十四

甲高いブレーキ音が辺りに響き、その後に金属の衝突音が続いた。


 くるくると人体が宙を舞う。体操競技であれば高得点間違いなしの高さと回転であった。


 目撃していた女性から耳をつんざくような悲鳴が上がる。辺りにいた人々も何事かと振り返る。


 ――今回は早くて助かったな。


 近くにいた男は白い歯を見せ一人ほくそ笑む。前回の失敗を取り戻したと言わんばかりに。


 ――あの金髪男さえ帰って来なければ、水商売女の情魔も手に入っていたのに。


 男は軽く奥歯を噛みしめた。


 ――情魔を回収するどころか、共感石まで拾われてしまうなんて。


 男の周りは騒然としていた。轢いてしまったトラックの運転手は「コイツが急に!」と誰に言うでもなく叫んでいた。野次馬達は次々にスマホのカメラのシャッターを切る。嬉々として友人たちに報告するのだろう。


 トラックに轢かれた人物は、糸が切れた人形のように地べたにせって動かない。そのうち、地面に血だまりが広がるのが見えた。


 ――そろそろか。


 男がコートのポケットに手を入れ、小さな機械を取り出す。手のひらサイズのそれは、新型の電子タバコのようにも見える。


 地面に寝そべって微動だにしないその身体から、黒い影が溢れ出した。見えているのは機械を持った男だけのようだ。


 ――さぁ、おいで。僕と一緒に強くなろう。


 男がスイッチを押すと、影は誘われるように男へ向かい、そのまま機械へと吸い込まれた。

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