第二部第三話part9『追跡!!』

蘭:レインバス本社ビル エントランス 夕刻


蘭です。ただ今お姉ちゃんに会わないよう細心の注意を払ってレインバスに潜入しています。

大理石で出来た柱の影に隠れて出てくる人たちを注意深く観察しています。

ターゲットの東矢を見つけました。これから後を追います。

犬伏さんは三十分ほど残業らしいので、後で合流するそうです。


さっそく追跡開始です。


蘭:電車内 夕刻


 蘭です。東矢は電車に乗っています。どうやら横浜方面に向かっているようです。

 一体こんな時間に何の用でしょうか?


 と思ったら、横浜近くの駅で降りました。 



 一応犬伏さんに東矢が降りた駅をLINEで知らせておきます。

 そして私も電車を降りました。


蘭:横浜市内、繁華街 夜


 蘭です。東矢宗継と少し距離を取って歩いています。

 と、東矢が地下にある店に入っていきました。


 看板を見ると、そこはジャズバーでした。

 ビンゴ。やっぱり彼は光定聡子、ひょっとしたら森羅聡里に会いに来たようです。

 ですが未成年の私には中に踏み込めません。


 と、そこへ犬伏さんから電話が来ました。


「蘭ちゃ~ん、駅に着いたよ。今どこ?」

「今、駅の北口にある繁華街を真っ直ぐ歩いたところにいます」

「わかった、すぐ行くね」


 店の近くに大きな窓の開けたビルがあります。そこの二階に飲食店がある。

 そこで待機して、東矢が出てくるまで待つことにしましょう。 


犬伏:ビル2階の火鍋屋(夜)


 犬伏です。

 口の中がヒリヒリするので舌を出してます。

 蘭ちゃんはテーブルに肘をついて、

 PCタブレットを見つつ

 何か考え事をしているようです。


「犬伏さんに言われて、目が覚めました。」

「え?」

「お姉ちゃんに逆らって、森羅聡里を追いかけます」


「おお、蘭ちゃん。偉いっ」


「(ミスコン時代の犬伏の写真を見て)

 ところで犬伏さん、凄い可愛いーー流石ミスICU」


「えっ何?」


 あたしはタブレットを覗き込みました。

 そこには大学時代、関西の音大で

 関西のミスコン10名と撮ったあたしの写真が・・・。

 


「他の人と比べても、頭5つぐらい抜けてますね。」


「うわーーーーー止めてーーー削除してーーー」


「私は中華サイトしか攻撃しないので」



「そか・・・くっそ」


「それより犬伏さん、

 和歌山の音大に行ったことがあるんですね」


「ああうん。20のときに、関西のミスコンの人達と

 写真を撮ることになって、和歌山にある音大へ撮影に行ったんだ。

 それより一体どこで見つけたの」


「今、光定聡子という人物を調べていたら、たまたま。

 関西合唱コンクールの出場者に同姓同名の人がいたんです。

 大学部門で、犬伏さんがミスコン活動で行った大学の学生のようですね」

 

「へー。でももう五年前の事だから、流石に卒業してるんだろうね」


「(真剣な表情で)仮に当時大学四年生で2浪してたとしても、

 まだ20代ですね・・・」


「ストレートで入学して、当時あたしが大学1年生で、20歳だから、卒業していたとすると、

 どんなに年食ってても26歳か8歳ぐらいかな・・・あたしより1つ年下か、同い年かもね」


「牧野さんが言うには、森羅聡里は彼女のお父さんに

 もうすぐ21歳と告げていたそうです」


 勿論それも今となっては偽証でしょうが。


「それいつの話?」


「牧野さんが17歳のときだそうなので、1年半前ほど前ですね。

 1年半程、森羅聡里は秋田で暮らしていたそうです」


犬伏「そっか・・・ってことは森羅さんは

 そのとき既に秋田にいたから、和歌山の大学生じゃないかもね」


 あれ、蘭ちゃんが首をかしげている。


「・・・そういうことに、なるんでしょうか??」


「(得意げに)うん、そうだよ。

 光定聡子さんは森羅聡里じゃなかったんだよ~。

 世の中そんな都合よく行かないって」

 

「(悔しそうに)類似点が多かったので

 ひょっとしたらと思ったんですが、

 流石にそんな都合よく見つかるわけないですね」


「まあそうだね」


「ここは基本に帰って外堀から埋めていこうと思います」


「外堀?」


「森羅聡里は直ぐに見つけられなくても、

 彼女と接点のある人間は見つかるかもしれません。

 人間は1人では生きていけませんから、

 彼女も必ず誰かと繋がっているはずなんです。」


「なるほど~」


「そう、誰かと・・・」


 蘭ちゃんがクールな表情で呟いた。

 だけどちょっと悔しそう。

 何か力になれないかな。


「ねえ蘭ちゃん。

 森羅聡里はラウンジ歌手かもしれないんでしょ?

