第二部第二話Part3『名探偵の妹は作戦の練り具合っぷりも完璧』

長畑:道玄坂 お洒落な飲食店 (夜)




 長畑だ。

 今、日下さん達と犬伏も一緒に夕食を食べているところだ。

 テーブルには洒落た料理が沢山並んでいる。

 

 俺は日下さんと楽しく談笑していたが、

 犬伏は無言で、アホネンも黙々と食べている。


「長畑君って、大学時代は演劇サークルにいたんでしょ?」

「ええ、演劇に夢中になってしまって」

「やっぱり親の影響?」

「そんなんじゃないですよ」

「野球はもういいの?」

「すっぱり諦めました」

「いいわね、その性格。あたしなんてまだ夢を引きずってるわよ」

「日下さんの夢って何です?」

「あたし医者になりたかったのよ」

「へえ」

「でも家が裕福じゃないから諦めた。以来独学で医療を勉強しているわけ」

「そういえばいつも医学書読んでますよね」


「(アホネンの体を肘で小突き)なんか喋りなさいよっ」

「いえ・・・あの・・・」

「アホネンは大人しい奴なんですよ」


「まったくもう。つまんない女ね。

 普段友達とどういう風に喋ってるの?」


「自分、日本に来てから友達、いないんで」




 飲食店内に冷たい風が流れた。

 

犬伏「(同情した目でアホネンを見つめる)」


「そんなまさか・・・中学とか、高校の同級生とか、

 大学とか行ってたでしょ」




「オタクを理由にずっといじめられてました。だから日本に来たんです」




 飲食店内に更に冷たい風が流れた。




日下・長畑「哀れむような視線をアホネンに送る)」


「ですから、日本に来てからこういう風に、皆さんと、

 ご飯を食べる機会なんて、殆どなくて。

 人付き合い苦手なんで、今、とても、緊張しています」




犬伏:道玄坂 飲食店 (夜)




 犬伏です。

 やだ・・・アホネンが、あたしとダブって見える。

 高校生のとき、あたしは苛められてた。

 それを助けてくれたのが、真琴だった。

 あたし達、名前が似てるねって声かけてくれて、

 それから色んなことを話すようになって、

 いつの間にか、親友になって、一緒に同じ大学にも行った。

 つい最近まで一緒に暮らしてたのに・・・なのに・・・。

 でもアホネンには、友達がいない。




「アホネン!」

「(ビクッとして犬伏を見る)」




「緊張しなくていいよ。私達、同じ職場の仲間なんだから、

 今日は楽しく過ごそうよ、ね(瞳を潤ませる)?」




「(驚いた様子で)犬伏、お前・・・・」

「犬伏さん・・・」

「(オッサンみたいな大きなくしゃみ)」

長畑・犬伏・アホネン「(全員が日下の方を向く)」

「ルリ・・・あなたって人は・・・」

「まあいいじゃない。食べましょう、食べましょう」




網浜:男装カフェレストラン ジュリエッタ店内(夕刻)




 アミリンでっす。

 ただいま蘭とジュリエッタのテーブル席に座り

 軽食を取りつつジュリエッタ店長の帰りを待っています。

 タマちゃんはと言うと、

 壁にもたれかかって死にそうな表情になってます。

 対決方式がよほどショックだったみたいですね。




「(うなだれる牧野の方に目をやり)

 人生は所詮ジェットコースターですよ。

 確実に勝つには、策を練り、それに賭けるしかありません」




「(跳ね起きて)うるさい黙れっこの悪魔!

