第二部第四話part最終『森羅からの手紙』

蘭:洗足池公園 夜


 蘭です。森羅さんから貰った手紙を携えて、牧野さんの下にやってきました。

 牧野さんは、心ここにあらずといった様子で、楽器もベンチの脇に置き、虚空を見つめていました。


「蘭か・・・」

「牧野さん・・・」

「あなたに、謝らなきゃいけないことがある・・・」

「なんですか?」

「私、あなたのお姉ちゃんに・・・アミリンに・・・酷い事、言っちゃった。ビンタもしちゃった。」

「・・・」

「アミリンは、私が上京してきたときに助けてくれて以来、東京で出会った一番の友達だった。何でも話せて、私の為に、尽力してくれた。なのに私は、アミリンに、何も、何もしてあげられてない・・・自分の都合ばっかり押し付けて、あなたのお姉ちゃんを振り回して、困らせてしまった。本当に、ごめん・・・」

「そんなこと、今となってはどうでもいいですよ・・・」

「どうしよう・・・私、まだ、アミリンに謝ってないよ。なのに、こんな事になっちゃって・・・私、私は・・・馬鹿で短気で無力な女だから、何もしてあげられない・・・何にも・・・何にもしてあげられないんだ・・・許して、蘭」

「・・・正直ぶっとばしたい気分ですが、今は特別に許すことにします。」

「蘭・・・」

「牧野さん。実は、私、森羅聡里に会って来ました」

「え・・・どうやって」

「探し出しまして、話をしました」

「まだ日本にいるの?」

「・・・手紙を、預かってきました。これを読んで下さい」


 私は、カバンから、そっと手紙を牧野さんに差し出しました。

 牧野さんは涙を拭い、手紙の封を綺麗に開けると、無言で読み始めました・・・。


玉藻へ。

超絶久しぶり。森羅だよ。突然理由も言わずに引っ越しちゃって、ごめんね。色々バタバタしてたらスマホ落としちゃって、連絡取れなくなっちゃった。ちゃんと連絡先、手帳に控えておけばよかったよ。反省してます。


蘭ちゃんから聞いたよ! 東京に出てきたんだね。ビックリしたっ! 初めて会ったときは、手のひらにのるぐらい小さかったのに(笑)、いつのまにか就職して、ちゃっかり大人になっていたんだね。本当にもう、森羅聡里はビックリですよ~~。


東京の生活はどうですか? ご飯やお水は口に合いますか?

玉藻は意外とデリケートだから、上京当初はビービー泣いてたんじゃないかと森羅は予想していますよ(ニヤニヤ)。

でも1人ぼっちだったあなたにも、友達が出来たみたいだね。本当に、よかったよかった。初めて会ったときのあなたは、学校でも孤立してて、日が落ちたみたいに暗かったもんね。今は笑えるけど、あの時は本当に笑えなかったよ~。あなたの顔を笑顔で一杯にするのに、正直けっこうてこずったんですよ、なんてね。


職場のこと聞いたよ。3Uのこと、ライバル登場のこと、復讐大合戦のことも。いつのまにか、玉藻は沢山の人たちを巻き込んで、大きく成長しているみたいだね。あなたが送っている日常が楽しいと、私も自分のことのように楽しくなれるよ♪

玉藻のこと、本当に、大好きなんだからね!

 

新しい音楽も聴いたぞ~。なんだか私に似ていないかい?

まねっこは感心しないなぁ! もっと自分の個性を大事にしなさい!

あなたには、あなたの良さがあるんだよ♪

努力ができるところ、勇気があるところ、泣き虫だけど、直に泣き止むところ、

天然なところ、良い意味での諦めの悪さ、自分の意見を言えるところ、

名前に誇りを持っているところ、無邪気な明るさ、ちょっと絡み辛いとこ(笑)、そのくせ謎の親分気質、いつも前を向いているイケメンな眼差し、そして何より、光に溢れた、素敵な笑顔!!

玉藻の良いところを全部出せたら、きっと天下を取れるはずだよ!

そのとてつもない才能で、今の疲れきった日本を元気にしてね!

あなたなら出来る。森羅聡里は信じています♪


ところで私ね、実はジャズに目覚めて、アメリカに移住することに決めたんよ。日本には、もう帰らない。これが私の意思で私が決めた、私の未来!。玉藻には、新しい私の挑戦を応援して欲しいな♪

あなたとは楽しい思い出がいっぱいあるから、会っちゃうと、決心が揺らいちゃうかもしれない。

だから、もう会うことは出来ないよ。ごめんねなの!


この先、生きていれば辛いこと沢山あると思うけど、人生には辛いことの方が山積みになるもんよっ。だから、楽しいときを精一杯楽しんで♪

昔のことは引きづらないで。私との思い出にも浸らないように!

自分の目標を真摯に見つめて、あなただけの、新しい素敵な未来を作ってね♪

玉藻の幸せ、遠くアメリカから願っています。


永遠の愛を込めて 森羅聡里。 



手紙を読んだ牧野さんは、また号泣し始めました。


「(唇を力強く噛む蘭)」


「意味、ないよ・・・」


「私の未来に、森羅さんがいなかったら、どんなに楽しくても、意味なんてないよ・・・」


「・・・これが彼女の意思です。受け入れて下さい」


 牧野さんが私に手紙を突き返してきました。


「(無言で手紙を拾い、封に入れて牧野に差し出す)

 受け入れて下さい」


「・・・この、クズ野郎・・・」


「聞き流しましょう」


「お前の、どこが完璧なんだよ。失敗してるじゃないかぁっ」


「明日からは、完璧を目指す美少女になります」


「黙れ、クソ野郎っ」


「聞き流しましょう」


 牧野さんはゆっくりと立ち上がると、ベンチの脇に置いてあった

 ツインバレルの楽器を手に取り、振り上げました。

 私をそいつでぶん殴る気でしょうか?


 上等です。


 それぐらいの覚悟は持って来ましたから。


「何が永遠の愛を込めてだ・・・馬鹿野郎・・・人の気持ちも知らないでさ・・・。

 こんなもの・・・ぶっ壊してやるっ」


「それをやったら、あなたは小弦と同類になりますね」


「(涙を流す牧野)」


「私も・・・

 (ICUの病室で治療を受けている網浜の姿が脳裏をよぎる)

 この胸にあるモヤモヤを、必ず乗り越えてみせます。

 だからあなたも、乗り越えてください」


「(振り上げた楽器を震わせ、蘭を見つめ)蘭・・・」


「(真剣な表情で)乗り越えてくださいっ」


 牧野さんが振り上げた楽器をゆっくりと地に付け、再びベンチに腰掛けました。


「・・・ごめん。ありがとう、蘭。こんな私なんかの為に協力してくれて・・・」

「仕事ですから」


「蘭・・・お姉ちゃん・・・回復するといいね・・・・」

「私は、姉の生命力を信じていますので。この程度で死ぬ人ではありませんから」

「・・・そうだね。私よりも、今は、蘭の方が、ずっと辛いよね?」

「・・・」

「泣きなよ、泣いてもいいんだよ? 私は見ないからさっ」

「・・・生憎ですが、私は泣かない女ですので」

 

 言い終わると、私は牧野さんの隣に腰掛けました。


「・・・今日は、星が見えるね。森羅さんも、見てるかな?」

「さあ、どうでしょう」

「・・・サヨナラ、森羅さん。サヨウナラ・・・」

「・・・」


 もはや、何も言う事はありません。網浜蘭16歳。


 探偵仕事、初めての失敗です。

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