第二部第一話Part11『名探偵の妹は性格が最高』

牧野:電車内(夕刻)


牧野です。ただ今電車の端っこの席に座っています。

私がボーっとしていると、突然目の前に二人の男性が目の前に立っていました。

その二人は今井大志さんと小弦の恋人の男の子。


「牧野さん、今、いいかな」

「今井さん、どうしてここに」


「この電車に乗ってれば君に会えると思ってたんだ。」

「僕の彼女がキミに酷い事をして、僕は心を痛めているよ」

「あの、あなたのお名前は?」

「僕の名前は法月幼成。小弦の彼女でミュージシャンの卵さ。小弦の代わりに謝りに来たんだ」

「そんな、私、気にしてないから、謝る必要ないよ」

「そういうわけにはいかない。小弦はキミの大切な物を傷つけた。これはせめてもの償いだ、受け取ってくれたまえ」


今井さんはポケットから茶封筒を取り出し、手渡してきました。中身はなんと10万円。。


「こっこんな大金、受け取れません」

「受け取ってくれ。」

「今度僕のレコーディング現場にやって来てよ。君なら歓迎するよ」


そう言って、二人は駅に止まった電車を降りて行きました。


「一体どうしよう・・・」


牧野:渋谷 音楽スタジオ内 (夜)


 翌日。

 牧野です。

 今日は、3Uで知り合った幼成君のバンド、ダイブインの練習を見に来ています。

とは言っても、幼成君が1人でギターを弾いています。

他のバンドメンバーは来てないみたいです。

アミリンの妹、網浜蘭ちゃんが音楽スタジオにやってきました。

制服姿に苺柄の可愛いマフラーを巻いてます。口元が隠れてます。

スクールカバンを肩にかけてますね。

コートは着てないけど、寒くないのかな?

「お疲れ様です」

「こんばんは~蘭ちゃん、早かったね~」


「(マフラーを取りつつ幼成の方を見て)

私は完璧ですから。それよりどうですか。

彼のギタープレイは?」


「うん。リズムの正確さもさることながら、

フレーズセンス、何より表現力が凄いよ。

1つ1つの技術もしっかりしてる。

同世代でこんなに上手い人に、私、初めて会ったかもしれない」


「(マフラーをたたみつつ)

なるほど、とにかく上手いんですね」

それより、お姉ちゃんはどちらへ?」


「(はっとして)ああ、えーっと、外に出て行ったよ」

「外っ」

蘭ちゃんがちょっとあわてた様子でスタジオを飛び出していきました。

どうしたんだろう? 今まで見たことない顔してたけど。






 ×    ×    ×






 蘭ちゃんがスタジオに帰ってきました。


 でもアミリンと一緒じゃありません。どうしたんだろう?


