2話
「本日この最北端基地に配属されました、ライ・エルドです。よろしくお願いします。……不満がある方どうぞ」
さして広くない作戦室に屈強な男達が詰め込まれ、皆一様に不可解そうな表情が浮かべられていた。
居心地の悪い空気が漂う中、隊長が手を挙げた。
「単刀直入に聞くが、この基地は用済み、ていうことですかい?」
一瞬の緊張が走り、とくに表情を変えることもなく上司────ライは淡々と答える。
「違います」
「左様で。エルド指揮官、戦歴は?」
失礼ととられても仕方の無い質問にも気にせず、僕を見て、
「彼よりは長いかと」
少しの間、自然とみんなの視線が僕に集まる。
僕の戦歴は6年、それよりも長くライは戦場で生きてきたらしい。
しかし、戦歴が長いことと有能なことは別物だ。
「分かりました。俺からは以上です」
「他、いますか?」
ライが視線だけで部屋を見渡すが、誰も手を挙げる者はいない。
「では明後日の襲撃について概要を説明したいと────」
相変わらず抑揚のない声で説明するライを、部屋中の人間が品定めするような目つきで見ていた。
「ここまでは文句無しだな」
作戦室からの道中、隊長はご機嫌な様子でそう言った。
まだ確定ではないが、指揮官が有能であれば僕らの生存率が上がることに繋がるのだから当然だろう。
「久しぶりのアタリだね」
「ああ。この調子で現場でも出来ることを祈るよ」
5分もあれば全てを回れるだろうこの基地で、帰りに長話をできる程の道はない。
あっという間に僕の名前がかけられた扉が見えて、隊長と別れることになる。
「体の調子は大丈夫か?朝はちゃんと準備体操しろよ」
戦場にいて、そして戦場にいるからこその、過保護でとても大切な言葉に呆れながら頷き、おやすみ、と言って手を振る。
扉と鍵を閉めたのを確認してから、ため息を吐いてベッドに倒れ込んだ。
眠気に耐えながらポケットに手を突っ込むと、少しくしゃくしゃになった紙が出てくる。
あの時ライに渡された紙、2ヶ月に一度行われる健康診断の結果だった。
よく分からない言葉が連なるそれを眺めながら、ふと電気に透けて、裏に文字があることに気づく。
〖任せてください。エルド〗
「?」
結局、眠気に襲われる頭ではいくら考えても真意は分からず、いつものようにライターで文字も紙も燃やした。
そしていつものように、燃えカスが宙を舞いながら落ちていくのを、ただ見ていた。
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