん珍しいですね』


「何がや」


『高速道路でお客さん乗せたの、私初めてですわ』


「わし今どこにおったんや! 高速で手ぇ上げてたんか? 頭おかしい奴やんけ」


『どこまで行きましょ?』


「あぁ。なんばの方向行ってくれや」


『あぁ、それはですね。諦めないことが肝心ですね』


「は?」


『一人、二人じゃ捕まらんことも多いですけど、諦めずに声を掛け続けるのがコツですわ。その日に飲みに行かんでも、電話番号だけでも聞いてですね……』


「それはナンパの方法や! おれが言うたのはなんばの方向や! 耳悪いんかお前! 耳鼻科でも行っとけや!」


『実家?』


「耳鼻科や! 耳鼻科行け言うとんねん! なんやコイツ」


『それよりお客さん、この前幽霊やと思ったらただの酔っぱらいの客やったって話、今からしますね』


「はぁ?」


『あれは、夏の暑い日でしたわ。夜の遅い時間に走ってましたら、暗い道で手を上げてる女性がいましてね』


「おい」


『ちょうど客も乗せてなかったんで、ラッキーやなぁ思って乗せたんですわ。でもね、その客が変な客でしてね。髪の長い女の人で肌は雪のように白くてですね。どこいきます?って聞くと小さい声で、とりあえず出してって言うんですわ』


「あのな」


『ほんでしゃーないから車を出したんですが、なんか気持ち悪くなったんでバックミラー見ると、お客さんの姿がないんです! うわー、幽霊やー、思ってふと座席の下見ると、酔っ払ってただ寝てただけだったちゅう話ですわ。どうです? びっくりしました?』


「知ってたわ! お前一番最初にネタバレしとんねん! なんの驚きもなかったわ!」


『あ、お客さん、着きましたよ』


「おう、なんば着いたんか?」


『いえ、耳鼻科です』


「耳鼻科かよ! もうええわ!」


 ――明人が大きく照美にツッコミを入れた。

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