最終章part12『アメリカ』

東矢:横浜のジャズバー 夜


 東矢だ。

 いつものように森羅さんの歌を聴いている。

 曲が終わると、さっそく森羅さんが俺の隣の席に座ってきてくれた。


「この間は大変でしたね」

「ホンマ、ウチもびっくりしたわ」

「警察から何か事情を聞きました」

「うん。あの今井っていう警部の人からね。詳しくは教えてくれなかったけど、

何でもスクアロフさんは音楽が関わる危険ドラッグを作ろうとしてたみたいで、

それでウチの歌声を利用しようと考えていたみたい。用が済んだら殺すつもりでね・・・・」

「そうだったんですか・・・」

「でも、これでウチもひと安心よ。やっと安心して生活できるわ」

「ですね」

「でね、ウチ、ようやく決心がついたんよ。」

「決心?」

「アメリカ。ウチ、ホントにアメリカに行くことにするわ」

「森羅さん・・・。」

「世界の洗礼を浴びてみたいしね」

「寂しいです・・・」

「な~に、今の時代、いつでも話できるじゃない。寂しくなんかないって」

「森羅さん・・・」

「それまでは、宜しくね!!」

「はいっ」


 森羅さんが無事なのは良かったけれど、この結末は俺にとっては非常に悲しい。


上杉:住宅街 夜 


 上杉です。

 大寒を過ぎて、もうすぐ春がやってくる。

 僕は夜、ジョギングを始めていた。

 これから忙しくなるから、今、走ってるところだ。

 と思ったら、犬伏真希さんとすれ違った。職場からの帰りだろうか?


「あれ? 上杉君じゃない」

「犬伏さん、僕の事、覚えていてくれたんですか」

「当たり前よ。牧野ちゃんと仲良くやってる」

「まだまだこれからですよ」

「そっか? 今何してたの?」

「走ってるんです。自分のために」

「へ~偉いね~頑張ってね~」

 

 そう言って犬伏さんは去って行こうとした。

 不味い。何を考えてるんだ、僕は。

 この運命的な再会を有効利用しなくちゃっ。

 勇気を出せ、上杉っ。


「あっあの、犬伏さん」

「え? 何?」

「あの・・・いっ今、好きな人とか、いるんですか」

「え~うん、いるよ。振られそうだけどね」

「だっだれですか?」

「長畑君って言うの。あたしにとってはとっても大切な友達なんだ」

「そ、そんなに彼のことが好きなんですか?」

「うん・・・まあね」

「その・・・例えば、ぼっ僕じゃ、駄目ですか??」

「ええ、いきなり何言ってるの? キミ年下でしょ? あたしなんておばさんなんだから、もっと若い子捕まえなよ」

「そんな・・・」

「じゃあ、またね」

「あっちょっと・・・・」

「まだ何か用?」

「あっあの、良かったら、連絡先、こっ交換しませんか」

「え~~~いいよ~~~」


 やった。この上杉純夜。恋の成就への第一歩だ。

 あとは、長畑とかいう奴を叩き潰して・・・ようし。

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