第二部第一話Part4『ランチタイムは波「蘭」の香り』後編

アホネン:壇ノ浦 玄武エリア個室 (昼) 


   


 アホネンです。


 最近出番が少ない気がします。


 


 日下さんはメニュー表を見てブツブツ文句を言ってますね。


 店員の男は犬伏さんと日下さんを見比べてご満悦のようです。


 この二人がランチを共にする機会など、


 これが最初で最後でしょう。


「(不満そうに)ここのランチってさ、肉料理はないわけ??」

「本日の裏メニューは何ですか?」

「ほっけのアンかけ、つみれハンバーグです」

「ハンバーグ? 肉ね。じゃあたし、それにする」


 日下さんの中ではハンバーグ=肉料理なのですね。


「魚肉ですよ」

「でも肉でしょ?」


「・・・」


「あたしは、参で。アホネンは」


「私は壱でお願いします」


「かしこまりました」


「ところでこのお店、年末の予約はもう埋まっている感じ?」


「はい、おかげ様で」



「そう・・・ウチの会社でも使いたいんだけど、

今から、ねじ込めない?」

「ありがとうございます、何名様ですか」


「100名と、少し」


「ひゃ・・・。日下さんの頼みでも、

流石にその人数だと、既に他の予約もあるので・・・」


「(悔しそうに)駄目か・・・」

「店長と相談します」

「いいよいいよ。無理言ってごめんね。他を探すから」


 店員が申し訳なさそうに個室を後にしました。


「そんな大人数で、忘年会ですか?」


「違うよ。そういえば、アホネンにはまだ話してなかったね。


 社内女子サークルGAMについては、ご存知よね?


「勿論で~す」


「あたしはそこの運営本部長をしているの。

サークル行事の企画、運営、進行、活動報告書作成、

財務会計処理、幹事がそこでのあたしの主な仕事。

犬伏はただの腰掛だけどね」


「犬伏(日下を睨む)」


「たっ大変ですね」



「まあね。今は急遽決まったクリスマスパーティーがあって、

貸切可能なデカイ箱を探してるんだ」


「100人も、集まるの?」

「今回は他のところと合同だから。人は、もう押えてある」

「凄い話ですね・・・」

「合同って、どこと一緒なの」

「(苦虫を噛み潰したような表情で)親衛隊」

「? 親衛隊って、実在したんだ」


「うん。木曜日に、狩川さんと指野さんが

親衛隊員を名乗る社員と話をする機会を作って、

それで急遽決まった企画でね。今は他の幹部達と場所探し中」


「一緒にやって、大丈夫なの?」


「副代表と幹事長がGOサイン出したんだから、

兵隊のあたしは従うだけよ」


「あの・・・親衛隊って、何ですか?」


「GAMメンバーというか、女性社員の一方的なファンクラブ。

あたしと、こいつ(犬伏を指差し)、受付の実里。

副代表の指野さん、幹事長の狩川さん。

この五人の応援もどきをしている連中が、特に有名かな」


「ええ、あたしにもついてるの??」


「みたいよ。あたし達GAMは会社にも活動を認められている

公式サークルだけど、彼らは本当に非公式の怪しい集団。

過去にGAMメンバーと何度かトラブル起こしてる。

本来なら関わりあいたくないんだけど・・・」

「具体的にどんな活動をしているの」


「それは現在、情報屋の狩川さんが調査中。

なんせ構成員の数からして不明瞭だしね。

だからこの機会に、指野さんは実態を探りたいのかも」


「あんまり楽しく無さそうなクリスマス会だね」



「うん。そういうわけだから、

あんたは今回、来てもらわないと困るわけ」


 「・・・わかった」


「アホネンも、よかったら来る?」


「私も? いいんですか?」

「勿論。この機会に親睦を深めましょう」


ああ、日下さん。あなたは天使ですか。


日下さんのケータイが鳴りました。

西部警察のテーマですね。

刑事にでも憧れてるのでしょうか?