「姉は急用ができたので、帰宅しました」

「ええ? そうなのっ」

「(牧野を睨みつつ)牧野さんに、よろしくだそうです」

「そっかーー。私もライブしなきゃだから、そろそろ出ないと」

「ライブとな?」

「今、路上ライブしてるんだ。

最近けっこう人が立ち止まってくれるようになったんだよ」

「ほう。今度の決戦の集客に利用できる人達かもしれませんね。

私も行きます。場所はどちらですか?」



長畑:溝の口駅周辺 夜


長畑だ。

溝の口駅近辺のショッピングモールのシャッターが下りている。

今日もここで牧野さんが路上ライブをするんだけど、

まだ来ていない。


最近、牧野さんの人気が高まってきたのか、

俺以外にも若い男性が複数、女性も何人か待っている。

俺の後ろの植え込みに体をうずめて、

崎山徳子が顔半分だけ出して覗いている。


「(徳子を見つつ)あのう、もう普通に見ればいいんじゃないかな」

「ほっといて下さいっ。私はこの場所が落ち着くんですからっ」

「(首をかしげつつ)そう。ならいいんだけど」


牧野さんがギターケースにキャリーバックを引いてやってきた。

いつもの牧野さんだ。前髪を髑髏のバレッタで留めている。

でも今日は、牧野さんの左右に見覚えのない二人が並んで歩いている。


 1人は切れ長の涼しげな瞳に苺のマフラーをした可愛いらしい女子高生。

もう1人は、男・・・あいつはたしか、・・・誰だ。


「(驚いた様子で)うわー待ってる人がいるっっ」

「タマーー早く歌ってーーっ」


「牧野さん、こんばんは」

俺は牧野さんに近づいて、一礼した。

しかしナチュラルに無視された。

「(長畑を見て)今の方、お知り合いじゃないんですか?」

「(冷たい表情で吐き捨てるように)ファンの人」

「・・・」

「あれ、お兄さん。3Uで会ったよね?」

「キミは・・・確か、オサナリ君だっけ」

「(ムッとして)ヒナリだよ。」


牧野さんはキャリーバックに腰掛けて、ギターケースからアコギを取りだした。


「幼成さんと、この方は、お知り合いなんですか?」

「うん、だって、彼とは」


「あーーーあーーーあーーーあーーーーあーーーーー」


牧野さんが大声で発声練習を始めたため、

俺たちの会話が妨害された。


「で、なんでキミがここに?」


「あーーーあーーーあーーーあーーーーあーーーーー」


「僕が聞きたいよ。あんた、玉藻ちゃんの何なのさ?」


「あーーーあーーーあーーーあーーーーあーーーーー」


「えっ玉藻ちゃん・・・?」


「いーーーえーーーあーーーおーーーうーーーー」



「あのね。僕と玉藻はね、一緒にやることにしたんだ。

今日もこの後、朝まで語り合うしね。」


「いーーーえーーーあーーーおーーーうーーーー」


「なっ・・・」


「いーーーえーーーあーーーおーーーうーーーー」


なんだとおおおおおおおおおおおっ。 

一緒にやるって、何をだっ。

朝まで、一体何を語り合うって言うんだっ。


「(長畑の反応を見て何かを思いついたように、

悪い笑みを浮かべる蘭)」


「(ギターのチューニングに夢中で三人の様子を見ていない牧野)」


俺は、牧野さんを見つめた。

牧野さんは、今度はギターのチューニングに夢中で、

俺たちには関心がなさそうだけど。

近くで立っている女子高生が、ニヤつきながら

俺と幼成の顔を交互に繰り返し見ている。


「あの、牧野さん」

「(長畑の方を向き、ドキっとした様子で)なっ何ですか?」

「恋人・・・、できたんだ・・・よっよかった」

「え? 恋人? そっそうですか・・・・。

(切なそうな表情で)それは、よかったですねぇ・・・長畑さん。」


「(牧野と長畑の様子を楽しそうに眺め)ほうほう、ほうほうほう」


俺は、他の客に紛れるように立った。


「お兄さん。牧野さんのお友達なんですか?」

「(消沈しきった様子で)いえただのファンです」


俺がボーっとしていると、

件の女子高生がニヤニヤしながら近づいてきた。

もうなんなんだよ。


「ねえお兄さん。」

「なっ何?」

「あのねー幼成きゅんと、玉藻ちゃんはね、もうね、超ラブラブなんだよーーーーう。マジお似合いのカップルだよねーーっ

ウゥケェルゥーーーー(超小悪魔っぽい笑顔で言い放つ)。」


「・・・ふーん・・・」

 なんか、止めさされたわ・・・。

「(笑いが止まらないと言った表情で口を押える蘭)」

ったく、誰なんだよこの女子高生は。酷い性格だ。

親兄弟の顔が見てみたいぜ。

おっと、牧野さんが歌い始めた。


牧野:ファミレス ジョーソン(夜)


牧野です。

ライブ終わりに蘭ちゃん、幼成君の三人で

ご飯を食べることにしました。

未成年がいるので、ファミレスということで。

通路を挟んだ隣の席は、とくっぺが1人で占有しています。

一緒に食べようよ~と誘ったのですが、

私はここで満足です、とのことでした。

すねてるのかな?


