第二部第三話part6『指野ネットワーク』

牧野:居酒屋壇ノ浦 玄武の間 昼


 牧野です。長畑さん、犬伏さん、日下さん、東矢さんを誘ってランチをしています。

 ライブ当日の参加を承諾していただけました。


「皆さん、ありがとうございます」

「いいよ、どうせ休みはやることないし」

「あたしはどっちに行けばいいの?」

「犬伏さんと東矢さんはジュリエッタに、日下さんと長畑さんは3Uに行って欲しいんです」

「分かった、牧野ちゃん」

「しかし一万か~。何かと物入りな時期に、ちょっときついな~」

「御免なさい、東矢さん。チケット代金は、皆さんだけには後で必ずお支払いします」


 私が東矢さんと話をしていると、日下さんが徐に喋りだしました。


「ねえ玉藻、あんた、世の中渡っていく為に必要な物は何だと思ってる?」

「えっ?! う~ん・・・それはやっぱりお金と、才能! これ以外無いですよっ私は自分の才能で、夢を掴むんですっ」

「違う。」

「え?」

「それもあるけど、もっと大事な物があるっ」

「もっと大事な物?」

「もっと大事な物、それは人望よ。どんなにお金があっても、才能に恵まれていても、人望のない人間は、何れ寂しい末路を送る事になるの」

「日下さん・・・」

「ま、この話は指野さんの受け売りなんだけどね」

「美咲ちゃんの?」

「指野さんと狩川さんは、今、あんたのライブの人集めの為にその人望と人脈をフルに使って奔走してるのよ。少しは二人に感謝しなさいっ」

「美咲ちゃん達が・・・・私のために・・・」

「指野さんの人脈は凄いんだよ。なんと言っても元芸能人だし、政治家から経済界の大物まで通じるの。あたし達は指野ネットワークって呼んでる」

「指野、ネットワーク・・・」


そういえば、この前美咲ちゃん、自分で言ってたな。


「わかったら、当日ちゃんとやるのよ? 下手な演奏したら、このあたしが許さないからねっ」

「わっわかりました、日下さん。教えてくれて、ありがとうございます」


 丁度その時、とくっぺからLINEが届きました。


 自分のファン50名を3Uに送れる目処がついた、という嬉しい報告でした。


 ありがとう、とくっぺ・・・。


 人望、か・・・。

 

 ようし、もう負けてなんていられない。ライブ・・・頑張るぞ!!

 真剣勝負じゃい!!



牧野:住宅路 夜


 牧野です。上杉君たちとの音楽制作が終わって、ちょっと一人で寄り道をして、

 今は自宅に戻っている所です。


 と、近くの電柱に見覚えのある男性がギターを持って佇んでいました。

 

 あの男は・・・今井、大志!?


「うぎゃああああっ」

「おい、顔見知りに会って、いきなり悲鳴をあげるなんて酷くないかい?」

「なっなんであんたがここにいるんだっ」

「ちょっと野暮用でね。キミこそ未成年のクセに帰りが遅いじゃないか。音楽制作か?」

「私のことはほっといてっ音楽のオの字も知らないくせに!!」

「ギターなら俺も弾けるぞ」

「え」

 そう言うと、今井大志はギターを華麗に弾き始めました。それはそれは、とても上手でした。

「高校2年のときから軽音部に所属して、大学でも軽音サークルに所属していたんだ。ギターとボーカルをやってたよ。

 俺は音楽が好きだから、今は3Uの店長をやってるんだ」

「そっそうだったんだ・・・」

「当日のライブ、俺は外野だが、楽しみにしているよ。せいぜい頑張るといい、クックックッ」

「でたっクックックッ」


 そのときでした。私の背後から謎の男の人が近づいてきて、暴力を振るおうとしてきたんです。


「危ない、牧野さん!」

「え」


 空手をやってた私はとっさにその後方からの拳を避けました。

 そして今井大志が男に立ち向かっていき、

「しゃがめっ」と叫びました。

 言われた通りに私がしゃがむと、今井大志は私を飛び越えて、

 相手にドロップキックをお見舞いして、一撃で寝かせてしまいました。


「なっ何? 何なの、一体??」

「大丈夫か、牧野さん。どこか怪我は無いか?!」

「あっはい。その・・・ありがとう、・・・ございます」

「後の事は俺に任せろといいたいが、念のため、キミを家まで送ろう」

「あっいや、でも、近くだから、平気だよ」

「駄目だっ送るっ」


 そう言い切って、今井大志は私の手を強引に掴むと、私を社宅まで引っ張っていきました。

 一体何だっていうの? 暴漢? 東京って、怖い。


 それにしても今井大志、一撃で倒すなんて、凄く喧嘩強いな。私、空手二段だけど、戦ったら、負けそう。

 ・・・・一体、どんな人生送ってきたんだろう??


