第二部第四話part9『名探偵の妹は捕まりっぷりも完璧』



蘭:レインバス本社ビル エントランス 昼


 蘭です。もう一度東矢を追跡するため、犬伏さんに協力を仰ぐことにしました。

 お姉ちゃんが見ていない隙を狙って犬伏さんを呼び出し、彼女に超小型の音声受信機を沢山袋に入れて手渡しました。


「これを東矢の手持ち全てのスーツの内ポケットにでも仕込んで下さい」

「わかった。やってみるね」

「お願いします、犬伏さん」


犬伏:東矢の部屋内 夜


 犬伏です。

 東矢君がジョギングでいない隙を狙って、部屋に入り、全てのスーツの内ポケットに蘭ちゃんに言われたとおり、

 超小型の音声受信機を仕込みました。これでよし、さあ、部屋を出よう。蘭ちゃん、頑張ってね。


蘭:レインバス本社ビル エントランス 夕刻


 蘭です。今日は私服で来ました。ただ今お姉ちゃんに会わないよう細心の注意を払ってレインバスに潜入しています。

 大理石で出来た柱の影に隠れて出てくる人たちを注意深く観察しています。

 ターゲットの東矢を見つけました。


 しかしそこで予想外の事態が起こりました。

 東矢の他に指野美咲と狩川亜美奈も一緒にいる。

 これは一体どういうことでしょう?

 いや、決しておかしくはない。

 あの三人は、犬伏さんが言ってたGAMとかいう社会人サークルのメンバー同士。

 接点は充分にある。

 それはともかく、どうしてあの三人が一緒に?

 とりあえず、跡をつけてみましょう。


蘭:繁華街 夜


 蘭です。指野さん、狩川さん、東矢の三人は電車に乗り、並んでとある駅に降りると、繁華街に繰り出しています。

 一体あの三人、GAMとかいう組織の繋がりで集まったのでしょうか? 気になります。


 と、三人が近くの喫茶店に入っていった。談話室、タキノガワ。

 どうやらここで休憩でもするつもりなのでしょうか?

 

 この談話室なら私も入れます。よし。

 私は、左即頭部のサイドテールを解いて髪を下ろし、ピンクのマフラーをカバンに詰め込むと、

 集音マイクを取り出して、店内に入りました。


蘭:談話室タキノガワ 店内


 蘭です。

 店内に入ると、指野さん達は奥の方の座席に座っていることを確認しました。

 談話室というだけあって店内は静かです。


「失礼ですが、お一人様ですか」

「はい」

「お好きな席へどうぞ」

「どうも」


 私は極力遠くて近い、ぎりぎりの距離にある席を選んで座りました。

「ご注文は?」

「コーヒーフロートを」

「かしこまりました」  


 三人は何やら話し込んでいる様子です。

 私は集音マイクにイヤホンを耳につけて、会話を膨張することにしました。



「それは、本当なんですか?」


 東矢の驚いたような声が聞こえてきました。


「ええ、本当よ。森羅聡里、いえ、光定聡子ちゃんは牧野玉藻の腹違いのお姉さんなの」


 なっ・・・・。


「何ですって~~~~~~~~~~~~~っ!!!」


 私は静かな店内で、思わず大声で叫んでしまいました。


東矢:談話室タキノガワ 店内


 東矢だ。

 後ろの席から可愛らしい女の子の絶叫する声が聞こえた。一体何ごとかと振り向くと、

 そこには、網浜蘭の姿があった。


「あいつは・・・・網浜蘭!!」

「ええ??」

「どういうこと?」


 あっ蘭の奴が逃げ出そうとしている。

 後を追おうとした俺よりも速く、指野さんが全力疾走で蘭を捕まえた。


 速い・・・さすが100m走で全国大会に行っただけのことはある。

 しかし、なんで蘭の奴がここに?? 一体どういうことだ?

 まさか・・あいつ、俺のことを尾行していやがったのか??

