第13話 海賊たちの挨拶(後編)
海賊王の館は島の中央にあった。館は一階が酒場と直結している。黒髭は静かな環境より騒がしい環境を好んだ。なので、酒場内に特別席を作り、寝る時以外の大半を酒場で過ごしていた。
フィビリオが酒場に入って、黒髭愛用の椅子に腰掛ける。
注文を取りにやってきた、半分裸に近いウェィトレスに蜂蜜酒と胡桃(くるみ)を頼んだ。
酒場にいる海賊たちは気にしない振りをしている。だが、誰しも黒髭の代理として海賊島を任されたフィビリオに興味あるようだった。
(視線が気になる。だが、館の客間に引っ込むってのも、馬鹿にされそうだしな)
適当な読み物を読みながら時間を潰していると、ウェイトレスがやってくる。
「フィビリオ様。ご夕食は、いかがいたしましょうか。今日は美味しいベーコン、それに活きのよい鰹とロブスターが手に入っておりますが」
(海鮮が食べられる環境は、この仕事の役得だな。海賊王が食べていた海の幸か。さて、どんなんだろう楽しみだ)
フィブリオは浮き浮きした気分で指示を出す。
「なら、鰹はカルパッチョと焼き物にして、ロブスターも出してくれ。あと他にも活きがよい魚介があるなら頼む」
「では、当店自慢のブイヤベースもお出しします」
フィビリオは心が上向いた。
(せっかく海にある港町だからな。魚を食わない手はないだろう。海賊風のブイヤベースか。期待するぜ)
気分よく夕食ができるのを待つ。
ロブスターの味噌で
(海賊には濃い味が好まれるのか。よく汗を掻き、酒を飲むからな。少し塩気が強い気もするが、これもまた良しだ)
鉄の皿に盛り付けられたパエリアが出てくる。
パエリアには浅利、ムール貝、ロブスター、カサゴ、メバル等の魚介がふんだんに盛り付けられ、サフランもたっぷり使われた料理だった。
(来たね、期待のブイヤベース海賊風だ。海賊風は香辛料を惜しまなく使うんだな。サフランんやらブラック・ペッパーの臭いがぷんぷんする)
さっそくいただこうとして、スプーンで一口掬う。
口に入れる前に、飯からよからぬ気配を感じた。
(飯から人の迷いのような気配が漂うな。このブイヤベースは訳ありだな)
スプーンを降ろす。具材を分けてじっと見る。異変はない。
(見た目に異常はないんだが、このブイヤベースはから異変を感じる。何がおかしいかと言われれば、これ、とは指摘できない。だが、何か変だ)
「おい、そこのお前、このブイヤベースを作った料理人を呼んで来い」
フィビリオが怒鳴って酒場の一角にいた海賊に命じる。
「はい」と海賊はびっくりして、厨房に行く。だが、すぐに戻ってくる。
「料理人のクルトがいません」
(これは、やられたな。毒か?)
「お前ら全てに命じる。クルトを探してこい。一時間以内だ」
フィビリオが殺気を出して怒ると、酒場の海賊たちは慌てて酒場からいなくなった。
一時間と命令したが、十分で海賊たちは戻ってきた。
白い料理人の衣装に身を包んだ、ひょろっとした二十くらいの男性を、海賊は捕まえてきた。
「お前がクルトか。ここに呼ばれた理由はわかるな」
「いえ、さっぱり」とクルトがおどおどした顔で告げる。
「そうか。なら、お前の作ったブイヤベースを、食ってみろ」
クルトは、おそるおそる進み出る。
スプーンでブイヤベースをそろそろと一口分だけ掬い、口に入れる。
次の瞬間、クルトはブイヤベースを吐き出した。
「どうした、クルトよ。まだ、ブイヤベースはたっぷりと残っているぞ」
クルトは涙目になって、震えながら答える。
「食えません。これには、フグの毒が使われています」
(やはり、毒か。剣で殺せないなら、毒とは安易な手だ)
「ほう、お前はブイヤベースに毒を盛ったと認めるんだな」
クルトは蒼い顔で身震いして弁明する。
「違います。私の仕業じゃありません」
(このあからさまな態度、何か知っているな)
「クルトよ。一度だけ訊こう。誰に頼まれた?」
クルトは項垂れて告白する。
「海鳴り海賊団のブルクハルトです」
「おい、ブルクハルトはどこにいる」
フィビリオが叫ぶと、ちょうど酒場に戻ってきた海賊が答える。
「海鳴りの奴らなら港で見ましたぜ。船を出すところでした」
(俺の期待のパエリアを駄目にしやがって、タダでおくものか)
フィビリオは剣を掴んで港に走った。港に着いた時に大声を出す。
「海鳴り海賊団の船はどこだ!」
海賊の一人が海を指さす。船は海に出ており、一㎞ほど先にいた。
「逃がさん。歩法・海面走」
フィビリオは海上を走って追いかけた。三十秒で海賊船に追いついた。
海賊船の船尾から船首に向けて、斬撃を放つ。
「剣技・大波斬り」
フィビリオの剣を受けた船が、横方向に斬れて沈んだ。
フィビリオは、そのまま海面走で海の上を走って港に戻った。
港に着に上がると、フィビリオは海賊たちに命令する。
「お前らに一つ命令する。飯に毒の盛るのは禁止する。禁を破った者は船毎斬り捨てるから、そう思え」
シーンとなっているので、大声で「返事は?」と訊くと。
「はい、わかりました」と声が返ってきた。
酒場に戻ると、毒の入ったブイヤベースが下げられていた。
不機嫌に席に着くと、ウェイトレスが尋ねてくる。
「お食事は、どうされますか?」
「そうだな、ブイヤベースからやり直しだ。クルトに作り直させろ」
クルトを指定したのは理由があった。海賊王の代行に毒を盛った以上は、殺される。だが、料理人にクルトが指名されたのなら、少なくとも今日の夕食が終わるまでは殺されない。
「かしこまりました」
メイドは下がっていった。再び同じようなブイヤベースが出てきた。
今度は料理から迷いが感じられなかった。一応、クルトを呼んで、一口を食べさせる。
今度は吐き出さなかったので、フィビリオも食べた
「よし、明日から俺がいる間はクルトが料理を作れ。二度目はないぞ」
「ありがとうございます」とクルトは深々と頭を下げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます