最終章part11『音楽の力』
牧野:上杉家前 昼
牧野です。
上杉君を連れて、彼の実家にやって来ました。
肩にはアコースティックベースの入ったケースをかけています。
荘厳な門構えの大きな家です。
何でも話しによると、上杉君は上杉商事の社長の息子さんだそうです。
「よし、行くよ、上杉君。」
「うん」
さっそく上杉君が家のインターホンを押しました。
暫く待つと門が開き、私達は中へ通されました。
上杉:上杉家 庭 昼
上杉です。
牧野さんを連れて父親に会いにきています。
久々に会うので緊張しています。
お父さんは庭でゴルフクラブの素振りをしていました。
「帰ってきたのか、純夜」
「うん」
「引きこもりはやめたらしいな、安心したよっつ」
「ありがとう。でも、僕、後は継がないよ。将来はミュージシャンになるつもりだから」
「まだそんな馬鹿な事を言っているのか? お前ほどの秀才にそんな惚けた事を言われたら堪らんよ。
今のご時勢、ミュージシャンなんて飯が食えないんだから、諦めて私の後を継ぐためにももっと勉強しろっ」
僕とお父さんが話していると、牧野さんが会話に割り込んできた。
「あの、上杉君のお父さんですか?」
「いかにも、私が父親だが? キミ、可愛いな。純夜、お前の彼女か?」
「いや・・・」
「そうです。私が上杉の彼女で、彼をバンドに誘ったんです」
「ちょっと待ってよ、牧野さん。突然何を言い出すの??」
「いいから、黙ってて」
「なるほど、女の影響か。ウチの純夜とバンドをやりたいだって? 馬鹿な事を言うんじゃない。
音楽の世界は厳しいんだ。私も昔はミュージシャンを志した事があるが、物にならず辞めてしまったよ」
「同じ思いを、純夜君にもさせるおつもりですか? 彼には飛びぬけたギターの才能があります。
私とバンドを組めば、きっと大成功するはずです」
「ははは、凄い自信だね、お嬢ちゃん。キミ、年は幾つだ」
「もうすぐ19歳です」
「若いね。恐怖を知らないと見える。所詮夢なんて、泡のように消えていく儚い物なんだよ。
夢なんて見るから、人は苦しむ。夢なんて、見ないほうが賢いのさ」
「違います! 人間は、夢があるから、生きていけるんです。
単に会社に入って出世するだけが人生なんて、そんなの悲しいじゃないですか?
純夜君には才能があります! その才能を伸ばす手助けをしてあげようとは思わないんですか?」
「所詮バンドを組んだところで、ろくでもない代物だろう。物にならず燻って、酒と薬に手を出すようになるに決まってる。
ウチの大事な跡取り息子をそんな目に遭わすわけにはいかないんだ」
「ろくでもないバンドになるかどうかは、この私の演奏を聴いてからにして下さい!!」
牧野さんはそう叫ぶと、背中にかけたケースからベースを取り出し、そして激しく弾き始めた。
それはまるでとてつもない、嵐のような超高速スラップだった。
そのあまりのテクニックに、お父さんの目が丸くなっている。
「少なくとも、私はろくでもない人間ではありません。こんな私と組むんです。上杉君と、私は必ず音楽業界で天下を取って見せますっ」
お父さんのスイングする手が止まった。そして暫く黙り込むと、再び喋り始めた。
「私も昔は、心の底からベーシストになりたかったんだ。でもプロには成れなかった。でも、どうやらキミは違うようだね。
素晴らしい才能だ。私には解るよ」
「ありがとうございます」
「純夜!!」
「はい、お父さん」
「2年間だ。2年間、猶予をやる。そこで結果を出してみろ。そうしなかったら、お前には会社の跡を継いでもらうからな」
「お父さん・・・ありがとう」
「ふん。せいぜい頑張れよ。お嬢さん、息子を頼んだよ」
「はいっ」
凄い・・・牧野さんのベースの技術は規格外だ。彼女となら、僕は本当に天下を取れそうな気がする・・・。
蘭:私立晴嵐学園高等学校 教室内 お昼
蘭です。今日もお昼はいつものメンバーに、上杉君も交えて五人で食べています。
「しっかし驚くよな。まさかあの上杉先輩が学校に来るようになるなんてさ」
久原が驚いたような口ぶりでそう言います。
「僕は生まれ変わるんだ。今は必死に遅れを取り戻すために、音楽と勉学の二刀流だよ」
「頑張って下さい、純夜様」
「うん、任せて。」
お姉ちゃんのことを考えていた私は会話に入らず、黙々と弁当を食べ続けていました。
「そういえば、蘭ちゃんって探偵なんだって?」
上杉君が聞いてきます。
「はい、一応。名探偵の妹です」
「実は、いや、荒唐無稽すぎるし、キミに言うのは止めとこう」
「何ですか? 気になるじゃないですか?」
「いや、実は、今から半年以上前、僕、夜に夜空を飛ぶ人影を見たんだ」
「夜空を飛ぶ人影?」
「今にして思えば、あれは牧野さんの家の方だったと思う。何だか気味が悪くてね」
「その話、この名探偵の妹に詳しく教えて頂けませんか?」
上杉君から詳しい話を聞いた私は、食事を切り上げ、カバンを持って教室を飛び出して行きました。
目的地は勿論、牧野さんの家です。
蘭:牧野の家 リビング 午後
蘭です。
会社を休んでいた牧野さんの家に入って、丁寧にがさ入れをしています。
「一体突然来たと思ったら、がさ入れとか、何考えてんだよ、蘭?」
「放っておいて下さい」
リビングには何も痕跡らしき物は残ってない。
ならば、ベランダ以外考えられない。
蘭:牧野の家 ベランダ 午後
蘭です。
ベランダの壁と手すりを凝視しています。
よく観ると、小さいですが、縦に擦り傷があり、僅かにへこんだ跡がありました。
「これは・・・牧野さん、あなたが付けたのですか?」
「いや、そんな傷あったんだ。知らなかった」
「・・・」
これは、一体、何の跡でしょう? ピアノ線のように感じられますが・・・・。
「蘭、実はさ、ちょっと話したい事があるんだ」
「悪いけど後にしていただけませんか? 今忙しいんですよ」
「実は、私、この家で幽霊を見たんだよ」
「は? また、今度はオカルトですか? いい加減にしてほしいですね」
「だってその幽霊、私に、殺された、殺されたって言ったんだよ?」
「幽霊が?」
「うん、幽霊がっ」
「ふ~ん・・・そうですか・・。」
幽霊か。オカルトですが、気になりますね。。。
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