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第二部森羅編第三話part7『犬伏真希ちゃんの献身』


犬伏:芸能音楽事務所スケール社内 午後


 犬伏です。あたしも可愛い後輩、牧野ちゃんの力になってあげたくて、

 スケールに営業がてら、カウントZEROライブのことを相楽社長に話して見る事にしました。


「ほう・・・そんなことをするのか」

「そうなんです。それで、ぜひ社長に見に来ていただきたいと思いまして・・・」

「それはいつだい? 来年か?」

「実は、12月20日なんです」

「なんだって! あと一週間も無いじゃないか。駄目だ、駄目だ。その日は私も大事な会議がある。いくら犬伏君の頼みでも行けないよ」

「そうですか・・・残念です」


 うう・・・あたしって、ホント役立たず。


 と、そこへ沢北文殊さんがやって来ました。


「あの、私でよければ、行きますよ。部下も三名連れて行きます」

「え~~~!! ホントですかぁ?? 嬉しいです。有難うございます!」


 沢木さんはちょっととぼけた性格をしているけど、一応これでも敏腕の音楽プロデューサーです。

 きっと牧野ちゃんを見たらビックリするはず。いいぞ、あたし、ナイス。


 あたしは早速職場で働いている牧野ちゃんにLINEで四人ジュリエッタ側の観客を確保した事を知らせました。

 牧野ちゃんからはすぐに、有難うございます! と返信が来ました。


 ああ、良い事するっ、て、気持ちいい~~。

 あっでも一応音楽プロデューサーとか言っちゃうと、牧野ちゃん当日緊張するかもなので、素性は伏せておくことにしようっと。

 ふふん、あたしって出来る女~。


日下(ナレーション)

「このときの真希の微力な働きが、まさか牧野さんとあたしの運命を大きく変えることになるなんて、そのときは思いもよらなかったわ」



蘭 :長畑の家321号室 犬伏の部屋内 夜



 蘭です。ただ今ひと仕事終え、犬伏さんの部屋で勉強をしています。

 牧野さんは最後に言ったあの言葉が耳に引っかかっています。

 光定という苗字は、東矢から聞いたと・・・・。


 もしそれが事実なら、とんでもない話。

 あの男、やっぱり何か重大な秘密を隠してる。

 探りたい・・・でも、お姉ちゃんの目が怖い・・・。

 ああ、一体どうしたらよいのでしょう。


 と、そこへ犬伏さんが帰ってきました。


「ただいま~。あれ、蘭ちゃん。来てたの?」

「はい・・・ちょっと家には居辛くて・・・」

「わかる、わかるよ、その気持ち! アミリンは、蘭ちゃんに冷たすぎる!」

「犬伏さん・・・」

「そういえば、蘭ちゃん。今、仕事あるの?」

「いえ、今はありません。」

「だったら、あたしが蘭ちゃんに仕事をあげるよ」

「仕事?」

「一つは、東矢君の恋をぶち壊して欲しい。もう一つは、真琴が今何をしているかを調べて欲しい。

 お金なら、十万までなら出すよ! どう? この仕事、引き受けてみない?」 

「私は善人や好意を持っている人からは金は取りません。でも、その話、興味深いですね」

「ホント? やってくれる?? じゃあ報酬は」

「この部屋に定期的に泊まらせて下さい」

「いいよ、幾らでも、好きなだけ泊まっていって~あたしが許すっ」


 どうしましょう。真琴さんの件は即快諾できるけど、東矢に関しては不用意に動けません。

 でも、これは他ならぬ犬伏さんからの依頼。

 お姉ちゃんにばれない様に、細心の注意を払っていけば・・・。

 この私なら出来るはず・・・真実を知りたい・・・。


「今、お姉ちゃんにバレると色々不味いので、その辺都合してくれますか?」

「勿論。アミリンはこの犬伏真希様が食い止めてみせるよ!」

「では、これは二人だけの秘密ということで・・・まずは東矢さんの件からあたりましょう」

「何するの?」

「仕事が終わった後、どこへ行くのか、何日も追跡します」

「そか。東矢君も何気に帰るの遅い日結構あるもんね。それはいいかもしれない。で、あたしに何か出来ることある?」

「東矢さんが会社を出たら、私にLINEで教えて下さい。」

「う~ん、直帰の日もあるからな~、でもここ数日なら会社に帰社してくるかもしれないな」

「そうですか、ではそのときに」

「オッケー! 頑張ろうね、蘭ちゃん」

「はいっ」

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