第二部第二話Part12『アクシデント』

長畑:長畑の家321号室 リビング


長畑だ。何でも東矢がネットで知り合った引きこもり少年と会うらしい。

二人きりでは心細いという当人の頼みを受けて、俺と日下さんも一緒に行くことになってしまった。


「な、煉ちゃん、日下さん頼むよ。この通り」

「しょうがないな。じゃあ一緒に行くよ」

「さすが煉ちゃん。愛してるぜ」

「キモッ」


 近くで話を聞いていた日下さんが暴言を吐く。


「何がキモッだ。男三人に女一人、健全な出会いの場になるんだぞ」

「引きこもりの相手なんかしている暇があったら少しは自分の仕事に集中したら?」

「これは俺のパリピライフにとって大事な事なんだ。おめおめと引き下がれるかっ」

「ならいいわよ、勝手にしなさい。どうなっても知らないからね」

「そんな事言って、日下さんも来てくれるんでしょ?」

「しょうがないでしょ。引きこもりを放っておくわけにはいかないじゃない」


 日下さんは俺達にそっぽを向いてソファに腰掛け詩集を読み始めた。

 なんだかんだ言ってても、日下さんは面倒見のよい姉御肌だ。


「ま、そういうことだから、頼むぜ相棒」

「それで、その彼はどこに住んでるんだ?」

「それがさ、俺達のマンションの直近くだったんだよ」

「直近く?」

「歩いて三分もかからない距離だ。凄い偶然だろ。俺の尊敬するマスターがこんな近くにいたなんて」

「ふーん。で、いつ行くの?」

「明日の夜だ。頼んだぜ」

「ああ、わかった」



牧野:音楽スタジオ内 夜


 牧野です。ただ今ドラムの鉄砲豚こと桝井幸成ととくっぺの三人で

 当日のライブのための楽曲製作をしようと集まったのです。


「力を貸してくれてありがとう、豚さん」

「気にするな、玉藻。お前の兄貴は諦めたが、俺はまだ音楽を続けたいんだ。

 それに東京に出てきて体がなまってたところだ。お前のライブに付き合ってやるぜ」

「私もキーボードで参加しますからね」

「二人とも、本当にありがとう」

「あとは幼成だけだね・・・」


 と、そこへ法月幼成がやってきました。

 その右手には包帯が巻かれており、肩にかけた黒い三角巾で吊るされています。


「ひっ幼成、どうしたの、その腕!?」

「いやあ、実は、ちょっと骨折しちゃって・・・」

「骨折だってーーーーー!!」

 

私は思わず絶叫してしまいました。


「まあ、なんということでしょう」

「ギターがこれじゃあどうしようもないな」

「どうしよう。他にギタリストいないかな」

「この私の伝で何とか当日来てくれるバンドマンを探してみます」

「ありがとう、とくっぺ」

「でも、時期が時期ですから、来てくれるような暇な人を見つけるのは難しいかもしれません」

「うう・・・・」

「あはは、おタマさん。ごめんね~」

「いいよ、気にしないで。幼成、早く治すんだよ」

「うん。」


 大変な事になってしまいました。何とか代わりのギタリストを、それも腕の良い人を探さないと・・・。



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