 アミリン! 今すぐルールを修正してよ、

 勝っても借金生活なんて嫌だよ」




「ですから策を練っているといったでしょう、

 この単細胞。」




「策ってどんなだよ」




 今井大志は、今、外の空気を浴びに出ている。




「簡単ですよ。帰らないで最後までいてもらえる

 倫理観を持ったメンバーを厳選するんです。

 一方で今井側には100名に頃合を見て帰るように

 指示を出すんです」


「なっ・・・」


「それじゃ不正じゃん」


「(サイダーを飲みつつ)

 確実に勝つには、それが一番です」


「金で勝利を買うわけ?! そんなのズルだよ」


「ルール上は何の問題もありません」




 蘭がルールが表示されたPCパッドを取り出してきた。




1、事前に予約でお金を集金しないこと。

2、当日途中退席した場合はチケット代の返金。



3、退席した方にはチケット代に相当する金額を手間賃として渡す。

 (例:チケット代1万円の場合は1万円。

 つまり自分が出したお金は返金してもらい、

 更に同等のチケット金額がもらえるというシステム)




4、100名の集め方は自由。

5、チケット金額は事前に指定すること

6、発生した手間賃は敗者が支払うこと





「これが何だって言うんだ」

「このルールの4番目がポイントです。

 ここには、事前に来る100名と

 演奏者が事前に接触してはいけないとは書かれていません。」




網浜「・・・」


「つまり?」


「(立ち上がり)

 ジュリエッタに送り込む100名は、牧野さん、

 あなたの魅力で事前にメロメロにした人間を

 送り込めば勝てるんですっ」




 はあ・・・、まったく、この愚妹は。。。




「それって抜け穴って奴?」




「そうだよ。今井って人は恐らく気がついていたと思うけど

 そのことにはあえて触れてこなかった。

 そして私達が3U側の100名を集めることを承諾した。

 向こうは負けたがってるか、よほど自信があるかのどちらかだよ。

 でも勝てるね。これは勝ったよ」




「向こうの100人はどうやって集めるの?」




「偽装問題で買ってもないのに

 返金を求める非常識な輩が蔓延してる時代だよ。

 そこらの底辺層に話しをふっかければちょろいもんだよ」




「お姉ちゃんは反対だよ、こんなやり方」

「(網浜に詰め寄り)牧野さんが負けて泣く姿を見たいわけ?!」


「(不安げな表情で網浜を見つめる)」

「・・・凜は見たくないけど、タマちゃんは、それでい」



「(遮るように即答)

 いいよ! 勝てるなら! もうなんでもいいよ!!」




「(ショックを受けた様子で)タマちゃん・・・」




「というのは冗談。でも、せっかくもらったこのチャンス。

 大事にしたいよ。どんな結果になっても、全て受け入れるよ」




「(安心した様子で)タマちゃん」




「名探偵の妹が絡むこの勝負、負けるわけが・・・

 (可愛らしくクシャミ)」




「どうしたの? 風邪?」




「(更に可愛らしくクシャミ)

 ん~・・・・花粉症の薬飲み忘れたかも」




「もう大丈夫?」


「ちょっと薬局で買ってくるね」




 蘭は走って店を出て行きましたよ。



日下:道玄坂 お洒落な飲食店 (夜)

 

 日下です。

 お洒落な料理に囲まれて、素敵な晩餐。


 のはずが・・・。 


 犬伏の奴、相変わらず職場の愚痴を愚痴愚痴言ってるわね。

 頭に来る。




「(涙を流しつつ)はー、でもほんとさ、

 もし来年秘書課いけなかったら、

 あたし会社辞めようかなって思ってるんだ」




「そんなこと言うなよ。一緒に頑張ろうぜ」



「でももう営業事務は嫌だよ。地獄だもん。

 辞めたいよ。ホント辞めたい。

 今は牧野ちゃんとかいるから何とかやれているけど、

 皆がいなかったらもうもう絶対に辞めてる。はあーー辞めたい」




 言っとくけど、秘書課はもっとしんどいわよ。


「甘ったれたこと言ってるんじゃないわよ。ところであんた好きな花は?」

「え? も・・・桃の花」

「ちっ・・・・だからあんたは駄目なのよ」


「うう、酷い。もう山で暮らしたい。胡蝶蘭を育てたい」


真希の奴、また落ち込んで。ホントにネガティブなんだから。


長畑・アホネン「(苦笑)」




 あたしは我慢できなかった。 

 

「あのさ、真希」

「何よ、ルリ」


「辞めたい、辞めたい、辞めたい、辞めたい。

 そんなに辞めたいなら、

 辞表書いて明日にでも出せばいいじゃない。

 なんなら、あたし優しいからコンビニで

 筆と便箋買ってきてあげようか? 

