『童貞賛歌』第二部第二話『更に争う者達』Part1

上杉:上杉のマンション リビング(夜)



上杉です。僕は今、MMOと音楽制作に嵌っています。

現実世界では引きこもりの僕は、MMOの世界では、ギルドマスターをしています。

ゲームの世界では完全にパリピです。


いつものようにギルドメンバーと楽しくチャットをしていると、

オフ会をやらないか? という話になりました。


どうしよう。僕の本当の姿を知ったら、みんなに嫌われてしまうかもしれない。


日下:長畑の家 321号室リビング


日下よ。今はリビングのソファにもたれて医学書を読んでいるわ。

テーブルでは東矢君がスマホのゲームに夢中になっているみたい。


「ねえ、楽しい? そのゲーム」

「ああ、楽しいぜ。知らない人とも繋がれるしな」

「東矢君って、ホントにパリピよね。誰とでもすぐ仲良くなっちゃう」

「へへ、それが俺の特技だから。今度ギルドメンバーとオフ会を検討してるんだ」

「怖くない? ゲームで会った人とリアルで会うなんて」

「別に。俺たちには築いてきた人間関係があるからな」

「所詮ゲームで作った人間関係なんて脆いものじゃないの?」

「そんなことないさ、これは確かな絆だよ」

「そういうもんかしら」

「そういうもんだよ」


 やれやれ。あたしにはさっぱり理解できないわ。



上杉:上杉のマンション リビング(夜)



上杉です。ギターを手にとって、自分で作った歌を歌ってみることにしました。

聴いてください、童貞賛歌。


昔サザエさん火曜7時から~やってたときから童貞でし~た~

夏っ休みは~演技~クリスマスだ~け仏教徒~

カミングアウトは大切だ~人生、アウトになる前に~

童貞! 童貞! 童貞賛歌! 僕は死ぬまで童貞ですか~?

どうか武士の情けです。ほにゃらほにゃらら童貞賛歌~~


うー・・・ん。このほにゃららの部分の歌詞が全く思いつきません。

おかげでこの曲は未完成のままです。


早くこの曲を完成させて達成感に浸りたいのですが、そう易々とは行かないようですね。




犬伏:プロテスタント系教会内 (朝)




 犬伏です。

 第二話、始まりましたね。

 今日は近くの教会の日曜礼拝に修道服で参加しています。

 賛美歌が流れる中、なんとなく、

 思い出してしまいました。

 あの夜の蘭ちゃんの涙と、発した寝言を・・・。

 


 いけない、集中しなくっちゃ。




牧野:男装カフェレストラン ジュリエッタ(昼)




 牧野です。

 第二話、始まったんですね。

 ビックリしました。もっと遅いかと思ってましたが、

 いよいよクライマックス突入なんですね。

 この私の物語も、・・・もうすぐ終わるんでしょうか。

 

 私は今、ジュリエッタで休日バイト中です。

 何故か賛美歌が流れています。何故か。

 開店したばかりなのでまだお客さんは来ていません。

 約1名、クズが店に来ているんですけど・・・。


 私はクズが頼んだものを持ってきたあと、

 向かい合ってテーブルに座りました。




「(両手で皿をもち)これは、クリーチですね」

 

 賛美歌が止まった。

 そしていつものコミカルな曲が・・・。

 

「(不機嫌そうに)何それ?」




「知らずに出してたんですかぁ?

 ロシアを代表するお菓子ですよ。

 私も文化祭で作ったことがあります。

 こんなものがメニューにあるなんて、珍しい店ですね」




「ジュリエッタは変わってるから」




「(嫌味っぽく閑散とした店内を見回し)

 ここの店長は閑古鳥に親でも殺されたんでしょうか。」




「どういう意味だっ」




「(半笑い)私、弾けなくなっちゃったよーーなどと

 せっかくの好機をへたれて潰して(笑い出す) 