私は、和食煮魚ご膳のご飯少な目を何とか全部食べきって、

今は食後のオレンジジュースを飲んでいます。

もうおなか一杯です。

一方蘭ちゃんは一番高いステーキを頼み、豪快にたいらげてました。

私には、絶対に無理です。

そして現在はコーヒーフロートのアイスだけを食べています。

三杯目です。コーヒーフロートのアイスだけ、ずっと食べてます。

コーヒーは一切口につけていません。普通にアイスを頼めばいいのに・・・。。


「いやあ~人様のお金で頂くご飯の美味なこと、美味なこと。

これだから未成年はやめられませんね~」


「(苦笑)」

「キミ、友達とかとは、普段どんな会話してるの?」


「友達なんて、私には必要ありませんから」

「なんで? 淋しくないの?」


「私より適度に格下で、私を常に気持ちよくさせてくれる、

同年代で、そこそこ頭の良い人間が、私の周りには存在しないからです。

それに、孤独は人間を強くしてくれる大切なものです。

なのであえて言うなら、孤独が一番の友達でしょうか」


「蘭ちゃんって、強いんだね・・・」

「(コーヒーフロートのアイスのシャリシャリした部分だけを食べつつ)

当然です。」


「ほかに趣味とかないの?」


「趣味ですか? ありますよ。コーヒーフロートのアイスのシャリシャリ部分を

楽しむこと。 どうでもいい人間共の恋の芽を摘むこと、

後は出る杭をひん曲げることですかね、むふふん」


「(コーヒーフロートのグラスをみつつ、絶句する牧野)」 

「聞いた僕が馬鹿だったよ」

「(謎のドヤ顔)」


「そういうことするの、よくないよ」


「何故ですか? 最高に面白いですよ。

おかげで今日も、とっても楽しいひと時を過ごせましたし。

きゅふ、きゅふふ、きゅふ、きゅふ、きゅふ、

ふひ、ふひひ、ひひ、ひひひ、いひーーーひひひ、ひひ」


「(顔をゆがめる)」


「何か楽しめるようなこと、あったんだ?」


「(ニヤリとして)先ほどライブに来てたスーツ姿の若い男性、

牧野さんのこと、かなり好きみたいでした


「・・・え?」


 スーツの男性って、誰?

「それって、あの長畑とかいう奴っ?」


長畑さんが、私、の、こと、を・・・?

でも、長畑さん。さっき恋人ができたって言ってたけど・・・。


「ええ。ですが向こうの勘違いを利用して、

華麗に返り討ちにして差し上げました。きゅふふ。

今頃はママンに失恋の報告でもして枕を濡らしている頃でしょう。

ああ愉快、愉快。きゅふふ、きゅふ、きゅふ」


なっ・・・なんだとおっ・・・・。


「(動揺した様子で)

ちょっちょっと、蘭ちゃん。具体的に、一体何をしたの?」



「(コーヒーフロートのアイスを頬張りつつ)

