第二部第二話Part4『オーナーの正体』

網浜:男装カフェレストラン ジュリエッタ スタッフルーム(夜)




 アミリンでっす。

 生田店長は言いました。

 この店の新しいオーナーの名前、

 それは小野木佳代だと。

 疑問に思った凜は店長さんと今井さんの間に割って入りました。



「すみません、店長さん。その小野木佳代というのは、

 (スマホで小野木の写真を見せる)この人ですか?」


「(少し溜めて)そう、この人。髪が長くて、

 なんというか、とても綺麗な人よね」


「大変失礼なんですが、彼女は既に亡くなっていますよ」



「なんですってっ。そんな、でも毎月資金が振り込まれてくるんですよっ」


「・・・どういうことです?」


「こっちが聞きたいわっ」


「店長は小野木さんが亡くなったことをご存じないのですか? けっこうニュースで報道してたんですよ」

「ごめんなさい、私、ロシアと日本を往復する生活をしているもので、日本の話題にはすっかり疎くて・・・」


「(今井が話を遮って)・・・ま、その話しは置いといて、

 当日はよろしくお願いしますね。」


「はい。どうぞよろしく」




 今井さんは背を向けたまま軽く手を振って

 スタッフルームを出て行きました。




「ああ、今井の奴、帰っちゃったよ、いいの、お姉ちゃん?」


 


入れ替わりで蘭が入ってきました。




「いいの。話は終わったから」




 謎が沢山増えたけど。




「牧野さん。今日はありがとう。もう帰っていいわよ」

「わかりました。私の我侭を聞いていただき、ありがとうございます」

「(にっこりと笑顔)店が繁盛するなら良いことよ」

「(笑顔)ありがとうございます。よし、じゃあ帰ろう、アミリン」

「う、うん」

「今日はタマのお家に来て、ご飯食べようよ」

「ホント?? ありがとう」


「しょうがないから行ってあげますか」


「クズはお断りだよっ」

「誰がクズですかっ誰がっ」



 蘭と牧野さんがにらみ合っている。


 凜は間に入って二人を必死になだめました。


 もう蘭ったら、お願いだからお姉ちゃんを困らせないで欲しいな。

 



犬伏:道玄坂 お洒落な飲食店 (夜)




 犬伏です。引き続き、女芸人コンビの漫才をお楽しみ下さい。




「ルリさん。口は災いの元ですよ。もっと気をつけないと。

 犬伏さんが怯えているじゃないか。彼女に迫るあなたは

 サタンのようですよ」




「人を悪魔の化身みたいに言わないで。

 あたしだって人間だし、女よ。恋だってするし、

 時には泣いたりすることもある。

 それでも私は私らしく日々を力強く生きていきたいの」



「そして泣かした相手はぶちのめすわけですね」




「うん。そう半殺しにって、

 って、馬鹿! あんた母国に強制送還されたいの!」


「ひいい、それだけはご勘弁を~~」




 リアクションいいなー




網浜:牧野の家 384号室 玄関前(夜)




アミリンです。久しぶりにタマちゃんのお家に来ました。


玄関の前ではあの指野さんが立っていました。


「美咲ちゃん」

「玉藻」

「何で来たの?」

「例の件であなたと話しがしたくって」

「いいよ、わかった。皆、寒いでしょ、家に入って」


 タマちゃんに促され、凜たちは社宅のマンションに入りました。



網浜:牧野の家 384号室 リビング(夜)


 引き続きアミリンがお送りいたします。


 相変わらず室内はいい香り。部屋の隅には沢山の弦楽器が置かれています。

 タマちゃんのギターとベースですね。

 牧野さん以外の凜達はコタツに入りました。

 家には牧野さんと妹の蘭、何故か先に家に入っていたストーカーのとくっぺ、そして指野さんがいます。


 どうしよう、とくっぺ。もう現行犯で逮捕しちゃおうかな~。でもまだ未成年だしな~。


「とくっぺには私の家の合鍵を渡してあるんだよ」

「なんでそんなことを?」

「だって、自分のこと熱心に応援してくれるファンって、とくっぺしかいないんだもん」

「凜もいるよ」

「私もいるわよ」

「私は興味ないですね、ふんっだ」

「お前には聞いてないっ」

「ああそうですか。せいぜいストーカーと仲良くやってくださいね」


「うん。そうだ、ご飯作るね、鍋でいいかな?」




「(コタツでぬくぬくしつつ)私も手伝いましょう」


「いいの? じゃあちょっと来て」




 蘭が立ち上がって牧野さんより先に台所の方に行った。



蘭:牧野の家 384号室 リビング(夜)



 蘭です。牧野さんの家で皆と一緒にみかんを食べています。

 すると牧野さんだけ珍妙な剥き方をしているのに気が付きました。

 みかんのヘタに両親指を突っ込んで縦に裂く方法です。

 見たことがない剥き方です。


「牧野さん。その剥き方はなんですか?」

「え。ああこれ、森羅さんに教えてもらったんだ」

「森羅さんに」


随分と独特な剥き方ですね。


「その剥き方、和歌山剥きじゃない?」

「和歌山剥き? なんですか、それは」

「この前テレビで特集やってたよ。和歌山県の人は皆こういう剥き方するみたいだね」

「和歌山っ???」

「慣れると楽だよ。美咲ちゃんもやってみたら?」

「え」


何故か指野さんが固まっています。一体どうしたんでしょうか?


