第二部第一話Part12『あたしの好感度が上がらない理由』


日下:レインバス本社ビル2F パスタ屋(お昼)


どうも。

安心と信頼と実績のS、日下ルリです。

今、我らがGAM副代表、秘書課の指野美咲さんと二人で、

いつものパスタ屋でランチしています。


あたしは肉料理が大、大、大好きなのですが、

最近指野さんがパスタに嵌っているので、お付き合いです。  

このお店には大きめのミートボール=肉の入ったパスタがあるから、

あたしはいつもそれを頼んでます。

ミートーボールはナイフとフォークで切って食べます。

肉汁があふれて、口に入れるととろけます。美味です。

今日は先輩や取締役とのお付き合いランチもないし

指野さんと二人きりで楽しい食事デート中なのですが、

いつもとは勝手が違うようで・・・。



「牧野さんに、好きな人が出来た?」


「そうなの。昨日、徳子ちゃんから電話があってね。

もう生きていけないとか、この世の終わりとか。30回以上言われて、

本当にビックリしちゃった」


「あのストーカー・・・3Uでも発狂してましたもんね。

まあおかげで捕獲できたんですけど。で、相手は誰なんです?」


「(息を吐き)法月幼成っていう人らしいんだけど。

ルリちゃん、知ってる?」

 ・・・法月? ひなり?

「すいません。知らないです」


「(困り顔で)あの子、彼氏いらないって、

言ってたのよ。だから唐突すぎて、ちょっと信じられないのよね」


「地下アイドルの妄想じゃないですか?」

「だといいんだけど・・・」


 あたしと指野さんが話をしていたら、

 ショートカットで栗色の髪をした色白の女の子が店内に入ってきた。

 店員に話しかけられて、体をビクッとさせて、オロオロしてる。

 なんなの、一体・・・。

 あたしと目が合うなり、全力疾走してきたんだけど。

 何よ? やる気? と身構えたら、噂の牧野さんだった。



「(テーブルに両手を付き)違いますからぁあーーーっ」

「(牧野の方を向き)玉藻、遅かったわね」

「全部っデタラメだよーーーっ」

「(引きつり気味の顔で)何が?」

「(指野に顔を思いっきり近づけ)今の話だよーーーっ」


聞こえてたの? 地獄耳ね。

「(苦笑して牧野から顔を背ける)」


 ったく、うるさいわね。

 あたしはナイフで刻んだパスタのミートボールを

 フォークでぶっ刺して、牧野さんの顔に近づけた。

「食べる?」

「(ミートボールを凝視し、目を丸くする)いただきます」


 牧野さんが馬鹿丸出しって感じの、

 能天気な隙だらけの笑顔でミートボールを頬張ろうとしてきた。

 あたしは直前でさっと引いて、自分の口に放り込んでやった。

 ざまあ味噌漬け。あたしの肉は、あたしのものよ。


「(驚いた後、日下を恨めしそうに見つめる)」

「(ドヤ顔でモグモグしつつ、牧野を見てニヤつく)」

「(腹を押さえ)美咲ちゃーん。お腹すいたーー」

「はいはい、パスタだけど平気?」

「大丈夫ーーー。よーし、食うぞーーー。」

牧野さんって、意外とガキっぽいのね。

初めて会ったときは、もっと大人かと思ってたけど・・・。



日下(回想):休憩室 (10月初旬)



 サディストの日下です。

 休憩室の冷蔵庫に入れておいたケーキを回収しました。

 牧野さんと指野さんを二人きりにさせるための、

 秘密ケーキです。秘密兵器だけに。

 やだあたしったら超面白い。ぐふ、ぐふふ。



日下(回想):給湯室脇(10月初旬)






 続けて日下です。


 給湯室内では、現在指野さんと、その従兄弟、牧野玉藻が、

 おみやげに持ってきたフロマージュロールを、

 二人で仲良く切っています。

 あたしは給湯室のドアの外に立ち、

 ミニタブレットPCで虎の巻ファイルの続きを作成中です。


 指野さんと牧野玉藻、一体、中で何を喋ってるんだろう?

