ようやく自身の力で歩けるまで回復した明人は、前を行く少女について歩いていた。


「な、なぁ。どこ行くんや?」


 明人は不安気に問いかける。話したいことがあるからと少女についてくるよう言われ、わけもわからないまま、ネギを振りながら歩く少女の後を追っている状況だ。


「いいから、ついて来て」


 少女は振り返りもせずに答える。


「いいからって……。てか、君は誰? さっきのあの気持ち悪いのはなんなん?」


 明人は少しでも情報を得ようと早口で問いかけた。少女は立ち止まり明人の方へ顔を向けた。


「私はサンディー。さっきの気持ち悪いのは【情魔じょうま】って私たちは呼んでる。……てか、アンタ情魔見るの初めてやったん?」


 サンディーと名乗った少女は、疑いの目を向けるように目を細めて明人を見た。


――サンディーって。見た目日本人やのにえらい欧米風の名前やな。と心の中で明人は思う。


「初めてもなにも……。あんなん見える能力あったらイケメン高校生霊能力者としてテレビ出てるわ」と答える明人に対し「……ハッ」と鼻で笑っただけのサンディーは、踵を返しまた歩き出した。


――いや、なんか言えよ!


 明人は少しの苛立ちを覚えつつも、彼女の後をついて行った。


「着いたで」


 どのくらい歩いただろう。繁華街からはとうに離れ、辺りに住宅が立ち並ぶ場所へ入ってしばらくした頃、サンディーが突然立ち止まった。


「ここ?」


 サンディーが指さしたのは、二階建ての古びた一軒家だった。しかし、玄関の横にはデカデカと【高橋感情研究所】という看板が立てかけられていた。


「えぇ……。なんか、胡散臭いとこやな」


「人の家見て胡散臭いとか失礼やな、アンタ」


 サンディーは睨みつけるように視線を送ると、そのまま門を開け中に入っていく。明人も釈然としないまま後を追った。


「ただいまー」と引き戸の玄関を開けたサンディーが声を上げると、家の奥から白衣を羽織った老人が顔を出した。


「あぁ。お帰り、サンディー」


 サザエさんの波平を白髪にしたようなその老人は、口元の髭をさすりながらにこやかに答えた。


「あれ? その子は?」


 老人が明人に気付き声を上げた。


「まさか! 照美てるみ! 彼氏か? 彼氏なんか? 彼ピッピか!」


 うろたえる老人の頭をサンディーが力強く叩きこむ。


「そんなんちゃうわ! 色ボケじじい! それと、本名で呼ばんといてって言うてるやろ!」


 そんなやりとりを明人は少し後ろから眺めている。


――なんやこいつ。サンディーってニックネームかよ。ってか、照美って。太陽が照るからサンディーか。……恥ずかしないんかよ。


 そんな明人の心の声が聞こえたのか、自称サンディーこと照美が明人を睨みつけた。


「……文句あるんか?」と凄む照美に対し「……いや、別に」と明人は肩を竦めるほかなかった。


「ほんで、その子は誰なんや?」


 白髪の波平が二人の顔を交互に見て問いかけた。

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