 静まれ俺の右手がよろしく腕を押さえて


 自分可哀想でしか泣けない豆腐メンタルな自称社会人様の厨2病患者が、ふひひ。

 (笑いが止まらないといった様子で口を押さえる)」




「(手にしたトレイを震わせ、唇をかみ締める玉藻)」




「(口を押さえて笑いを堪えつつ)

 掛け持ちするこの店、ひひひ、しかも

 現実逃避のために副業しにきたトラウマバイトマンに

 店長も現実逃避して業務を丸投げとか、ひひひ。

 傑作ですねぇ、うひひ、ひひ、ひひ。

 もうまともに経営する気なんてないでしょう、ぐひゅひゅぐひゅぐひゅ」




「(瞳を潤ませ、唇を強くかむ)」




「おやおや? 

 ひょっとして、泣いちゃいますかぁ??

 社会人一年目の女性のきれいな涙、

 (スマホを取り出し)ぜひ一度見てみたいですねえー。

 まあ私は気高く誇り高い人間なので、

 人前で涙など流しませんがねっ

 どうぞ、ワンワン泣いておくんなましーー

 つ●REC」




 ムカつく・・・悔しい・・・。

 でもここで泣いたら、負けになると思って、

 私は必死に涙を堪えました。

 冷静さを欠いても同じこと。

 怒らない。怒らない。




「きっと、店長も、忙しいん、だよ・・・」



「(少々残念そうな表情でスマホをしまい、舌打ちし)

 ほう。では他にもお店を持っていて、

 このポンコツ色物カフェの赤字を

 埋めている、ということでしょうか?」


?


モウダメダガマンデキナイ。




「だれがポンコツ色物変態閑古鳥カフェだっ

 (トレイを振り上げ)やっぱりぶっ飛ばすっ」




「(無視して上品にクリーチを食べる)うん。美味しい」




「(トレイを横にして蘭の頭に振り下ろす)

 こんにゃろめーい」




「(クリーチを天井に投げ、トレイを真剣白羽取り)」




「なぬっ」




「(牧野からトレイを奪い、クリーチをトレイに乗せる)」

牧野「(思わず拍手と歓声)」




「(ドヤ顔で)

 最初に来たときから気になっていたんですが、

 このトレイ、凄くきらびやかですね」




「へへーん、それ、けっこう気に入ってるんだぞー」




「(トレイをスマホで撮り、

 PCパッドを取り出して検索を始める)」




「おい、何してんだよ」




「(手を止め)どうやらこれは、ジョストヴォ塗りのようですね」


「ジョスタポ??」

「(無視して)ロシアの工芸品の一種です」

「へーそうなんだー」


「中々センスの良いものですね。

 クリーチといい、ここの店長は

 ロシア文化がお好きなんでしょうか」


「さあ? 自分のこと語らない人だからねー」




「はんっまったくあなたって本当に使えないですね。

 少しは何か私に有益な情報を提供して下さいよっ」



「ジュリエッタのお店情報を提供してどうするんだよっ」

「今度のライブにこの店を使う必要が出てきたんです」

「何だと??」




「突然で恐縮ですが、

 (白手を付け、スマホにイヤホンを付け

 右耳にイヤホンマイクを装着)

 今から、がさ入れをさせていただきます」




「がさ入れっ」




網浜(回想):犬伏の部屋 (朝)




 アミリンです。

 長畑さんへの挨拶もそぞろに、犬伏さんの部屋に突撃です。

 数日に渡り長畑さんの家に篭城している

 愚妹を迎えにきましたっ 

  

 蘭は犬伏さんのお部屋で勉強していましたよ。

 真面目なのかなんなのか、もう訳が分かりません。




「あっおねーーちゃーーん」


三(凜´・ω・`)パ-ン

    ⊂彡☆))Д´蘭)<スジャータッ



 とりあえずビンタした後で、

 色々起こったことを話しました。

 3Uでの様子を聞かれたので、

 今井が刑事だということ以外は正直に話しました。

 全然話してないですね。




「(頬にビンタの跡がついているが、神妙な面持ち)

 今井大志が、ライブ対決を、承諾・・・?」




「そう。だから、これからお姉ちゃん

 また六本木に行くから、蘭はとにかくお家に帰って」




「嫌だ。犬伏さんが好きなだけここにいていいって、

 言ってくれたもん。」




「そんなの社交辞令に決まってるでしょっ

 いい加減にしなさいっ」

「人の好意はむしゃぶり尽くす!!