 


 できるわけないか。

 それにしても牧野玉藻という女の子、

 元々は経理部に入る予定だったのを、

 会長の桐山幸恵ちゃんが強奪するために暗躍して、

 営業事務に入れるように細工したらしいじゃん。

 経理部長が怒ってたわ。

 幸恵ちゃん、ドラ1取ったぞーとか叫んでた。マジ迷惑だった。

 あの若さで経理に入れる条件を満たしているってことは、

 経理の実務経験があるってことよね。

 だとしたら、これはチャンス。

 指野さんの従兄弟だし、GAMには特例で入れるっしょ。

 今の幹事には経理出来る人があたししかいないから、

 彼女にウチラの財務会計を押し付ければ、

 あたしがもっと動けるようになって、

 GAMの活動効率がUPする。

 これはチャンス、チャンスね、ぐふふ。


日下:レインバス本社ビル2F パスタ屋(お昼)



ドSの日下です。

リアルタイム時間に戻ってきましたよ。

牧野さんが満面の笑みを浮かべて、

おいしそうにミートソーススパゲッティを食べてるんだけど、

口の周りにソースを付けてて、酷い見た目になってる。

まるで肉食動物の食事中の口元みたい。

ちょっとした衝撃映像ね。


見かねた指野さんが、

笑顔で牧野さんの口をナプキンで拭き始めた。

牧野さんは恍惚の表情でそれを受け入れてる。


「(優しく口を拭きながら、嬉しそうに)

もう玉藻ったら。ちゃんと食べなきゃ駄目じゃないのよー」

「御免、美咲ちゃーん♪(甘えた声で)」


イチャイチャすんなや・・・。


「(咳払いをしつつ)

それでっ。小弦の彼氏とライブって、一体どういうこと?」

「(かしこまって)リベンジするんです」

「何? 3Uにもう一度立って泣かされたいわけ?」

「(首を振り)いえ、違います。

実は、私のお兄ちゃんがバンドを辞めるので、

私が東京でハッスルする姿を見せたいんです」


「(呆れ顔で)指野さん。どうします?」

「お願い、美咲ちゃん。

私、今井さんに交渉するから、会わせてほしいの。

日下さんからも、お願いして下さい」


「(牧野を真剣な表情でじっと見つめる)」

「(上品にパスタを食べつつ、指野をちらちら見る)」

「(目を閉じて息を吐き)しょうがないわねー。」

「いいの? やったー」

「(一瞬目を閉じ、カッと目を見開き)駄目ですっ」

「(ショックを受けた表情)そんなあ~」


「駄目よ。絶対に駄目。悪いけど、

これ以上あなたを危ない目に遭わせるわけにはいかないの」


危ない目にあう、か。

確かに洒落にならないぐらい、牧野さんは危ない目に遭う。

というか、とてつもなくヤバイ奴に目を付けられてる。

法月幼成。何を企んでいるのか知らないけど、一緒にライブなんてさせられない。

 

日下(回想):エレベータ内 (10月初旬)


Sの日下です。

また回想で御免なさいね。

指野さんと牧野玉藻の再会は無事終わったようですよ。

現在は秘書課に戻るところなんですが、

想定外の事態が起きました。

「彼女が経理に明るいのはラッキーですね。

 これであたし達、特にあたしの活動効率がupします」

「(軽く腕組みしつつ、笑顔で日下を見つめる)」

「ひいい。すっすみません」

「(笑顔で)いいのよ。

今度口に出したら、許さないけど」

「すみませぇ~~ん」

でもその後、夜につい口を滑らせてしまって、

指野さんに死ぬほど怒られたのは、秘密。



日下:レインバス本社ビル2F パスタ屋(お昼)



はいどうも、Sの日下です。

はい、じゃあね、もうさっそく話を進めましょうね。

よし、巻いていこう。はい、牧野さん喋っていいわよ。


「そんなこと言わないで! お願いだよ、美咲ちゃん。

私、ライブがしたいんだよ!」


「それは本当に、100%あなたの意思なの?」

「うん」


「そう。なら、3Uのときより、

もっと酷い事態に直面する可能性を覚悟しないといけないけど。

あなたはそれでも平気なのね?」


「(何かを思い出したように、急にビビッた表情で俯く)」


「(こりゃ駄目だ~、という顔で息を吐き)