「そっそうね、やってみるわ~」


和歌山・・・。

 

網浜:牧野の家 384号室 (夜)


 


 アミリンです。

 今、凜と妹の蘭ととくっぺと牧野さんと指野さんの五人で

 鍋を突いていました。 

 料理自体はとっても美味しかったんですが、

 食事後も皆沈黙で、少々気まずい食卓になってます。



「今井大志に会ったよ」

 

 牧野さんが口火を切りました。




「(無言で牧野を見つめる指野)」

「ライブ、することになった」

「そう」

「無駄だと思うけど、止めるなら今のうちだよ」

「(儚げな表情で牧野を見つめる)」

「(指野の表情を伺う蘭)」

「応援するから、頑張って」




 うーん、重たい。重たい。

 

「お二人とも、お話しのところちょっとよろしいですか」




 蘭が絡んできた。

 また何か変な事を言わなきゃいいんだけど。




「指野さん。今度のライブ、

 あなたにも協力していただきたいのです」




「協力? 私が?」 




 蘭が今度の対決方式カウントZEROライブの詳細を話した。

 

「へえ・・・かなり手の込んだ対決をするのね」




「この対決、牧野玉藻を勝利に導くには、

 指野美咲さん! ズバリGAMの力が必要不可欠です」




 蘭がいきなりぶち込んできた。




「協力しろってこと?」

「蘭! 美咲ちゃんを巻き込まないで!」


「指野美咲さん、

 あなたには協力する理由があるんじゃないですか?」




「どういう意味かしら?」




「(ニンマリと悪い笑顔で)

 先ほどまでのやりとりから察するに、

 あなた、何か隠し事していませんか?」


「隠し事?」


 蘭の奴、突然何を言い出すのかと思ったら・・・全くもう。


「蘭、いい加減にしなさい。指野さんがタマちゃんに何を隠してるっていうの」

「それは・・・まあ、色々」

「うふふ、何だか私、尋問されてる気分になっちゃったわ」

「ウチの妹が申し訳ありません。蘭、口にチャック」

「ムググッ」


「それはまあ、私と玉藻はいとこ同士だけど、まだ出会って半年だし。話していないことも沢山あるわ。

昔話とか、色々ね。一応東京の親代わりをしているけれど。話を戻すけど、

3Uの件に関しては私は止めた方がいいと思ってる。危険すぎるわ」



「どうやら3Uに関しては、私はお邪魔虫のようですね。

 ですが、今度のライブの件は必ず協力してもらいますよ、指野さん」




「(蘭を見て笑顔で)わかってるわ。私にとっては、

 大切ないとこだもの。これでも守りたい気持ちはあるのよ」

 

 牧野さんは、ずっと不機嫌そうに黙ったままです。

 

「(牧野を見つめ、少し溜めて)


「玉藻、私が、あなたの、東京のお母さんになってあげるから」


「・・・」


「気は進まないけれど、どうしてもと言うのなら、今度の件も、協力してあげる。

 だから、私には辛いこと、今感じていること、

 何でも話してほしいの、お願い、玉藻」




 指野さんは優しい表情で牧野さんにそう語りかけたのですが・・・。




「・・・ふざけないで」

「玉藻?」




「何がお母さんになるだっ。

 お母さんのこと、何も知らないくせにっ。

 私のお母さんはっ世界に1人だけだっ。

 代わりなんてっ必要なぁいっ」




「タマちゃん・・・」

「おタマ様・・・・」

「(クールな表情で牧野を見つめる蘭)」

「・・・ごめんなさい、玉藻。私、そんなつもりじゃ・・・」




「帰ってよ。もう帰って! 

 今すぐ私の前から姿を消してよっ」



「(無言でうなづき、立ち上がる指野)」


「(指野の方を向き)」


「平気」


「(冷笑しつつ)子供ですね」

「(蘭の方を向き)ガキも帰れ!」

「(マフラーを巻き)言われなくても帰りますよ~だ」




 結局、凜達も指野さんと一緒に帰ることになりました。



長畑:カラオケ店 (夜)




 長畑だ。

 何故か二次会的なノリでカラオケ店に来ている。

 犬伏がアホネンと肩を組んでデュエットソングを歌っている。

 俺と日下さんはソファー席に並んで座っている。

 アホネンの顔は真っ赤だ。病気か?

 犬伏とアホネンはすっかり打ち解けたらしい。少し安心した。




犬伏「(ダミ声でデュエット曲を熱唱)」

「音痴って、犯罪よね」

「(うなづく長畑)」 

 




網浜:住宅街 (夜)




 アミリンです。

 蘭と凜ととくっぺ、そして指野さんの四人で

 寒空の下を歩いています。

 指野さんが話し始めました。




「あの娘はまだ、母親のことが忘れられないのね。

 母親なんて、めんどくさいだけなのに」



「そんなことないですよ。親は尊いものです」


「あなたは、とても良い家庭環境で育ったのね」


「これが普通の感情じゃないんですか?」


「(暗い表情で)

 そうね。でも、そう言えるあなたって、とても素敵。

それにしてもあの子、森羅さんのことばっかりね。

この私がこんなに傍にいて、大事にしているつもりなのに、私の入る隙間なんて、どこにもない。・・・正直、嫉妬しちゃうわ」

 

 そう話す指野さんの表情は、とても暗かったです。

 恐らく指野さんは家族、

 特に母親との関係が上手く行ってないのかも知れませんね。




「(無言で凜の手を握ってくる蘭)」

「(蘭の手を強く握る網浜)」




 いよいよ、勝負の時、来たるですね。


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