 今すぐここで書いちゃえばもうこの話は終わりに出来るでしょう。

 不毛な会話に、サヨナラできるねっ」


「なっ突然なんで、そんなこと言うのよ。

 あたしは、辛いから、自分のこと、・・・・」



「(止めに入ろうとする)日下さん、ちょっと・・・」



「あん? 辛いだ? 

 あんたさ、ホントふざけんじゃないわよ・・・・。 

 弱いわね、ゴミみたいな精神力。

 この世の中、あたし達と同じぐらいの年で、

 就職先で悩んでいる人が今、どれだけいるか、

 あなた分かってるの! 苦しいのはあんただけじゃないの! 

 皆一緒なのよ!! 自分だけ悲劇のヒロイン面して、

 メイク落としてボロボロ泣くんじゃないわよ!! 

 泣いたって何もはじまらない! 

 自分が会社に選ばれたんだってことに、

 少しは誇りと覚悟を持ちなさいよねっ!」




「ルリさん!」


 アホネンが喋る私の胸元に手で制止をしてきた。




「(怒り顔でアホネンの方を向く)」


「だっ駄目ですよ。そんなこと言ったら。ルリさんは、

 もっと、犬伏さんのこと、見守ってあげなきゃ、駄目ですよ」




長畑「・・・」

犬伏「・・・」 




「(頼んでいたワインを一気飲みして、

 グラスを床に叩きつけるぐらいの強さで置いて息を吐き)

 ・・・ごめん、言いすぎた」




「い、犬伏さんも、もっと毎日、ネガティブにならず、

 生きていきましょうよ。確かに仕事は辛いですけど、

 でも今は長畑さんがいるし、牧野さんも、

 そしてこの私もいるんですから、楽しく働きましょう」




「(目に涙を浮かべ)アホネン・・・」

「アホネンの言うとおりだ。明るく行こうぜ、犬伏」

「(泣きながらうなづく)」




 アホネンの奴・・・。




牧野:男装カフェレストラン ジュリエッタ店内(夜)




 牧野です。

 今井がタバコから帰ってきて、

 蘭ちゃんが戻ってこない丁度そのとき、

 生田梨香店長が店内にやってきました。


 私は直ぐに椅子から立って店長の方に向かいました。

 何故かアミリンも席を立ってこっちに向かってきました。




「店長!」

「あら、牧野さん。お疲れ様。今日はありがとう、

 助かった。もう帰っていいわよ」

「実は、例の件で、3Uの店長が」

「(牧野を遮るように手でどかして、名刺を差し出し)

 どうも、始めまして、3U店長の今井大志です」


「(名刺を受け取り、自分も出し)

 あ、どうも、ジュリエッタ店長の生田梨香です。」




 二人は名刺を交換しました。

 そして話しを始めました。



牧野:男装カフェレストラン ジュリエッタ スタッフルーム(夜)




 牧野です。アミリンも一緒です。

 今井大志と店長が話をしています。


「この店はロシアにゆかりのある物が多いですね? ロシア好きなんですか?」

「実は、私の恋人がロシア人なんですよ。結婚も考えてるんです、うふふ」

「ほう・・・それはおめでたいですね。お幸せに」


今井と店長が他愛のない世間話をしています。



「お店を使うことは問題ありません。

 元々閑古鳥だった店ですから」


「そのようですね」


「本当は年末で閉店を考えてたんですけど、

 今年の4月末頃にオーナーになってくれた人が、

 お金を出すから続けるように、と言ってくださって」




 オーナー?




次回に続く。

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