森羅編第二話Part13『お世話になってます』



上杉:上杉のマンション 玄関前(夜)


 上杉です。玄関のインターホンが鳴りました。

 とうとうサブマスターが友達を連れてやってきたみたいです。

 僕は覚悟を決めて勢い良くドアを開きました。


 そこには精悍な顔つきをした男前な雰囲気の男性と、見るからにイケメン風の男性、

 そして胸のデカイ眼鏡をかけた髪の長いワンレンの綺麗な女性の三人が立っていました。


「もし、キミが上杉君かい?」


 見るからにイケメン風の男性が僕に尋ねてきました。


「そうですけど、ひょっとして、あなたが?」

「そうだよルキエルだよ。キミのギルドのサブマスターさ。この二人は俺の友達なんだ」

「初めまして、長畑煉次朗って言います。よろしくね」

「日下ルリよ、よろしく」

「そして俺の名前は東矢宗継。覚えておいてくれよな、マスター」


「あ、どうも。僕の名前は上杉純夜です。職業は引きこもりです」

「引きこもりは職業だったのか」

「僕にとっては仕事みたいなもんです」

「あんた、若いわね、幾つ?」

「18歳になりました。でも留年しちゃって、まだ高校二年生なんです」


「まあ積もる話は家の中でしようぜ。入れてくれよ」

「はい、どうぞ・・・」


 僕はさっそく三人を自宅のマンションに招待しました。



長畑:上杉のマンション 室内(夜)

 

 長畑だ。上杉君のマンションはとても広い。部屋の中は音楽を作る機材で一杯だ。

 

「ここで録音もできるんですよ」

「ふええ~純夜君は音楽やってるのか」

「将来は音楽で飯を食べられたら、って思ってるんです。でも僕は引きこもりだし、伝も無いし、親には反対されるしで、人生散々です」

「それで留年しちゃったわけ?」

「はい」

「いったいなんで留年なんてしてしまったんだ?」

 

 東矢と日下さんの二人が上杉君を問い詰める。


「学校に入ったのはいいんですが、学校のレベルが高くて、落ちこぼれてしまったんです」

「学校には、今年から行ってない感じなのかい?」

「はい。留年しちゃって。心が折れました」

「一体どこの学校なのよ?」

「晴嵐学園高等学校です」

「あら、進学校じゃない」


 晴嵐? なんかどこかで聞いたことがあるような気がするぞ。


「えっ」

「マジか」


 上杉君が壁にかけてある制服を指差した。


「・・・で、なんで引きこもりになったんだい?」


 俺が優しく尋ねると、純夜君はゆっくりと口を開き始めた。

「これでも僕は中学までは優等生でした。でも、高校に入ったら、

僕より頭の良い奴らばっかりで、劣等性になってしまったんです。

それで自分に自信を失くしてしまって・・・」

「そうだったのね・・・」

「皆さんは、こんな僕の事を馬鹿にしにきたんでしょう」

「いや、そんなことない」

「お前さん、優等生だったんだな。最近優等生によく会うな・・はは」

「今はやることなさすぎて、ギターばかり弾いてますよ。」

「スプラとかやれば」

「常時50キル以上、最高77キルデスなし。流石にもう飽きましたよ」

「凄いのかわからんが、凄いね」

「今は犬伏さんの事、毎日、頭の中で裸にしています」

東矢「」

長畑「」

日下「」

「・・・おっおい、マスター、唐突にぶっ飛んだこと言うな、素で固まっちまったじゃねえかよ」

「それだけは駄目だぞ」

「あんたなんで真希のこと知ってるわけ?」

「朝ゴミを出すときに見かけて、一目ぼれしてしまいました」 


 なんてこった。犬伏が聞いたらショックを受けるだろうな。こりゃ二人は会わせられないな。


「そんなことよりマスターは音楽やってるんだろう。何か曲とか作ってるの?」

「はい。それなりに」

「よかったらあたし達に聴かせてよ」

「いいですよ。最近作った曲、まだ未完成ですけど」

「ぜひ聴かせて頂戴」


 上杉君が徐に壁に置かれているギターを取り出し、椅子に腰掛け、歌う準備を始めました。


「それでは今日という良き出会いの日を祝して歌います。聞いてください。童貞賛歌」

長畑・東矢・日下「」


昔サザエさん火曜7時から~やってたときから童貞でし~た~

夏っ休みは~ゲイ演技~クリスマスだ~け仏っ教徒~

カミングアウトは大切だ~人生、アウトになる前に~

童貞! 童貞! 童貞賛歌! 僕は死ぬまで童貞ですか~?

どうか武士の情けです。ほにゃらほにゃらら童貞賛歌~~


なんて酷い歌だ。歌が無駄に上手いだけに余計に曲の酷さが際立つ。

しかし東矢と日下さんにはツボだったらしく、二人はゲラゲラ笑っている。


「あははは、何その曲、ウケルんだけど~」

「マスター才能ありすぎっ」


 二人は笑っているが、俺には笑えなかった。


「そのほにゃらほにゃららってのも歌詞なわけ?」

「いえ、実はここに埋まる言葉が思い浮かばなくって・・・ごまかしているんです」

「ふ~ん、そうなんだ~」


 日下さん、上機嫌だな。


「所詮僕は童貞だから、こんな歌しか作れなくって」

「別に童貞なんて、マスターぐらいの年齢なら普通だろ。気に病むこと無いって」

「でも、ウチの学校の周りの男子生徒は続々卒業していったんですよ。僕だけが取り残されて・・・正直辛いです」

「まあ、上杉君。人生は何事もタイミングだから。俺も高校時代は野球一筋で、卒業したのは大学に入ってからだし。これから引きこもりを克服してちゃんと学校生活を始めたら、君ならそのうち良い人とめぐり合えるよ」

「長畑さん・・・」

「へえ~長畑君って大学で卒業したんだ~~ぐふふ。これはいい情報GETね」

「なんですか、日下さん?」

「別に」

「僕、犬伏さんが好きなんです。だから、初めては絶対に彼女とがいいんです」

「ちょっと、ここに美人がいるのに、その台詞はないんじゃない」

「だって、日下さん、ちょっと怖いんですもん」

「あたしのどこか怖いっていうのよ!!」

「あひいいいっ」

「所詮真希なんて顔がいいだけの女よ。あなたもあいつの性格を知ったら幻滅するはずよ」

「そうだぞ。泣く、喚く、叫ぶ、歌う、踊る、人の物は勝手に食べる、直落ち込む。ヤミブカイ、超絶ネガティブ、一緒にいると病気になりそうな女、それが犬伏真希だ」

「そんな・・・何かの間違いですよ」

「ま、会ってみれば解るさ。付き合うなんて、馬鹿な真似は考えるなよ。後悔するぞ」

「おい、二人とも。幾らなんでも犬伏が可愛そうじゃないか。あいつは意外と器量もいいし、頭の回転も速いし、話してると退屈しない、素直で優しいし、意外と良い奴だぞ」

「あら、長畑君。真希の肩なんか持って。ひょっとしてあいつのことが好きなの?」

「好きなのか?」

「好きなんですか?」

「ばっ馬鹿言うな。ただの友達しての意見だよ」

「はっはぁ・・・」


 こうして、俺達と上杉君との出会いは終わった。

 ミュージシャンを目指す引きこもりか。中々奇特な存在だな。

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