第6話 幕間──エヴァン・ブライアン
死の臭い、とは。
なんと表現したらいいだろうか。
甘い腐敗、苦い鉄錆、とにかく独特で、生者なら必ず忌避する臭いだ。だから自然と避ける。
エヴァン・ブライアンはその臭いを辿った。
細く長い脚が、石畳の道路を蹴り上げる。すると体は重力など一切無視して素早く、高く、五階建てのビルの屋根に辿り着く。
「アーネスト!」
呼ばれて暗闇が呼応する。エヴァンの足元から暗い影が円形に浮かび、そこから大きな体躯の黒犬が現れた。瞳はガーネット色に爛々と輝いている。
「また犠牲者だ。名前はメアリー・フェイ。享年二十七歳。それ以降は不明。殺害されたと同時に魂が子宮とともに奪われている」
淡々とエヴァンはアーネストに報告を告げる。
細長い顎の下をなぞった。
「至急、
アーネストがエヴァンの顔を覗きこむ。それにエヴァンは小さく頷きを返して撫でていた手を離した。
「一人だけでは心細いな。念のため、術式結界に自信のある鉄槌卿を頼む」
ガーネットの瞳が細まる。そしてアーネストは大きな体軀を翻し、空へと駆け出した。こちらも重力を無視して。狼のごとく、俊敏な脚のアーネストは暗闇にかき消えた。
アーネストを見送ったエヴァンはロンドンの明るく眩い街を見下ろした。先ほど死んだメアリー・フェイの遺体が発見されたことで警察たちが集い、喧騒を呼んだ。
野次馬を掻き分け、遺体を運び出す彼らの後ろを見覚えのある少年が二人保護されている。
「ふぅん?」
エヴァンは二人の少年の姿を認めて、唇の端を吊り上げる。
なるほど、使える。
一方は危険であるが、もう一方は極めて興味深い。
少年たちは警察車両に乗せられてロンドン警視庁へと運ばれていく。
「これはいい魂が我々のもとへきそうだ」
唇だけを微笑ませ、エヴァンは歌うように独り呟いたあと、その場からかき消えた。
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