第二部第三話part10『唯一の目撃者』

網浜:音楽スタジオ内 夜


 アミリンです。ただ今ギターの上杉君、キーボードのとくっぺちゃん、ドラムの桝井幸成さんの演奏を聴いています。

 牧野さんは今日はこの場にはいません。路上ライブに出かけていて、後で合流するそうです。


 そして演奏が終わりました。


「皆、演奏凄く上手かったよ~」

「有難うございます、アミリンさん」

「ふう、ロックのドラムにも大分慣れてきたぜ」

「牧野さんはまだ来ないの?」


 上杉君が凜を見て質問してきました。


「タマちゃんならもう直ぐ来ると思うよ~。」

「ふ~ん、そうなんだ。ところで、お姉さんのレインバスの社員なの」

「ううん、凜は警察官。刑事やってるの」

「何っ」

 

 上杉君は凜の発言に驚いたのか、後ろの方へ隠れてしまった。


「ぼっ僕を逮捕したりしないよね?」

「嫌だなあ、そんなことしないよ~~」

「そう? それならいいんだけど・・・」

「何か悪いことでもしてるの?」

「してない、してないよ! ちょっと前に変な物を見ただけ」

「変な物? 何それ?」

「夜、家の近くを歩いていたら、突然空中を人間と思われる人影が疾走していったんだ」

「はい?」

「ホントだよ、嘘じゃないよ。その後、小野木佳代って人が自殺したってニュースで聞いて、僕、ビックリして・・・」

「ちょっと待って、上杉君。その話、今度詳しく教えてくれないかな?」

「うん、いいよ」


 上杉君はにこやかな笑顔で頷きました。

 夜空を疾走する、影・・・??


「上杉さん、当日のライブの設営と衣装の準備は出来ましたけど、他に何か牧野さんの為に私達が出来ることはないでしょうか?」


 とくっぺちゃんが上杉君に助言を求めています。


「う~~ん。カウントZEROライブ当日、観客は全員残ってくれる保障はないでしょう? 勝ったとしても、90対80とか、70対60とか、そういう勝負になるわけじゃん。そうなると、どっちにしても牧野さんは最大100万、安く見積もっても10万から20万ほどの借金を抱え込むことになっちゃうね」

「そうですわね」

「何かその負担を減らす良い方法はないのかよ、上杉君よ」

「う~~ん、こんなのはどうだろう。グッズ販売」

「グッズ販売?」

「そう、もう時間は無いから今から受注しても沢山は作れないだろうけど、牧野さんの生写真とポスターなら幾らでも僕の家のプリンターで量産できるよ」

「そうですわ、その手がありました」

「更にお金を観客に落とさせる手段としてドリンク料500円を取る。それだけでも最低5万円の粗利が出るよ」

「素晴らしいアイデアですわ、上杉さん」

「まだある。僕の家の倉庫にガチャガチャの機械が数台あるんだ。それを使って、その中に何か入れて、ガチャガチャで遊ばせよう。」

「それは良いアイデアだが、何を入れるんだ? 俺の写真か」

「キミの写真なんて、誰も欲しがらないよ。当日来るのはきっと社会人が多いだろうから、残り時間で準備出来そうなものは、そうだな・・・」

「キラキラススガタマですわ」

「何それ」

「男装した牧野さんのブロマイド引きかえ券です。おタマ様、男装するととってもカッコよくなるんですよ~~」

「ふ~~ん、いいね。それなら家でも作れるし、そうしよう。牧野さんが僕達の番頭だから、グッズは牧野さん中心で作ろう」

「了解しましたわ!」


 とくっぺちゃんが上杉君に右手で敬礼をしてみせました。

 何だか当日は凄い事が起こりそうな気がする。


牧野:洗足池公園 ベンチ 夜


 牧野です。

 今日の路上ライブも終わり、私は今、長畑と二人きりでベンチに腰掛けて休んでいます。


「森羅さん、俺も独自に探してみてるんだけど、中々見つからないね」

「そうですね・・・ 本当に東京にいるのかどうかも怪しくなってきました・・・」

「何か探し出す良い方法は無い物かな」

「アミリンとその妹に頼んでますけど、和歌山に行っても収穫は無かったそうです」

「行き詰っちゃったね・・・」

「はい・・・」

「でも大丈夫だよ。網浜は警察だから、独自の情報網を持ってるはずだ。きっと見つけ出してくれる、網浜を信じよう」

「はい、長畑さん。お世話になってばかりで、本当にありがとうございますっ」

「いいんだよ、気にしないで。当日のライブ、僕は牧野さんのライブは観られないけど、3Uで上手くやるから、よろしくね」

「お願いしますっ」


 私は長畑さんに深々と頭を下げました。

 さてと、音楽スタジオに行こうかな。皆が待ってるだろうから。

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