第二部第二話Part5『名探偵の妹はミノムシっぷりも完璧』

網浜:レインバスビル 給湯室付近 (朝)




 アミリンです。今日も元気に社内の聞き込み調査のお仕事です。

 レインバス社員の自殺は大きなニュースになりました。

 でも他殺の線もあるので凜たち警察は慎重に捜査を進めているのです。


 牧野さんはというと、今日も営業部の皆の使うカップを洗っています。




「タ~マちゃん♪ おはよん♪」

「(はっとして振り返り)あっアミリン。おはよう・・・」




 元気がない様子ですね。

 まあ、この前あんなことがあったから、

 気にしているのかもしれないな。




「ねえタマちゃん、そんな顔しないで」

「え?」

「笑顔、笑顔(ニンマリとした笑み)」

「でも・・・」




「笑う角には、福、きたる! 

 いつも笑顔を絶やさないことだよ」




「アミリン・・・私・・・」


「今日も一日、元気者で行こ~う!」


「(明るい表情になり、網浜を見つめ、うなづく)」


「凜も手伝うよ」




 凜も給湯室に入ってコップを洗い始めました。




「(コップを洗いながら)100人、集めなきゃだね」




「(コップを洗いながら)そうだね。

 あと約2週間あるから、あせらなくても大丈夫だよ」


「幼成と勝負曲も作らなきゃだから、意外とカツカツだよ。

 もう、隠し事してる場合じゃないね!」




「タマちゃん?」

「アミリン! 私、皆に言うね!」




牧野:通路 (朝)




 牧野です。

 もう腹を括りました。

 給湯室を出ると、そこには長畑さんが・・・。




「あ・・・」

「あ・・・」




 アミリンが給湯室から顔を出してきて




「(笑顔で)あ、長畑さーん、おはよーございまーす」

「(網浜の方を向き)ああ、おはよう」

「長畑さん!」

「はいっ」

「あの、今日のお昼・・・・その・・・屋上っ!!」


「えっ」 

「え」

「あっそのそういう意味じゃないです、言葉のあやです、誤解しないでください」

「お、おう・・・」




アホネン:海鮮居酒屋 壇ノ浦 玄武の間(昼)




アホネンで~す。

犬伏さん、長畑さん、網浜さん、日下さん、東矢さん、

そして牧野さん。

7名が揃って昼飯に壇ノ浦に来ています。

牧野さんの提案で、昼食会として集められました。

そしてそこで、牧野さんは自分が音楽をやっていること、

今度、ライブがあることを話してきました。




「えーーー! 牧野ちゃん、音楽やってるの!?」




「(照れながら)はい。

 一応、プロのミュージシャン目指してます」




「全然気づかなかったよ。どんなジャンルやってるの?

 グラインドコア?」




「ちっ違います。昔はブラックメタルとかをやってましたけど、

 今はオルタナティブロックです。」




「なんだ、やってたんじゃん」




 驚きの表情を見せる犬伏さんと東矢さんとは対照的に、

 長畑さんと網浜さんは冷静に受け止めているといった感じです。




「アミリン、牧野ちゃんのこと、知ってたの?」

「はい、・・・実は、けっこう前から」


「れん坊は知らなかったんだよね」


 


 犬伏さんの無垢な問いかけに、

 長畑さんは一瞬言葉を躊躇いつつも

 切り出しました。




「実は、知ってた」

「え? どうして?」




「以前牧野さんのバレッタ騒ぎがあっただろ。

 そのときに、知ったんだ」




「あ・・・そうだったんだ」




 犬伏さんの顔色が変わりました。




「牧野さんには秘密にしてほしいって言われてたから、

 俺と網浜はずっと黙っていたんだよ」




「そうだったんだ・・・」

 

「(会話を遮るように)

 そこで、皆さんにお願いがあるんです!