 だったら業界の人に話しを聞いてみようよ」



「音楽業界の人とは接点がないのですが」



「(胸に手を置き)お姉さんに、任せなさいっあたしの知り合いに音楽プロデューサーがいるんだ。

 その人なら、音楽に精通してるし、人脈もあるから、森羅さんに辿り着けるかもしれない」


「ぜひ紹介してください」


「うん、今度のライブに来てくれるから、その時に会うといいよ」


「わかりました」


東矢:ジャズバー店内 カウンター席 夜


 東矢だ。驚いた。森羅さんがセミロングの髪をばっさり切って、

 短めのショートカットにして、メイクも大胆に変えている。

 そして髪の毛を赤く染めているのだ。

 その顔は、牧野さんにとても似ている・・・。


「一体どうしたんですか? 森羅さんっ」

「イメチェン。似合う?」

「ええ、最高に、可愛いです。なんかイケメンな感じで、素敵です」

「へへ、ありがとう。さてと、歌も歌い終わったし、今日はそろそろ帰ろうかな」

「途中まで送りますよ」

「ホント? ありがとう」


 俺と森羅さんは二人でジャズバーを後にすることにした。

 森羅さんはファンの方や店長含めた店員達に丁寧に挨拶をして回り、

 その後、入り口の前にいた俺のところにやって来た。


「さ、いこか」

「ええ」


蘭:ビル2階の火鍋屋(夜)


蘭です。大きな窓際の席から、向かいの通りのジャズバーを望遠鏡で監視しています。

犬伏さんは火鍋を辛そうにしつつも食べています。


「どう? 出てきそう?」

「いえ・・・」


 私が監視をしていると、東矢宗継が女性を連れて階段を上がってきました。


「あっ出てきた」

「ホント?! どれどれ」


 短めのショートカットで髪の毛は真っ赤。メイクも派手。

 牧野さんから貰った森羅聡里のナチュラルヘアーでメイクの写真とは似ても似つかない。


「ねえ、あの一緒にいる女の人、ちょっと錬次朗に似てない?」

「判るんですか?」

「視力2.5だからね、ばっちり見えるよ」 

「凄いですね。確かに、言われてみると、眉の感じが少し似てる気がします。

 牧野さんにも似てますね」

「あの人が森羅聡里かな?」

「いいえ、写真と全く違います。本人かどうかまでは、直接聞かないと・・・」

「よし、蘭ちゃん、チャンスだよ! 直接押しかけよう!」


 動き出そうとする犬伏さんを、私は静止しました。


「落ち着いてください、犬伏さん。この件は、まだ内密にしておきたいのです」

「どうして?」

「今は牧野さんの大事なライブを控えておりますし、余計な心労を与えるわけにはいきません。

 それに私は姉に逆らっている身の上です。もしこのことがばれたら・・・私は姉からとんでもない目に遭うでしょう。

 姉にバレないように、慎重に事は進めたいのです」

「蘭ちゃん・・・」

「時期を見て、私が動きます。ですから犬伏さん。今日見た事は、どうぞ内密に」

「わかった・・・わかったよ、蘭ちゃん」


 犬伏さんはとても残念そうにしています。私も同じ気持ちです。

 お姉ちゃん・・・一体どうして、どうしてなの?



「真琴さんの方にシフトしましょうか・・・」

「ホント?? 頼むよ、蘭ちゃんっ」


 はあ・・・もどかしい・・・あと一歩なのに・・・。


「とりあえず、写真に収めておこうっと」


 犬伏さんがスマホをかざして二人の様子を写真に収めました。いくらスマホの望遠技術でも限界があります。

 恐らくは使い物にならないでしょう。。。

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