 それが私の生き方だよ♪」




「(呆れた様子で頭を押える)」


「(高らかに笑い続ける)」




 × × ×



犬伏:商店街(朝)




 犬伏です。

 今は日曜礼拝より帰宅中です。

 修道服を着て、自転車で街を疾走しています。


 何だか周囲から視線を感じる。やっぱ修道服だからかな。

 でも気にしない。別に恥ずかしくないし。

 

「蘭ちゃーん、待っててねー」




網浜(回想):犬伏の部屋 (朝)




 アミリンです。




「待たないっ早く行くよっ0.1秒で支度してっ」




「(必死)無茶言わないでよ、

 ちょっと落ち着いて。

 実は連続暴行事件について、

 新しい情報を入手できてたんだよ、私」




「なになに? どうやって入手したの」




「ヒガシさん経由」

「ヒガシさん??」




「私が初めて会社に来た日、ヒガシさん、

 お姉ちゃんに3Uのことを話していたでしょう」




「聞いてたのっ地獄耳だねーー」




「追い出された後、すぐに走って別のドアから進入して、

 匍匐前進で幾多のテーブルを潜り抜けて

 一番近くのテーブルの下に隠れて糸電話で聞いてたからね。

 そして手に入れたんだよ。当時の注意喚起メールをね」




「一体どうやって?」




「話を聞いた後に

 女性従業員の更衣室に潜入してひたすら待って、

 着替え中の社員さんを捕まえた。

 そんでもって褒めたおして媚売って、

 メールソフトをちょっとだけ拝見させてもらったんだ。

 あ、これ、戦利品ね。こんなのどこで履くんだろうね??。

 (黒い透けてるレースのショーツを取り出す)」




「(驚きの表情で慌てて掴み、懐に入れる)

 あんたにはまだ早いっ」




「(PCパッドを取り出し、

 注意喚起文を網浜に見せつける)

 あの男、嘘ついたよ。

 この文書には3Uという店の名前は記載されていたけど、

 レインバス社員が暴行を受けた事実はおろか、

 具体的な事件内容すら記載されてない。

 単に夜の歓楽街での注意喚起メール」




「(PCパッドをスクロールし)

 なのにヒガシさんは、詳細を知っていた・・・」




「犬伏さんに、それとなく聞いてみた。

 3Uという店の存在は知ってたけど、

 事件のことは全然知らないみたい。

 あの4人は親しくて今は一緒に暮らしているのに。

 東矢という男、中々の嘘つきで、秘密主義者みたいだね」




「・・・」 




 東矢さん・・・あなた、一体何者なんですか?

 営業部の平社員じゃ、無いんですか?




「3Uに関する噂話は、社内に流れてないの?」


「さっぱり。かなり情報統制されてるみたい。

 立派な傷害事件なのにね」




「どういうことだろう」



「純粋に被害者の意向か、口を塞がれてるか、

 上層部と店側のもみ消しか。これじゃあ警察も動けないよ」




「ヒガシさんのデタラメかもよ」




「(あの日、襲われたことを思い出し)

 いや、それは無い」




「そっか・・・。

 でも平社員が3人ぶん殴られただけなのに、

 隠すようなことかな?」



「レインバスにとって、

 被害者の素性は隠さないといけなかった、とか・・・。」




「どーいうこと?」

 

「うーん、さっぱりわからない。謎が多すぎるよ。この件はお姉ちゃんがやるから、

 蘭は森羅さんを探してね。じゃ、凜は行って来るから。途中まで一緒に帰ろう」

 