あのね、玉藻。こんなこと本当に言いたくないんだけど・・・」


おっと、この前置きは。

指野さんが説教モードに入りましたよ。

牧野さんが、目線を落として黙りこくってしまった。

これはいけない。牧野さんが号泣しちゃう。止めないと。


ここは代わりにガツンと言っておきますか。

あたしはコップの水を飲み込んで、テーブルに強く置き、

喋ろうとした指野さんを制して、言葉を吐き出した。


「あのね、あたし達さ、こう見えてけっこう忙しいのよ。指野さんなんて、顔に出さないけど、公私ともに超多忙で、常にお疲れなんだから。年中肩こりが酷いらしくて、貼り薬を常用してるしさ。最近やたら薬膳料理にうるさいのよ。週3で足ツボマッサージに通っては悲鳴を上げて涙を流し、整体に行っては悲鳴を上げて狩川さんに泣きつく。そんな日常送ってるわけよ。もうすぐ三十路まじかだし、ボチボチ老化だって始まってるんだからねっ」



「(口を閉じ、目をひんむいて日下を見つつ

 →(あなた・・・何さらっと人の恥部を洗いざらいゲロってんの?

日ごろの恨み? もうすぐ三十路関係ないでしょ?

大体私、老化なんて始まってないわよ。と今すぐ言いたいが、必死に我慢する)」



「(美咲ちゃん、もう老化始まってるんだ・・・

と、哀れみと同情を込めた瞳で指野を見つめる牧野)」


「(牧野の視線に気づき、苦笑い)」


「それに今井さんは指野さんの元彼なのよ。

振られちゃったけどっ。」


「(一言多いわよ)」


「豚を飼ってる淋しんぼうの指野さんが、今年は人生で初めて彼氏のいないクリスマスを体験するの。顔には出さないけど、内心おセンチになってるんだからっ。」


「(おセンチ・・・)」


「そんな可哀想な状態の指野さんを、あんた達のつまらない復讐ごっこに巻き込んで、今井と 無理やり接点持たせて、傷をぐりぐりえぐらないであげて欲しいわけ」


「(あなたが一番私の心をぐりぐりえぐってるんだけど?)」


「もしまた巻き込まれた結果、指野さんが更に酷い怪我でもしたら、あなた一体どーするつもり? 責任取れるの? 取れないでしょ? 普通にライブをするって言うなら多少は協力するけど、朝稲小弦の彼氏とのライブなんかには、あたし達は絶対力を貸さないからねっ連絡だって、取らせないからっ」


「(色々言いたい気持ちをぐっと抑え、

腕組みして、あさっての方向を向いている指野)」


「なのでそんなライブは、即中止にしなさい。分かった?」


「(恨めしそうに日下を睨む)」

「(溢れる怒りを押し殺し、日下を爽やかな笑みで見つめる)」


「返事はっ(テーブルを叩く)」

「(不満げに頬を膨らませ)・・・わかりました」


牧野さんが立ち上がり、

無言でテーブル席から去っていこうとした。

「(手を合わせ、立ち上がり)ごちそうさまでした」


やたら背中に哀愁を漂わせてるわね。

なんか捨てられた子猫みたい。

流石にちょっと言い過ぎたかしら。

「待って、玉藻」

「(悲しそうな表情で指野を一瞥し、がに股で歩きだす)」

「(困り顔で息を吐く)」


「(めんどくさそうに)

あの感じ、絶対に諦めてないですよねー。法月幼成って奴の方も説得しないと」


「あの娘1人で何か出来るとは思えない。他にも協力者がいるかもね」


「まさか? 誰です」


「(笑みを浮かべて)コアラちゃん」


コアラ? ああ、あのコアラ顔の網浜凜か。

あたしは、網浜の不敵な笑みを頭に思い浮かべた。


(網。・∀・。凜)<コアラ?


「網浜が!? まさかっ」



指野さんの顔から笑みが消えた。

ああこれ、完全に御冠モードだわ。網浜消されるな。

もう、どうなっても知らないからね。

好感度? どうでもいいわよ、そんなもの!!


ナレーション

「その後、御冠モードの指野に死ぬほど怒られた日下だったが、

本人にはまったく訳が分からなかった。」

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