第二部第一話Part13『名探偵の妹はカツアゲの仕方も完璧』

牧野:男装カフェレストラン・ジュリエッタ 店内(夜)




 


 牧野玉藻です。

 色々あった今日、私は、スポットで強引にジュリエッタにバイトを入れてもらうことにしました。


 勿論男装をして、細身のスーツを着込んでます。

 お店にあるものをお借りしました。

 ここでの源氏名はスズガタマです。

 ススガという字は、煤賀と書きます。

 秋田に多い苗字で、私のお母さんの旧姓です。

 この名前で仕事していると、

 なんだがお母さんの気持ちになってきて、

 お客さんに説教しちゃったりするんです。

 ありがとう、お母さん。

 もう辞めたはずの職場だけど、結局戻ってきちゃいました。

 だってこのお店が潰れるのは忍びないですよ。

 私1人の力で出来ることは少ないけれど、

 一生懸命働いて、ちょっとでもお店に貢献できればと思ってます。

それに、今はどうしても楽器を持つ気分になれなくて…。

別の仕事をしている方が、まだこのもやもやする感情を解消してくれるんですよ。






 なのに。


 


 にもかかわらず。




 今、私が接客している相手は、


 私の東京で出会った友達、網浜凜、


 アミリンちゃんの妹、網浜蘭です。


 なんで、この娘、ここに来てるの??




 仕方なく、現在の私は蘭ちゃんが頼んだコーヒーに髑髏とウサギのラテアートをしてやっていますよ。


 




「(浮かんだ髑髏を見て顔をゆがめつつ、その後のウサギを見て)

 ほーラテアートですか。これはとても可愛らし」

 私は、蘭ちゃんが言い終わる前にコーヒーカップ内のラテアートを

スプーンでグチャグチャにかき回してやりました。


「(激しく音を立ててかき混ぜる)

うおおおおおおおおおおおおおお」

「( ゚д゚ ) 」

「ほら、飲みな。美味いよっ」

「・・・あなたって、相当、根に持つタイプなんですね」

「んなこたないよっ(朗らかに)」

「この私のように心清らかで人としての気品あふるる女子高生←が、

あなたのような下賎な輩の働くお店にわざわざお金を落としてあげにきたのですから、愛想はもっと良くするべきですよ(嫌味な笑みをうかべつつ)」


本当に、いちいち腹の立つ娘・・・。

お金を落としてあげにきただって。超上から目線・・・。

あんなに素敵なアミリンの妹は、どうしてこんなにもクズなの??



「(眉間にシワをよせ)

ここは不機嫌なサディスト店員が売りのお店なんだよ」

「おっとそれは失礼。ではさぞかし繁盛してるんでしょうねぇ~

(極めて嫌味っぽく言い、腹立たしい表情で店内を見回す)」


 今、店内の客は蘭ちゃんしかいないんだけど・・・。

「おかげ様で(ムッとして)」


「ふん。コーヒーフロートがメニューにないなんて、

どうしょうもない店ですねっ」

「メニューに入れるように頼んでおきますよ、

あなたが今度来るまで(放送禁止用語)だったらねっ」


「(舌打ちをし)

まったく、本当に口の悪い人ですね。あなたが告げ口をしてくれたせいで、

私の晩御飯のおかずが暫く1品減らされることになりましたよ。 

年頃の食べ盛りのお嬢さんにこの仕打ち。 可哀想だとは思いませんかぁ!?」


「全然! ダイエットになるからいいんじゃないの!

そんなことより、年の瀬に会社を辞めるかのどうかの瀬戸際まで

追い込まれた私の方が100倍可哀想でしょ!」


「(テーブルから立ち上がり)

全然可哀想じゃないっ。自業自得ですっ。

人間が一生に食べられる食事の回数は決まってるんですよ??

その貴重な機会がないがしろにされるなんて、こんな仕打ちが、ありますかっ?!」


「(蘭に顔を近づけ)

飯ならあとでまとめてかきこんだらいいでしょうがっ!!

仕事が無くなったらねえっ御飯だって食べられないんだよっ」

「冗談じゃないですよ! このクズっ告げ口女!」

「クズはあんたでしょうが、このガチャ蝿めえええ」


牧野&蘭 「(額をぶつけてにらみ合う)」



「せっかくあなたの会いたい人をこの私が探してあげようかと

思いましたが、今の発言で気が変わりました。

せいぜい1人で勝手にもがき苦しむがよろしいですよ」


「誰があんたの世話なんか借りるかっつーの!

森羅さんはアミリンと私で見つけるんだから!

もう時間の無駄だから、二度とタマの前に現れないでくれる!?」


「ほう、手がかりはあるんですかぁ? 

東京中のライブハウスをしらみつぶしに探したのに、

見つからなかった人ですよ?」


「部外者のあなたは探すアテすらないでしょう! 

