第17話 不死将軍誕生
荒野の中に偉人の霊廟と呼ばれるダンジョンがある。
霊廟は王族やその近親者を埋葬するために作られたものだった。施設は五十年の歳月を掛けて作られた。だが、今やかつての栄華はなく、アンデッドが
霊廟の最深部地である地下六階に武神とフィビリオはいた。
武神とフィビリオは古びた応接室で、死の王であるアッティラを待つ。
武神が心配した顔でフィビリオに尋ねる。
「どうしたの? 顔色が悪いわよ。アンデッドの放つ邪気に酔うとは思えないけど。アンデッドが多数徘徊する場所は駄目なの?」
「そうじゃないんだ。偉人の霊廟に来るのは初めてじゃないんだ。死の王のアッティラも知っている」
フィビリオは正直、今回の仕事は乗り気ではなかった。なぜなら、フィビリオはレベル三十からのレベル上げを、偉人の霊廟でしていた。
アッティラが丹精込めて作ったアンデッドを、経験値のために大量に破壊していた。破壊したアンデッドの数は千や二千ではない。また、アッティラも経験値を得るために、三度も殺している。
(やべえな、怒っているかな。あんだけ、アッティラの財産たるアンデッドを鬼のように壊しまくったからな。アッティラを本人も経験値のために殺したからなあ)
フィビリオの過去を知らない武神は素っ気なく返す。
「偉人の霊廟も死の王のアッティラも、有名だからね」
そこまで口にすると、武神もさすがに気が付いた。
武神は納得がいった顔で指摘する。
「わかった。もしかして、フィビリオは偉人の霊廟から宝を持ち出したんでしょう」
「すまん。少しだけ、持って行った」
嘘だった。ごっそり持って行って、良い装備を買っていた。
武神はしょうがないとばかりに説教する。
「冒険者だったのだから、ダンジョンの主と敵対する関係はしかたないわ。盗んだ財宝を弁償しろとも命じない。だけど、アッティラさんが怒っていたなら、謝るのよ」
(謝るだけで済めば、いいんだけどな。今は俺が圧倒的に強いから倒せる。けど。依頼人を斬る行為はさすがに武神が怒るだろうな)
応接室の扉が開く。フィビリオを出迎えたのは強力なアンデッドの死の王であるアッティラだった。
アッティラは骨と皮だけになった体に、黒いローブを着た姿をしている。だが、アッティラの魔力は強大で、力の弱い者は見ただけで命を失う。
もちろん、武神やフィビリオのクラスになれば何の影響も受けない。
武神が微笑んで挨拶する。
「初めまして、アッティラさん、私は武神。それでこっちのが、アッティラさんの代わりにダンジョンを守るフィビリオです」
アッティラがじっとフィビリオの顔を見る。
「何か?」と内心ドキドキしながら白々しく訊く。
アッティラが不思議そうに聞き返す。
「それは私のセリフだよ。あんたが意味ありげに
(えっ、あれだけ、無茶苦茶にダンジョンで暴れたのに、覚えてないのか? 俺だったらかんかんになって、一生ずーっと覚えているけどな)
隠してもよかった。だが、アッティラがどの程度の記憶力の持ち主なのか、気になった。
「私は昔、冒険者をやっていた過去があるんです。それで、この偉人の霊廟で少しばかり悪さをしました。その、アッティラさんが、気を悪くしていないかと思いまして」
アッティラは首を傾げる。
「はて、憎っくき冒険者の顔ならたいてい覚えているがのう。お前さんの顔は全然、覚えておらん。まあ、多少であれば昔のいざこざは些細(ささい)な悪戯(いたずら)として許そう」
武神がほっとした顔をする。
だが、フィビリオはアッティラの言葉を疑った。
(多少って、アンデッドが鮨詰めの状態のダンジョンを、すっかすっかになるまでアンデッドを破壊して経験値に変えたたんだけどな。お宝もごっそりいただいた。本当に覚えていないのか?)
「本当ですか? 本当に、この顔に覚えがないのですか」
「知らん」とアッティラは澄ました顔で即答した。
アッティラの顔は嘘を
(アッティラの記憶力はよくないな。もしくは少し
フィビリオは気が楽になった。
「許していただけるのならありがたい。では、しっかりと働きましょう」
(こいつは、昔レベル上げをさせてくれた恩返しをしないとな)
アッティラは
「では、休むとしようかの。後はよろしく頼む。スケルトンやゾンビのような低級アンデッドは壊されてもいい。だが、アンデッド・ナイトのような高級アンデッドは冒険者に壊されんようにしてくれ。計画に支障を
気になったので尋ねる。
「計画って何ですか?」
武神が素っ気ない態度で教えてくれた。
「アッティラさんはアンデッドの大軍を指揮して街を襲う計画があるのよ。今回の休養は街を襲う力を回復させるためよ」
(またかよ。本当に悪の教祖とか悪の魔術師って、アンデッドで街を襲うのが好きだな)
アッティラは
「アンデッドの軍団の弱点は指揮官だ。低位のアンデッドは指揮が執れない。だから、アンデッド・ナイトのように作るのが手間で、指揮能力があるアンデッドを壊されたら困るんじゃよ」
(つまりは、アンデッド・ナイトが今回の作戦の要か。これは死守だな)
「わかりました。全力でお守りします」
古いミスリル銀でできた指輪を、アッティラは渡してきた。
アッティラが真面目な顔で説明する。
「アンデッドに命令するために私が作った指輪だ。私が眠っている間に冒険者から霊廟を守る際に使いなさい」
「わかりました。有効に活用させていただきます」
アッティラが部屋を出て行く。
武神が何もない空間から鎧と剣を取り出す。
「不死将軍の鎧に、不死将軍の剣よ。これを装備していると、体からアンデッドと同じオーラを出すわ」
「つまり、おれはアンデッドの真似をするのか?」
(これを着たら、完全に冒険者は俺を敵と思い込むわけか)
「偉人の霊廟にはアンデッド・モンスターしかいない建前になっているからね。人間が偉人の霊廟を守っていたら、おかしいのよ」
剣と鎧から何か嫌な気配を感じた。
「装備するのはいいけど、この鎧は何か
武神がさらりと言ってのける。
「呪いが掛かっているからね。でも、フィビリオの力なら、呪いに負ける事態にはならないわ」
「何か、呪われている鎧って着るのが嫌だな」
武神は笑顔で勧める。
「でも、不死将軍の鎧は優れものよ。不死将軍の鎧を着ると、食わない、飲まない、寝ない、トイレに行かない――で、ずっと戦い続けられる状態になるのよ」
「まさに、アンデッドたちの将軍になるんだな」
フィビリオは鎧を着る。サイズを測ったように、ぴったりだった。
完全武装したフィビリオを、安心した顔で武神が見る
「ぴったりね。さあ、これで、最深部の守りは大丈夫ね」
「待て。俺は最深部で敵を迎え撃つような真似はしない。せっかく、二十四時間ぶっ続けで戦えるのなら、俺は冒険者が必ず通る一階玄関の前で冒険者を迎え撃つ」
武神の顔が非難がましく歪む。
「それって、ラスボスが最初に配置されている状況?」
「そうだ。アンデッドはアッティラさんの財産だ。一体たりとも破壊させない」
武神は感心しない顔をしていたが、了承した。
「フィビリオの発想はダンジョンとしてどうかと思うけど、今はフィビリオがここの管理者だから、好きにしたらいいわ」
かくして、一週間限定で誰も倒せないボスが一階に配置されたダンジョンが誕生した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます