第25話 黒魔兵器の秘密(前編)

 翌朝、いつものように朝食の食材を買いに村に行く。

 武装した人間が村にやってくる姿が見えた。


 武装した人間の恰好には見覚えがあった。教団のアジトを襲った聖騎士だった。

(何で、ここのアジトが露見したんだ?)


 裏切り者、の言葉が浮かんだ。馬を貴族の別荘まで走らせる。

 地下室に行き、緊急事態を告げる。


「近くの村まで聖騎士が来ている。ここがばれたかもしれない」

 アイロスが狼狽うろたえる。


「また、聖騎士か。事前に情報は入らないとは、どうなっているんだ?」

「聖騎士が査察に入る場合、事前に情報があるのか?」


「聖騎士といえど、貴族の館や他宗派の寺院に査察に入るには軍の許可が要る。軍上層部と我らは、繋がっている。なので、事前に情報が漏れてくるのだ」


(これは教団内に裏切り者がいるな。だが、誰だ? いや、今は、裏切り者を探している場合ではない)


「状況はかなりまずいな。とりえず、重要な資料だけ持って退避してくれ。最悪、この施設は俺が破壊する。ここには、もう戻れないと思ってくれ」


 アイロスが悔しがる。

「惜しいがしかたない。よし、総員、重要資料を持って退避せよ」


 研究者が資料を鞄に詰める間に、フィビリオは荷馬車に馬を繋ぐ。

 大事な品を載せて、荷馬車が出発する。研究員も走って荷馬車を追った。


 フィビリオは地下室の入口を、魔術のミレニアム・シールで塞いでおく。

 全てをやり遂げて、館の正面玄関に鍵を掛けた数秒後に、玄関扉を叩く音がする。


「開けろ。聖騎士だ。この館に住む者に話がある」

 フィビリオはすぐに出て行かずに、数分の間を置く。


 いよいよ扉を叩く音が激しくなった辺りで、やっと扉を開ける。

 フィビリオは今まさに寝起きのような演技をする。


「何です、こんな朝早くに? こっちは友人たちが帰って、やっと一息吐いたところだっていうのに」


 聖騎士が書類を示して、厳しい顔をする。

「この屋敷が邪教の者のアジトになっていると、通報があった。国王の名の下に調べさせてもらう」


(国王のお墨付きまで用意してくるとは、念の入った対応だ)

「調べるのはいいですけど。ここは借り物の別荘ですよ。昨日まで友人たちと、わいわいと遊んでいました。邪教の人間なんて、いませんぜ。隣と間違えたんでしょう」


「それは我らが決める」と聖騎士は厳しい顔で告げる。次々と聖騎士が入ってきた。

玄関から外を見る。人員輸送用の馬車に馬、それに物資を載せた馬車。聖騎士と応援の兵卒。捜査は二百人態勢と壮大なものだった。


(これは立派だ。これで何も出なかったら、責任者の首が飛ぶような壮大さだ。逆に言えば、それだけ自信があったんだな)


 フィビリオは聖騎士が二百人いても勝てる自信はあった。だが、二百人を斬るつもりはなかった。二百人が逃げに転ずれば、一人や二人なら斬り逃す可能性があった。


 逃げた人間から情報が伝わる展開を避けたかった。

 フィビリオは玄関から離れようとする。すると、聖騎士に呼び止められる。


「おい、どこに行く?」

「どこって、昨日の残りのシチューを温めて、喰うんですよ」


「駄目だ。勝手な行動は、許さん。大人しくしていろ」

「もう、こっちは邪教の住処だなんて言われて、いい迷惑なんだよな」


 フィビリオはいかにも迷惑そうな顔をして玄関で座っていた。

 すると、家の中から兵卒が外に駆けてゆく。兵卒は立派な兜を被った聖騎士に、何やら告げる。


 現場が慌ただしくなり、工兵と魔術師が家の中に入っていく。

(アジトが見つかっちまったな。吹き飛ばすしかないか)


 フィビリオが決心した時に、聖騎士が勝ち誇った顔で話し掛けてくる。

「家の地下のワイン蔵で怪しい封印が見つかったぞ」


(腕のよい工兵か、スカウトがいたか。お見事と褒めてやりたいね。だけど、封印を解くのは大変だぜ。何せ俺が掛けた魔法だ)


 フィビリオはとぼける。

「ワイン蔵? さあ、あそこには何回か入ったけど、怪しい封印なんて、なかったなあ」


「誤魔化しても駄目だ。魔術師が封印を解除している。すぐに証拠は挙がるぞ」

「だからあ、知らないものは、知らないんですって。それに、俺が魔術師に見えますか? 見えないでしょう。封印なんか、できっこないんですよ」


 時間が経つが報告は上がってこない。

 聖騎士は苛ついていた。すると、兵卒が駆け込んでくる。


「報告します。地下の封印ははなはだ堅固なため、解除は不可能でした。よって爆破処理します」


(力技で来たね。地下室は入口しか封印していない。広範囲に爆破されると、上から侵入されるな)


 聖騎士が乱暴に命令する。

「よし、お前も来い。証拠を突き付けて逮捕してやる」


 屋敷から少し離れた場所に連れ来られる。フィビリオは縄で縛られていなかった。

 聖騎士たちが見守る中、火薬樽が運ばれる。


「退避せよ、の合図で大勢の兵士や聖騎士が屋敷から出てくる」

(俺もやるか)

「歩方・飛空脚&雷鳴閃」


 飛空脚は空を飛ぶがごとく高くに飛び上がる技。雷鳴閃と組み合わせれば瞬時に上空に上がる。フィビリオほどの達人であれば、三秒と掛からずに上空二百mに達する。


「魔術・マジック・セイバー」

 地上で、ぼん、と火薬の破裂音がした。


 その直後に、フィビリオは館を目掛けて剣技を発動させる。

「剣技・大爆震突き」


 フィビリオは館に急降下して屋根を突き破り、そのまま地面に達する。

 魔術で作った青い剣が地面に触れると波紋が発生して、大きな地震が起き、地面が下に陥没する。


 フィビリオは館が破壊された時に立つ土煙を利用する。

「歩方・飛空脚&雷鳴閃」


 今度は飛び上がり、館から離れた位置に降り立つ。そのまま魔法の剣を消す。

 フィビリオが飛び上がってからアジトが破壊され、姿を消すまで、十三秒だった。


 「何だ? 何が起きたんだ?」と館の崩落により辺りは騒然となっていた。

 だが、誰も上空からの突き技で館が崩落したとは思わなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る