八
――サイトウさん、今しかないですよ!
サラリーマン風の男がしゃべっている。
――確実に儲かる銘柄! 限られた人にしかお話ししてない内容ですんで!
男が熱弁を振るう向かいに、中年の男性が腕を組んで唸っていた。
――うーん。でもなぁ。うちの会社も今そんなに余裕ないしなぁ。
――余裕がないからこそですやん! 大丈夫です。これに投資してれば、半年後に
は二倍になって返ってきますんで! サイトウさんの工場も、新しい設備入れたほうがいいでしょ?
男は貼り付けたような笑顔で中年に向かい書類を差し出す。
――うーん。ミカミくんがそこまで言うなら。……ほな、三百万だけな。
――さすが! 一国一城の主は決断力が違いますな!
――どういうことや!
中年男性が電話口に向かって叫んでいる。
――絶対間違いないっていう話やったやろ!
怒りで顔が真っ赤に染まっている。
――そんなこと言われましても、投資に絶対はありませんからねぇ。
電話の先から男の飄々とした声が聞こえてきた。
――それよりサイトウさん。ここまで下がったら
――ふざけんなよお前! この期に及んで追証やと!
――落ち着いてくださいよ、サイトウさん。このままやったら投資した分の三百万、丸々損しまっせ。……せや! サイトウさん、この商品はいったん損切りしてしまって、別の商品紹介しますわ。……これはほんまに秘密のやつですんで。
――お前、そんなこというてまた騙す気ちゃうやろな!
――サイトウさん、いつ僕が騙しました? 大丈夫、損した分もこれで全部取り返しましょう。
がらんとした天井の高い建物内に、中年男性は一人立っている。元々は工場だったのか、所々になにかの工具や機械の残骸が散らばっているのが見える。
男は焦点の定まらない目で空虚を見つめていた。
――失敗した。失敗した。失敗した。
小さな声で呟いているのが聞こえてきた。
――取り返さな。もう無理や。取り返さな。もう無理や。
男の目から涙が溢れてきた。
――もう無理や。もう無理や。もう無理や。もう無理や。
男はドアの取っ手にビニール紐を結びつけた。
明人は思わず目を瞑るが、イメージは構わず瞼の裏に映りこんでくる。
男は輪っか状に結んだ紐を自身の首に巻きつけると、そのまま力なく崩れ落ちた
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