1話

いつ始まったのかもうわからない戦争に、僕らは毎日駆り出される。

無能、時には有能な指揮官の下で、生き残ったり死んでしまったり、それは運と実力次第だ。

先週、無能な指揮官が運悪く流れ弾で亡くなってから、僕らはしばしの休息を得ていた。

最低限の警戒だけを行って、あとは思い思いの日々を過ごしている。

だけど、楽しい時間はすぐに終わる。

新しい指揮官が配属されたのだ。

正式な面会はまだだが、この基地に入ってくるのを遠目で見た限り、僕の視力が落ちていなければだがなんの間違いか────────少女だった。

少年の自分は棚に上げておくとして、指揮官を少女にしたのは僕らはもう用済み、ということだろうか。

知識はともかく、あれじゃあ戦争の経験も無さそうだ。

不快感と興味をそそられた僕は、引越しで忙しいだろう上司の部屋へ訪問することにした。




「どうぞ」

扉を叩くとすぐに返事が返ってきた。

よくいえば落ち着いた、悪くいえば愛想のない声だ。

「お忙しいところ失礼します。ひとつ確認したいことがありまして」

愛想笑いを浮かべて丁寧に尋ねる。

上司は少し驚いたような顔で、はい、と応じる。

予想通りの反応。

「……僕みたいな子供がいて驚かれますよね」

「すみません、話には聞いていましたがこんなに幼いとは思っていませんでした」

そういう上司は、見たところ17、8だろうか。

ちなみに僕は14だ。

これからまだまだ伸びる歳だ。

来年にはこの上司をぬいてやる。

そんな気持ちは押し込んで、顔には苦笑を貼り付ける。

「何か不便なことはありませんか?あなたの実力は資料で把握していますが、子供は大人より体が脆いので」

「大丈夫ですよ。戦場には慣れてますし」

上司が立ち上がる。ボロい椅子がぎし、と音を立てた。

周りがやけに静かに感じた。

「そうですか。……来てくれて助かりました。私も話があったんです」

今度は僕がはい、と言う。

上司の持つ紙が何なのか、これから何を言われるのか、なんとなく検討がつく。

だから、言われる前に答えた。

「これからよろしくお願いしますね」

ぎし。

おんぼろがまた鳴った。

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