「お疲れ様です、指野さん。」


「指野さん?!」



「はい。今、食事中です。

じゃあ、品川駅で待ってますね」


「指野さんも行くの? 怪我してるのに?」


「そうよ。現地のボランティア団体との支援内容の打ち合わせは

ずっと指野さん中心でやってたからね。今度はあんたも来なさいよ」


「うん」


店員がランチを持って個室に入ってきました。


「おまたせしました。」


「(笑顔で)よっしゃあ、肉だーーー」

「魚肉です。」



牧野:実家の寿司屋 店内


牧野です。実家の店のドアを開いて家に入りました。

「へい、いらっしゃい、・・・って玉藻??」

「久しぶり、お兄ちゃん」

「一体どうしたんだ」

「ちょっと本格的な音楽を作りに帰ってきたんだ。お兄ちゃんも協力してくれる?」

「ああ、いいぜ。俺達ももう直ぐ東京でライブをする予定があるんだ」

「そうなの、凄いじゃん」

「まあまあ、座れよ。腹、減ってんだろ」

「うん、もうぺこぺこ」


その後、私はお兄ちゃんが握ったお寿司を美味しく頂きました。


「ところでお父さんは?」

「町内会の集まりで今はいないよ。もうすぐ帰ってくると思うぜ」


ふーん。


網浜:レインバス本社ビル6F 休憩室(昼)




 アミリンです。


 電話をかけ終わった指野さんが、


 スマホをテーブルに置きました。


 スマホは綺麗にデコレーションされております。


 その中に・・・。


「ひょっとこ」


「ん?」


「そのひょっとこのデコレーション、とても可愛いですね」


「私、ひょっとこ関連グッズを集めるのが好きなのよ。変かしら」


「いいえ、とても高尚な趣味だと思います」


「よかった(笑顔)」


 ひょっとこ・・・。


「ところで指野さん。この間の件ですけど、凜は警察に被害届を出すべきだと思います。」


「ごめんなさい。そのつもりは今のところ無いのよ。物事を大きくしたくない。

幸いお互い軽症だしね」


「そうですか」


「ご馳走様でした(両手を合わせる)」


「美味しかったよ~」


「恐縮です」




「じゃあ、私達はそろそろ行くわね。二人とも、ありがとうね」


「蘭(一礼)」


「指野さん。あまり、無理しないで下さいね」


「(立ち上がる)ありがとう。行きましょう、亜美奈」


「(立ち上がる)了解」




 指野さんと狩川さんが、凜達に手を振って休憩室を出て行きました。



「ねえ、お姉ちゃん。あの、指野さんっていう人・・・」


「超美人だよね~」


蘭 \\

「だけど、顔色1つ変えずに口から出まかせを言った」


「・・・やっぱり、そう思う?」






「お姉ちゃん、気づかなかった? 今の彼女の歩き方、

腰を痛めてる人の歩き方じゃなかったよ」


「ごめん。よく見てなかった」


「お姉ちゃんは完璧じゃないから。でも、私は見逃さない。

あの人、多分背中の靭帯を損傷してる。しかも、かなり最近」


流石我が妹、鋭いな。

 

「ここだけの話にしてくれる?」

「うん」

「実はこの前3Uっていうクラブでライブがあったんだけど、

そのとき、彼女は背中を負傷したんだ」


「そんなことがあったんだ」


「でも彼女は事を大きくしたくないみたいでね」


「う~ん。初対面でまた会うかもわからない私に嘘を付く理由が解ったよ」


「流石我が妹」


凜は蘭の頭を撫でてあげました。


「お、なんだ。ピクニックか? 随分豪勢だな」


 その声は。


「(東矢の方を向き)ヒガシさん」


「ヒガシ?」


 蘭が立ち上がって、歩いてくる東矢さんの前に立ちはだかった。


「ん? 女子高生? なんでここに?」

「なるほど。あなたが、ヒガシさんですか」


「いや、東矢宗継だけど。キミは?」


「妹の、蘭と申します。なるほど・・・イケメンですね。

姉がラブアタックエクストリームエディション、

勇気100倍パターンバージョン3ノーベンバー仕様を

実戦投入するのも、無理はない(超絶早口)」


「何、それ?」


「原告、網浜凜の供述によると、被告、東矢宗継は、

原告の真剣な告白をぞんざいに扱った挙句、

もう近寄るなと一喝した。にも拘らず、その直後、

屋上に続く階段で、イチャイチャだけなら、と、

原告に強引に迫ったそうですね。間違いありませんか?」


 裁判?