それはあなたには関係のないことでしょう」



「あっあの人はね、長畑煉次朗さんって言って、

私の職場の先輩なんだよっ」


あ、蘭ちゃんの手からスプーンが零れ落ちた。表情も変わった。


「(額に手を当て)・・・おやおや、私としたことが・・・」


「一体、何を言ったの?」


「(牧野を見据え)お姉ちゃんに、告げ口しませんか?」

「内容次第だけどっ」


「(鼻から息を吐き)幼成さんとあなたが、お付き合いをしていて、

超ラブラブだと、口からでまかせを言ってみました」


なんだ・・・とお・・・・。


「酷いデマだねー」


「そんなっどーしてくれるの! そんなの嘘っ超嘘だよっ

わーー、もう明日から会社に行けないよーーやだーーっ

もう嫌だーーっ気まずいーーっ気まずいよーーーーっ」


「じゃあ、本当に付き合ってみるー?」

「うるさいっ」

「(しゅんとして)怖いよーー」


「ここは年頃の女子高生の無邪気な悪戯ということで、

1つ穏便に処理していだだけないでしょうかねー。

(あっけらかんとした調子で)」


「できるわけないじゃん!! なんてことしてくれたのーーっ」


「だって牧野さん、長畑さんに冷たかったじゃないですか。

彼のどてっぱらを包丁で刺したいんでしょう? そうなんでしょう?」


「いや、別に、その、刺したくはない、けど・・・」

「ならなぜ、さっき、あんなそっけない態度を?」


「・・・実は、その・・・この間、喧嘩・・・しちゃったんで。

その、ちょっと、気まずかったんだよ・・・うん(もじもじ)」


「えーー玉藻ちゃんとアイツって、そういう関係だったの?!」


「(必死に)違う! 違うよ! 幼成君、違うって!!」


「おタマ様・・・そんな・・・私という女がありながら・・・」



ひいっ隣の席の徳子ちゃんがゆっくり立ち上がって、

幽霊みたいにのっそり近づいてきて、話しに絡んできたーーー。


「(怯えつつ)とくっぺ、違うって。違うんだよ、本当にっ」

「あの間男。もう、絶対に許しませんことよ・・・」

「とくっぺーーーだから違うんだってぇーーー

お願いだから黙っててーーー」


とくっぺが目頭を押えてファミレスから走って出て行っちゃった。

なんなんですか、この展開はっ。今週酷くないですか? 

タマフルボッコですよっ


「待ってーーとくっぺーーー」


走ろうとした私の腕を、蘭ちゃんに掴かまれました。


「喧嘩とは、一体いつ、どこで、どのような内容だったのですか!

この名探偵の妹の私に、詳細を余すことなくお聞かせいだだけないでしょうか?」


ああーーーもう・・・・。


「アミリーーーン! 助けてぇーーーー!!」


「ねえおタマさん。今度僕と一緒にライブしない?」

「え? ええ・・・・う、うん。いいよ」

「やったーー。場所や日時はおタマさんが決めていいからね」

「うん、わかった」


唐突に決まったライブ。果たしてどうなることやら・・・。


網浜(回想):音楽スタジオの入ったビル 裏路地(夜)


アミリンです。

牧野さんと一緒に幼成君の音楽を聴きにきていたのですが、

ちょっと眩暈がしてきたので、人のいない裏路地で、

外の空気を吸ってます。


「お姉ちゃんっ」

声がしたので振り向くと、蘭が心配そうな表情をして立っていました。


「あれ? 蘭。早かったね、もう来たの?」


「(心配そうな表情で)また、眩暈したの?」

「う・・・うん。ちょっとね。でも平気、治ったよ」

「お姉ちゃん。お願いだから、もう無理はやめてよ」


「蘭。ありがとう。大丈夫。

でも今は、お姉ちゃんの大事な物を守らないといけないんだよ」


「(真剣な表情で)自分の体より大事なものなんて、他にあるの?」


「蘭・・・」


「(凜から顔をそむけ)情報なら、ちゃんと入手してきたよ。

 詳しくは明日話す。後のことは、私が万事しっかりやるから、

 今日は安心してお家に帰っていいよ」

「(深々とうなづき)うん、わかった。ありがとう、蘭。任せたよ」


「(照れて、可愛らしくはにかむ)」


蘭、普段はあれだけど、本当に良い子。

お姉ちゃん、泣けてきちゃった・・・。






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 まとめ役の姉、網浜凜の不在で起こってしまった悲劇。


 万事しっかり(話をこじれさせて)やった網浜蘭であった。


 


 次回に続く。

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