顔だって知らないくせにぃっ」


「(不敵な笑みを浮かべ)あると言ったら、どうします?」

「なんだとお・・・たっ例えば、どんな!?」


「さあ? 時間の無駄なんで、

私はもうしゃしゃり出ないことにします。

網浜蘭は本日でオールアップです。お疲れ様でした。

(勝ち誇った笑みを浮かべ、腕組みしてテーブルに腰掛ける)」


「(動揺し)何それ。教えろよ、いや、教えろ、下さい」


「先ほどのこの私へのダーティーな印象を与えかねない

無礼な言動の数々を訂正していただけるなら、いくらでもお話しますよ、

気になる気になる牧野、さ、ん?

(憎たらしい笑みを浮かべ、牧野の眼前で指を回す)」


牧野「(苦悶の表情の後、目を回す)」









 ×  ×  ×








「偽名???」




「(スマホに受信した森羅と玉藻の2ショット画像を見つめつつ)

はい。この日本には、珍しい苗字は沢山ございます。

一部の地域にしか存在しないものや、

全世帯中10世帯未満しか存在しないものまで。

例えば能年玲奈さんとか、人気女優の剛力彩芽さん、

元モーニング娘。鞘師里保さんなどの

苗字は極めて少なく、全国に100人もいません。」


「ほう・・・」


「(牧野を無視してPCパッドを取り出し)

これには沢山の百科事典や歴史辞書、

1000冊分の情報が詰まってます。

ですがこの中に入っている最新版の自作の日本苗字大辞典データベースがはじき出した答えは、(手でゼロを作り)ゼロ、でした。

つまり、日本に森羅という漢字構成の苗字は存在しない、

ということです。」

「でっでも森羅さんは森羅さんだよ。だって自分のこと、

 森羅聡里って、名乗ってくれたもん。」


「だから、それは偽名ですよ。いや、厳密に言うなら、

ミュージシャンとしての活動名、といったところでしょうか~ね。

(ススガタマと書かれた牧野のネームプレートを指差し、

軽く乳房を突く)えぇいっ」

「うっ(触られた胸を押さえ、ネームプレートに目線を落とし)

 ススガ、タマ・・・」

「(意外とある…)そういうことです」

「そんな・・・どうして。森羅さん、会いたいよ・・・どうして・・・

私に、そんな嘘を」


「・・・森羅聡里、彼女はどこの出身なんですか?」


「青森って、私には言ってくれたけど・・・」

「(真剣な表情で)あなたみたいに東北訛りでしたか?」

「そう言われると・・・オラ、自信ねぇだっ」

「○すゾ(ボソッ)」

「(ハキハキと)森羅さんはすっごい流暢な標準語でしたっ」


「(真剣な表情に戻り)牧野さん。些細なことかもしれませんが、

ほんの小さな情報が、物事の確信へと一気に近づけるときがあるんです。

落ち着いて、よーく思い出してみてください」


蘭ちゃんが、とても真剣な眼差しを私に向けている。

これが名探偵の妹の本来の姿、なのかな・・・。


でも改めて情報と言われても、特に何も思い浮かばないよ。

せいぜい・・・


「・・・いらち?」

「(細い目を更に細めて牧野を見つめる)」

「私、1度、森羅さんに、あんたって、

いらちだね、って言われたこと、ある」


今はそれぐらいかな・・・。


「(細い目を大きくし、不敵な笑みを浮かべ)ほう・・・なるほど」

「どういう意味って聞いたんだけど、教えてくれなかったんだよね」


「短気とか、せっかちという意味ですよ」

「(ムッとして)何だとっ?」


「(不敵な笑みを浮かべ)

 私も中学時代に転校して来た子に1度言われたことがあります。 

 彼女は確か、そう、関西圏から来た娘でしたね」


「関西・・・」


「森羅聡里は偽名、そして、関西圏出身の可能性がある。名探偵の妹の私的には、この2つの情報だけでも、かなり彼女の本質に近づけた気がします」 


「でも東京中のライブハウスを探したんだよ。

写真も見せて回ったのに、見つからなかった。

その上、偽名で、関西出身だったなんて話になったら、

タマにはもう、もう・・・何がなんだか」


「お嘆きのところ恐縮ですが、

もうちょっとお伺いしたいことがあります」

「何?」


「森羅聡里はまだ音楽活動を続けている、

 というあなたの、その人を困らせる確信めいた妄言は、

 一体どこから沸いてきたのですか?」

「そんなの決まってるよ。

 (蘭に顔を近づけ)音楽はね、捨てられないんだよっ。」

 「(近い・・・)」

「音楽は、人間の人生と深く結びつくんだよ。

森羅さんほどの歌い手が、音楽を捨てるなんて、ありえない。

絶対に、まだ歌ってる。私には、わかるんだ」


「(牧野の顔を手で押しのけ、ハンカチで唾を拭きつつ)

なるほど・・・まあ音楽の世界は裾野が広いですからね。

皆がステージの上で歌っているわけではありません。

現在のあなたのように路上中心で活動している人や、

ホテルのロビーなどで演奏してる人もいます。」


「ホテルのロビー? なんでそんなとこで歌うの??」


「(呆れた様子で)そういうお仕事も世の中にはあるんですよ。

 ラウンジ歌手、という職業です

「ああ、もう、駄目だ・・・とりあえず、・・・

 日本中のホテルをまわらなきゃ。。あは、えへ、うふ

 (奇妙な笑い声を上げつつ頭を抱え、床に座り込む)」

「(少し間を置いて)何を出しますか?」

「え?」


「(悪い顔つきで座り込む牧野の顔を覗き込み)