「私も行くよ。

 今井大志とは、この名探偵の妹の私が話しをする。

 (心配そうに)だからお姉ちゃんは

 もう無茶しないで、少し脳と体をやすめなよ」




「尻拭いをさせられるのはお姉ちゃんなんだけど?」



 「今度は上手くやるから。

 それに私の方が弁が立つし、ライブ対決を勝利に導く

 アイデアだって思いついたんだよ」




「(葛藤する表情)」




 修道服姿の犬伏さんが部屋に入ってきました。

 

「ただいまー蘭ちゃーん。

 って、あれ、アミリンじゃーん」




「(豹変し)よし行こう」


「(シリアスな表情でうなづく)」

「どこに行くの? あたしも一緒に連れてって~遊ぼうよ~」


「(菓子折りを犬伏に突きつけ)愚妹がお世話になりました」

「(菓子を受け取る)ぐまい?」


「(犬伏に笑顔で)また来ます」




凜と愚妹(怨)は部屋を出て行きました。




「(混乱するが、菓子折りを開け)おお、美味しそう」




牧野:男装カフェレストラン ジュリエッタ(夕刻)




 牧野です。

 少し店内に活気が出てきて、5人ぐらい女性客がいます。

 キャストは私一人ですが、お客さんと談笑しています。

 蘭ちゃんはテーブル席で一人偉そうに足組みして

 黙々とノートPCとにらめっこ中です。


 蘭ちゃんの携帯が鳴りました。




「お姉ちゃん? こっちはもう着いてるよ。

 うん。ちゃんと言われた通りに調べた。

 分かった。待ってるね(電話を切る)」




 蘭ちゃんが私のいる席に近づいてきました。




「牧野さん。お店を使わせていただけますか?」


「はいはいどうぞご自由にぃーー」




 アミリンと今井大志がジュリエッタにやってきました。

 私はゆっくりと立ち上がり、出迎えました。




「やあ、久しぶりだね。牧野さん」

「(言葉が出てこず、手にしているトレイを震わせる)」


「(軽蔑の眼差しを牧野に向ける)」


「3U店長からの強い希望で、ここで話をすることにしたよ」


「小弦の元バイト先に、ぜひ一度行ってみたくてね」


「こっここは男子禁制でしゅよ。出て行ってくだしゃいましー」


「(髪をかき上げ)俺は意外と、女々しいんだけどな」


「どうでもいいでしゅよっそんなことっ」



「(咳払いをし)なるほど。あなたが今井大志さんですか。

 好色だが理性的な私の姉が敵陣でハニートラップに

 かかりそうになるのも無理はないほどに整った容姿ですね」


「・・・」




 今井大志が近くの空いている席に腰掛けました。

 はーードキドキした・・・。

 他の女性客がザワザワしていますが、気にしない。 



「(蘭を見て)キミは?」



「(今井の方を向き)

 本日姉に代わって、対決ライブの企画発表を

 させていただきます。私立晴嵐女子学園高等学校、

 特進クラスの優等生、網浜蘭と申します」



「ほう。自称優等生様から企画内容を聞かされるわけか。」


「(ムッとして)

 私が自称優等生かどうかは、

 話が終わってから決めていただきたいですね。

 荒くれクラブの店長さん」




 アミリンもテーブル席に座って、腕組みを始めた。



「いいだろう。

 とりあえず何かもらおうか。

 (テーブルのメニュー表を手に取り)

 そうだな、(牧野の方を向き)ブラジルを頼む」



「(今井に舌を出す)」

「(マイルドな笑み)」




「(冷静な口調で)牧野さん。差し上げてください」




「(ふてくされた様子でうなづき、調理場に向かう)」




「(牧野のトレイに視線を向け、何かに気づいた表情をし、

 ゆっくりと店内の各種インテリアに視線を向ける今井)」




「どうかしましたか?」




「いや、何も」




 私はブルボンアマレロをいれたコーヒーのカップを、

 今井大志の座るテーブルに力強く置きました。




「(牧野に笑顔を見せ)どうも。

 (ロシア製のコーヒーカップであることに気づき、

 視線を落とす)」




「では始めます」




 一体、これから何が始まるんです??

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