「異議有り。網浜、お前、実の妹に何を吹き込んだ」

「蘭、それは凜が迫ったんだよ!!」

「黙れ! こんの、不埒者!!」


  ああ! 蘭が東矢さんの頬を叩いた。


「(頬を押えて)いった・・・いきなりなんだこの展開」



「お姉ちゃん。こんなナンパ男は止めた方が無難だよ。

どうせ複数の女性に股をかけているに違いないんだから。

女性の股と股の間を華麗に駆け抜ける、股王子だよ。股だけに」


「ごめん。ちょっと何言ってるか、本当に意味がわからない」




 蘭が重箱を素早く片付けて、包んだ。


 指野さん達の使った箸などは、


 何故かキッチン用タッパーに入れて


 カバンに詰めてるけど・・・。



「余計なストレスを抱え込んだら、それがまた眩暈の原因になりかねない!!」 


まずい。

蘭が・・・凜の秘密を、喋ろうと・・・。


「眩暈?!」


「そうだね! そうだね! ちょっと考えさせてもらうよ!!」


凜は、蘭の背中を押して休憩室を出ようと必死でした。


「話はまだ終わってない!」


 蘭が凜の体をすり抜けて、再び東矢さんの前に立った。


「お姉ちゃんに余計なストレスを与えないで、また」

「蘭!!!」


凜は大声で蘭を制止しました。


「東矢(網浜を見つめる)」

「(凜の方を向き)お姉ちゃん?」

「(真剣な表情で)駄目だよ、蘭。」


 東矢さんが、凜を不思議な物を見るような表情で見ている。


 でも、気にしない。


「ヒガシさん! 今のは忘れてください。蘭、ちょっと抜けてるんです」


「何言ってるの、お姉ちゃん! 私はっむがっ」

「なんなんだ、一体・・・」


 凜は蘭の口を塞いで、

そのまま休憩室から力付くで追い出しました。



 × × ×


「ふう・・・すいませんでした、ヒガシさん」


「かまわんぜ。それよりお前さんに話があるんだが。

今、大丈夫か?」

「なんでしょう」

「3Uに行ったのか?」

「なぜそれを」

「煉ちゃんから聞いた。友達のライブがあったらしいな」

「はい。・・・実は、そうなんです。」


 長畑さん。牧野さんのことは言ってないみたいだね。


「老婆心から言わせてもらうが、

今度3Uに行くときは、気をつけた方がいいぞ」

「・・・どうしてですか」


「半年ぐらい前、だったかな。3U店内で、

ヤクザと地元のギャングが喧嘩騒ぎを起こしたんだ。」


「(初めて聞いたような顔で)えーーー」

「その騒ぎでレインバス社員が巻き込まれて、怪我してる。」


「なんですってっ」


「騒動は3回起こったんだけど、どういうわけか、

全ての機会でレインバス社員が被害に遭ってんだ」


 ・・・なんだと?


「なんで、レインバスの人が?」


「そんなの俺が知るか。とにかくそういうことがあったから、

社内周知に、夜の歓楽街における注意喚起が出されたんだよ。」

「その周知って、社員は皆知ってるんですか?!」


「当たり前だろ。とは言っても、

煉ちゃんも3Uの名前だけ覚えてたみたいで、

詳しいことは俺に聞いてきたような認識だからな。

正確に把握してる奴は少ないだろうね」



「そっ・・・そうだったんですか。ヒガシさん、

何だかんだ言って心配してくれるんですね、嬉しいです。 

ひょっとして、凜に惚れはじめてません(口元に指を置く)?」


「殴られたい?」


  ・・・今の話、とんでもない事件の香りがするのは、凜だけ?


 

 その話はおいといて、とりあえず、

 蘭のおかげで、重要な情報を手に入れることが出来た。

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