 不味い・・・不味いぞ・・・。


蘭:談話室タキノガワ 店内


 蘭です。

 指野さんに後ろから羽交い絞めにされてしまいました。

 解こうにも、どうしようもありません。


「あなた、こんなところで何してるの?」

「何でも? 偶然ですね、あははは」

「つまらない冗談は、私は嫌いよ?」


 くっ・・・万事休すです。この私としたことが・・・。

 体の自由が利かない。くっそたれ。


「おい、美咲ちっこの子、集音マイク持ってるよ」


 しまった。狩川さんに集音マイクを奪われた。


「集音マイクだって? おいお前、一体何やってたんだ!!」

「いいえ、別に・・・特に、何も?」

「東矢君、あんたのポケットに通信機があるかもしれない。探して」


 狩川さんが東矢にポケットを探るように促しました。そして・・・。


「ああ、これは・・・」


 東矢が超小型の音声受信機を内ポケットから取り出してしまいました。

 ああ、もうダメだ。。。。


「おいお前。これは一体なんだ?! いつから俺をつけていた??」

「ノーコメントです」

「嘘をつくと、酷い目に遭わせるわよ」

 

 指野さんがとても怖い顔をして、私を恫喝してきました。

 まさか仏の彼女がこんな恐ろしい顔をするなんて、思いもよりません。

 その恐怖に観念した私は、それでも微妙に嘘を交えつつ、喋ることにしました。


「実は、犬伏さんに頼まれて、東矢とその想い人を別れさせる工作をしていたんです」

「あのクソ馬鹿女・・・よりによってそんなことを・・・・」

「それだけじゃないでしょう、あなた、私達の会話聞いてたわよね」

 

 指野さんが私を更にきつく締め上げてきます。


「うう、苦しいです、離して下さいっ」

「真実を言うまで、離さないわよっ」


 もうダメだ・・・流石にこれ以上は誤魔化せない・・・。


「まっ・・・牧野さんに頼まれて、森羅聡里の捜索をしていました。その過程で、東矢さんに辿り着いて、

 何度か跡をつけていたんです・・・」

「なんてこと・・・」

「あちゃ~~~」


 指野さんが私を拘束から解きました。

 私は息を切らしながら三人の方を向きます。

 三人とも、仁王を髣髴とさせるような恐ろしい顔をしています。

 これは一大事です・・・。


「で、私達の話を聞いたわけ?」

「はっはい・・・」

「全部?」

「いえ、牧野さんと、森羅さんが腹違いの姉妹だってことだけを・・・」


 私がそう言うと、指野さんは手を頭に置いて、大きく息を吐きました。


「最悪よ・・・最悪の展開だわ・・・」

「すいません、指野さん。俺のせいです」

「あなたのせいじゃない。全ては尾行に気づけなかった私のミスよ」


 指野さんが東矢さんを庇っています。


「とりあえず、座って話しましょうか」

「はっはい」


 私は指野さんと狩川さんに両手を引っ張られて、無理やり席に座らされました。


「それで、蘭ちゃん。あなたこれからどうするつもり?」

「真実を、牧野さんに話します」

「それは駄目よ」

「何故ですか? 何の支障もないでしょう」

「支障があるから駄目なのよ」

「支障って、何です?」

「それは・・・」

「ねえ、美咲ち、もうこうなってしまったら、蘭坊も森羅さんに会わせて話をさせてみようよ」


 狩川さんが驚くべき提案を指野さんに言ってきました。


「そんなっ一体何を言うの」

「私達が口封じをするより、本人に直接全ての事情を説明させた方が効果的って事だよ」

「亜美奈・・・」

「俺も賛成です。ここまで来たら、俺も真実を知りたいです」

「東矢君・・・」


 おお、何だか好機が来たような気がする。


「牧野さんにゲロッちゃうかどうかは、森羅さんと会って話してから決めます。」

「玉藻には話さないって約束してくれる?」

「話の内容次第です」


 私がそう言うと、指野さんは大きなため息をつきました。


「わかった・・・・ここまで秘密を知られた以上は、あなたの口も封じないといけないものね。」

「そうですよ。言っておきますが、私の口は風船よりも軽いですよ~だっ」

「得意げに言うことかっ」

「でも少しだけ時間を頂戴。色々心の整理もつけなきゃいけないし、聡子ちゃんも説得しなきゃいけないから」

「わかりました。待ちます。その時が来たら教えて下さい」

「わかった。だからそれまでは、今日の話は玉藻には秘密にしておいて」

「了解です。指野さんには恩がありますから、それまでは口が軽いけど、何とか我慢します。」

「ルリっちもやばいね。あの子もキレると何するかわからないとこあるから」

「実は、長畑煉次朗にもちょっと勘ぐられてて・・・・」


 東矢さんが驚くべき事を口にしました。


「どういうこと?」

「わかりません・・・」


 まさか、犬伏さんが・・・いや、この事は彼女の名誉の為にも黙っておかなければ・・・。


「ふう。。。一体今日はなんて日なの。なら二人にも、私から時機を見て話すことにするわ」


 ・・・どうやら一難を乗り越えたようですね。犬伏さんの名誉の為に、

 彼女が追跡にまで参加していたことは秘密にしておきました。

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