 実は、今度のライブ、特別なルールがあって、

 その、なんだっけ? アミリン」




「カウントZEROという対決方式で、

 100人の客を入れてライブを始めます。ライブチケットは1万円。

 途中退席者にはチケット代の返金をするんです。

 更に手間賃としてチケット代に相当する金額を渡します。

 最終的に残っていた客の数で勝敗を決めます」



「なるほど。つまり言い方を選ばなければ、

 来て途中で帰るだけで1万円もらえる年末バイトになるわけですね」




「赤の他人だと返金目当てに途中退席者が続出するだろうな」




「随分とエグいルールを考えたわね」




「タマちゃんが勝つために、少しでも、

 彼女のことを知っている人を会場に送り込みたいんです」




「お願いします。皆さん、私に力を貸して下さい」


「もちろん。牧野さんの頼みなら断れないね」

「ぜひ、参加させていただきますよ~」

「(お辞儀して)東矢さん、アホネンさん。二人とも、ありがとうございます」



「でもそのルールだと、あたしと網浜と長畑君は

 牧野さんのところにはいけないんじゃない?

 クラブや路上ライブ等で音楽知ってしまったからね」


と、日下さんが言いました。



「あっ・・・」

「その辺は大丈夫ですけど、当日どちらに行ってもらうか現在検討中なんです・・・」




「それ、どういうこと? れん坊は牧野さんの 

 ライブに行ったことがあるの?」




 犬伏さんが必死な形相で二人に迫っています。




「(犬伏の方を向き)ちょっと黙っててもらえますか」

「真希ちゃん、シー」


「(苦悶の表情を浮かべる犬伏)」




「当日、牧野さんのところに行けるのは、ヒガシさんと

 アホネンさん、犬伏さん、凜の四人にしようと考えています。

 日下さん、長畑さんは対戦相手の方に行ってもらう予定です」




「ちょっと待って、あたし参加するなんて行ってないけど」

「お願いします! 日下さん! お願いします!!」

「3Uにはレインバス社員は行けないわよ!」

「(ニヤニヤしつつ)どうしてですかね!?」

「どうしても! よっ」

「お願いします! 日下さん! お願いします!!」

「駄目よ! 駄目ったら! 駄目!! この前言ったでしょっ」

「(ニヤニヤしつつ)どうしてですかね!?」

 

 なんか収拾がつかなくなってきました。




「(切なそうな目で長畑を見つめ)れん坊・・・」




牧野:ファミレス (夜)




 夜。


 牧野です。

 ようやくカミングアウトして、スッキリした気分です。

 今は日下さんと、幼成と、豚さん、

 プロモーターの蘭ちゃんの5人で

 ご飯を食べつつ打ち合わせをしています。

 蘭ちゃんは相変わらずコーヒーフロートのアイスの

 シャリシャリした部分だけを食べ続け、

 恍惚とした表情をしています。




「あなたが噂の法月幼成君ね」




「はい、そうです。自称天才ミュージシャン、法月幼成です。

(桝井を指差し)で、そこのガタイの良い人は誰?」

「私の秋田時代のパートナーだよ。メタル系ドラマーの桝井幸成さん」

「よろしくな、クソガキ」

「ご挨拶だね」




「当日のあたし達のサポートメンバーを

 してもらうんだから。仲良くしてよね」




「はいはい」


「お話しのところ申し訳ないんだけど、

 朝稲小弦という奴は、ライブの件、承諾しているの?」


 と日下さんが言ってきました。


「タッグを組んでる今井から直接話が行くと思うけど、

 私も個人的に対戦前に会ってみる予定です。」



「会うなら早い方がよいでしょう。連絡は取れますか」


「(スマホを取り出し)何とか頑張ってみる」



東矢:長畑の家 リビング (夜)




 東矢だ。

 真希ちゃんがボーっとした様子でソファに体育座りをしている。




「どうしたの? 元気ないじゃんかよ」

「れん坊が、あたしに隠し事してた・・・」




「しょうがないだろ。牧野さんが秘密にしてくれって

 言ったんだから。れんちゃんだって知りたくて知ったわけじゃない。

 事故だったんだよ」


「わかってる。わかってる、けど・・・」




 真希ちゃん、大分落ち込んでるな。




牧野:新宿ビル街 (夜)