 この、名探偵の妹の私に、

 本気で人探しをさせるのに、あなたは、対価として、

 私に何を出してくれるんですか? という、話ですよ」



やっぱり・・・この娘は、真性のクズだ・・・。









網浜:3U周辺 夜


 アミリンでっす。

 蘭と電話しながらですが、

 目的地の3U目指して歩いてます。


蘭の声「何故森羅聡里は親しい間柄の牧野さんに

 自分の本名を偽っていたのかな? お姉ちゃんはどう思う?」


「タマちゃんの話によれば、

 森羅さんとは一緒に温泉に入るぐらい深い仲で、

 タマちゃんの実家にもよく遊びに来ていたらしいけど。

 にもかかわらず、彼女、森羅聡里と名乗る女性は、

 自分の本名をタマちゃんには一切明かそうとしなかった。

 もし偽名を使って日常生活を送っていたとしたら、

 森羅聡里には、何か後ろ暗い過去があるのかもしれないね」


蘭の声「全国の都道府県警察署の指名手配情報、

 及び捜索願いの出されている人物には、

 彼女と身体的特徴などが一致する人はいなかった」


「そか・・・。

森羅聡里は森羅蒼月という1人バンドを組んでいたんだ。

名前だけなら、単にミュージシャンとしてのこだわりで、

本名を人に明かしたくなかっただけかもしれない。

牧野さんも秘密主義者で、自分の過去のバンドのことは

ずっと明かさなかったからね。

単に自分の音楽活動に対するポリシーのため、

まあそういうことにしておこうか。」


蘭の声「出身を偽っていた可能性も高いよ。名前だけならいざ知れず、

 出身まで偽ったまま接していた、ということなら奇妙だね。

 それを牧野さんに隠す理由も、ポリシーの一言で片付けられるかな?

 芸名を使って活動している芸能関係者は沢山いるけど、

 出身まで偽る人は少ないよ。そもそも、その場合公表しないしね。

 素人の牧野さん相手にも、方言をひた隠しにしてたみたいだし。

 なぜ彼女相手にそこまでする必要があったんだろうね?

 深い仲なのに、嘘をつくのは何故だろう」


「うーん・・・ひょっとしたら、だけど、

 牧野さんには伝えられない理由が

 森羅さんの方にあったのかもしれないね」


蘭の声「伝えられない理由? 例えば、どんな?」


「うーん・・・牧野さんに、

何か目的があって近づいてきたから、とか?」


蘭の声「近づいてきた? 森羅聡里の方から?」



「うん。でも近づいたのはいいものの、

 牧野さんには、その訳を伝えられず、

 とある事情で自分の名前も出身も偽らざるをえなかった。

 そして何らかの期限が来たので、姿を消した。

 ってところかな。

 行方をくらますと同時に牧野さんとの接点も絶ったのが

 引っかかるんだよね。普通に秋田を離れるだけなら、

 仲の良かった彼女と縁まで切るのはどうかと思うよ」

「・・・なるほど。さすがお姉ちゃん。なんだか、

 こいつは相当ハードな仕事になる予感がしてきたよ」

「そうだね。ところでタマちゃんに、何か報酬とかねだったりしてないよね?」 


「(口笛)」

「蘭?」

「あ・・あくまでも、あれは彼女の、好意だから」


「・・・もう1品、減らすよ」



「ちょっ、ちょっとお姉ちゃ」



凜は電話を切って、スマホの電源をオフにしました。

 まったくもう・・・また土下座だよ・・・。

 森羅聡里と名乗る女。一体、今どこにいるのだろう。

 とりあえず、一旦これは蘭に預けよう。

 情報は絶対的に少なすぎるけど。


 人探しはあの子の一番の得意技だし。

 3Uの前に着きました。

 本日の目的は、過去の事件、その独自調査。 




 そして願わくば今井大志と朝稲小弦。


 この2人のうち、誰でもいい。


 とにかく捕まえて、接点を作る。




 今日は、凜にとって大変な夜になるかもしれません。


牧野(回想):男装カフェレストラン・ジュリエッタ 店内(夜)


牧野です。

今、ゲスな女子高生に、人生で初めてのカツアゲをされてます・・・。

「(顔をゆがめ)いっいくらお支払いすればよろしいんでしょうか・・・」

クズが立ち上がって自分の席に戻った。


「(コーヒーカップを手に取り)

そうですね・・・では。

(ぐちゃぐちゃになったカップのラテアートを牧野に見せつけ) 

私好みの、いちごにハートのラテアートをして下さい」


「蘭、ちゃん・・・」


「(神妙な面持ちでカップのコーヒーに口を付け)熱っ」


「猫舌・・・・」

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