 牧野です。

 小弦と連絡が取れました、

 彼女は今、人のいなくなったビル街で

 ダンスの練習をしているそうです。

 その現場に私と幼成、蘭の三人はやってきました。

 

 やってくると、小弦は寒空の中、一人で踊っていました。

左腕に数珠をつけています。

 恐ろしく精密なダンススキル。私には無いものです。




「(小弦のダンスをじっと見つめる)」


「小弦!」




 小弦がダンスを止めました。

 そして私の方を向き、近づいてきました。




「遅かったわね、劣等生」




 ジュリエッタ時代、ダンスの出来ない私を

 小弦はそう呼んでいました。




「劣等生って言うな、音痴」




 私と小弦はにらみ合いました。




「(牧野を盾にして)ぼっ僕の悲しみを思い知らせてやるからな」


「もっと堂々と言ってくれるかな・・・」

 

「(欠伸をし)お話しのところ失礼ですが、

 私はそろそろおねむなので、眠らせていただきます。」




「(ギョッとする小弦)」

「眠るって、ここ、外だよ」




「(緑色の寝袋を見せつけ)これがあれば平気です。

 寝る子は育ちますからね。寝させて下さい」




 いつの間にそんな物を。。。



「もう成長期は終わったでしょ?」




「(牧野と小弦の胸元を見て)

 まだ成長させたいところがあるんですっ」


「あっ・・・(察し)」

「どういうこと?」




「私はここでスヤスヤしますので、

 話しが済んだら起こして下さいね」




 蘭ちゃんが緑色の寝袋に包まって地面で寝てしまいました。




蘭 「zzz」

牧野&幼成「はやい」




「言っておくけど、私は負けないわよ、

 (両腕の傷を見せ)この傷の数だけ、私は強くなったんだから」




「(大きなクシャミ)」


「・・・」

「(体をバタバタさせる)」


「バタバタしてる・・・」


「大志から聞いたよ、対決の話。馬鹿らしい。

 はっきり言って、あたしはやりたくない」




「(大きなクシャミ)」

「(心配そうにバタバタしている蘭を見つめる)」

「ちょっとあなた、人の話、聞いてる?」

「(小弦の方を向き)きっ聞いてるよ」


「ちょっと幼成っそこの芋虫をどっかやって」




 私と幼成は芋虫と化した蘭を

 小弦の見えないところに置きました。

 すると、芋虫と化した蘭が上半身を起こして、

 器用に立ち上がると、ピョンコピョンコ飛びはねながら

 小弦の方に向かっていきました。




「なっ何よ、何なのよ、この芋虫は」




「どうも芋虫です。


 突然ですが、先ほどの言葉は聞き捨てなりませんねぇ。

 本気で対決してもらわないと、お互いやる意味が無いでしょう」




「あたしとこいつ等とはやってる音楽のジャンルが違う。

 勝負しても好みの問題になるんじゃない」




 芋虫が振り返り、私のことを呼びました。




「ヘイおタマ、チャックを下ろして」




 私は言われたとおりにチャックを下ろしました。

 すると、そこにはカッコいい衣装を身にまとった

 蘭ちゃんの姿がっ。いつのまにっ。




「(蘭の華麗な衣装を見て)なっ・・・」


「あなたはダンスに相当自信があるそうですね?

 それは私も同じですよ」




 そう言うと、蘭ちゃんは突然華麗に

 キレのあるフリーダンスを1分ほど踊り始めました。

 小弦が驚愕の表情をしている。






 ダンスが終わると、

 蘭ちゃんは小弦を指差しこう言いました。




「牧野玉藻を倒せたら、

 この私がダンス対決の相手になりましょう。

 それでどうですか?(DJのマネ)小弦さん。

 TIKIBUN・・・TIKIBUN・・・」





「(ニヤリと笑い)面白いわね・・・いいわよ。

 (腕を押さえ)・・・久々に腕の傷がうずき始めたじゃん。

 くっ静まれ、私の右手」


「(嬉々として)彼女も厨二病とは、珍しいものが見れました。」



 蘭の奴、楽しそうだな・・・・。 


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