第二部第一話part3『ランチタイムは波「蘭」の香り』前編






牧野:レインバス本社ビル6F 化粧室前(夕刻)









 牧野です。金曜日です。


 仕事が終わりました。これから帰ります。


 私がトイレから出てくると、通路から美咲ちゃんが歩いてきました。


 美咲ちゃんは私の存在に気づいたようで、


 笑顔で手を振ってくれました。その笑顔が、今は怖いです。






「あら、こんばんは、玉藻」


「美咲ちゃん」 


「LoveisFire、カッコよかったわよー」


「あっ・・・ありがとう」


「今日、この後ご飯いかない?

 私、あなたに、どうしてもお話したいことがあるの」




「ごめん。今日は、これから実家に帰るんだ」


「能代に? そう。新幹線予約しちゃったのね、残念」


「いえ、夜行バスですけどっ」


「(渋い表情で牧野を見つめる)」


「(視線を逸らし、恥ずかしそうに頭をかく)」









日下:レインバス本社6F エレベーターホール脇(夕刻)









 どーも。


 安心と信頼と実績のS、日下ルリです。


 こんばんみ。今、エレベータホールの壁から顔を半分覗かせて、


 指野さんの様子を伺ってます。




 後ろから足音が聞こえる。振り返ると、真希だった。


 あたしは舌打ちして再び指野さんの背中を見た。


 真希の馬鹿、ホントに嫌なタイミングで来るわね。









犬伏「(怪訝そうに)何してるの?」


日下「(振り向かず)うっさいわね。関係ないでしょ。」


 


 真希が通り過ぎようとしたので、


 あたしは前に立ちふさがって、通せんぼしてやった。









犬伏「(泣きそう)ちょっと、どいてよっ2週間ぶりなのーー」









 はっはーん。こいつ、さては糞だなぁ?






「(意地悪っぽく)何が2週間ぶりなのかしら~?」


「(涙目)言わせないでよぉ~~~・・・」


「あっちの化粧室は満員よ。他所に行ったら?」


「(絶句した後、苦悶の表情)」


「(ニヤニヤ)」


「ええい、もう、邪魔だーっつうのっ」


「うわっ!!」




 




 犬伏の奴、あたしを横に押しのけてツカツカと歩いていった。


 マズイ。指野さん、ごめんなさい・・・。









牧野:レインバス本社6F 化粧室前 (夕刻)









 牧野です。








「美咲ちゃん、なんでラブファイのこと知ってるの?」

「(少し間を置いて)それはね」









 そのときでした。


 小走りでやってきた犬伏さんが、


 指野さんの背中に頭をこすり付けるように抱きつきました。









「指野さーん! やっぱいい香りぃ~~」


「!!」









 その瞬間、指野さんが聞いたこともないような呻き声を上げて、


 崩れるように床に片膝をついて、苦しみ出しました。


 右手を左肩の方に回して、うずくまっています・・・・。



「(心配そうに指野を見つめる)」 


「ゆっ指野さん、どーしたんですか? 大丈夫ですか?」 


「(大きく息を吐いて、苦しそうな表情)」



日下さんが血相を変えて駆けつけてきた。


「指野さんっしっかりしてください」


「だ・・・大丈夫よ・・・。」

「指野さん、御免なさい。あたし・・・」


「(ゆっくりと立ち上がり、苦しそうな表情で、笑み)

気にしないで。私の方こそ、声出しちゃってごめんなさい」


「こんの、馬鹿犬伏っ(犬伏を押す)」

「(日下を見つめ)ちょっとルリちゃん、止めなさい」


「アホっドジのトラブルメーカー、あんたなんか、くたばっちまえっ」


「(お腹を押さえ、視線を落とす)」

「ルリっ。それ以上は駄目よ」

「(はっとして)すっすみません、指野さん」

「(鼻をすする)」

「ルリちゃんのこと、許してあげてくれるかな」

「(頬を膨らませ、犬伏からそっぽを向く)」

「(うなづく)」


 指野さんが、日下さんの肩に優しく手を置いた。

「玉藻。じゃあ明日、お話しましょうね」



私は、もう、うなづくしかありませんでした。

でも明日って、・・・私、秋田なんですけど。


 

牧野:夜行バス内(夜)


 牧野です。


 今、夜行バスに乗ってます。


 毛布に包まって、窓際の席で外の景色を眺めています。


 隣の席のオジサンは気持ちよさそうに寝ていますが、


 私は眠れません。



 オジサンが、私の膝の上にもたれかかってきました。


 重い・・・。




 今夜は、色々眠れそうにないな・・・。


 こんなの、初めて・・・。




網浜:レインバス本社ビル1F エントランス(昼) 






 アミリンでっす。


 今日は土曜日出勤です。


 品川レインバスビルはテナントビルなので、


 土曜日でもエントランスロビーは


 一般の人などが行き交っています。


 これからアホネンさん、犬伏さんとランチです。 


 凜の隣を歩いていた犬伏さんが、受付の方を指差しました。


「ねえアミリン。実里と話してるの、女子高生じゃないの」


「(受付の方を向き)本当だ」


「はあ、生足かー。若いって、いいねぇー」


総合受付前に、ブレザー姿にピンクのマフラーに

ピンクのソックスを履いた女の子の姿が。


 あの後ろ姿とサイドに束ねた長い髪。


 時折見せる横顔は・・・蘭? 


 凜の妹の、網浜蘭(16)です。どうしてここに?


 しかもなんか重箱を受付の人の前に置いてる。


矢島「かしこまりました。お名前と、ご用件をお伺いできますか」


「妹の網浜蘭です。一緒にお昼を食べに来ました。

(ドヤ顔で学生証を矢島の顔に近づける)」

「(近いなっと顔を引っ込める)かしこまりました・・・」


 蘭が自分の学校、


 私立晴嵐学園女子高等学校家庭科の学生手帳を


 受付の人にドヤ顔で見せ付けてる・・・。


 警察手帳と同じ形式の生徒手帳です。


 蘭ったら、まるで私は刑事です! とでも言いたげ。


 しかも生徒手帳を受付の人の顔に近づけてるし・・・・。


 


「パスポートも見せましょうか? 菊の信用力を思い知るといいですよ」

「いえ、存じてますので。少々、お待ち下さいね。」


凜は、蘭のいる受付に向かっていきました。


「アミリン? どうしたの」

「私達も行きましょう」

「蘭、何でここにいるのー」

「(網浜の方を向き)お姉ちゃん。来ちゃった」

「事前に連絡ぐらいしてよー、

というかLINEしてよー」

「そんなことしたら、会ってくれないでしょ」

「すみません。この娘、本当に凜の妹なんです」


「いえいえ」


犬伏さんと法月さんが受付にやってきた。


「アミリン。この娘は?」

「凜の妹で」

「網浜蘭。16歳です」


「そうなんだ。(矢島の方を向き)

実里~よかったね。この娘、不審者じゃないみたいよ。」


「不審者!?」

「ちょっと真希さん。シー、ですよ(口の前で指を立てる)」

「(しまったっという表情の後に照れ笑い)」

「(片手で頭を軽く押さえる)」


「(アホネンと犬伏を交互に睨みつける。


 特に犬伏を鬼の形相で強く睨む)


 あなた方、お姉ちゃんとはどのようなご関係ですか?」

「え?」


網浜「(ため息を吐きつつ)職場の先輩だよぉ」


「(表情を緩めて)そうでしたか。失礼しました。

いつも姉がお世話になってます(丁寧にお辞儀)」


「いえ、どうも・・・」


「お姉ちゃん。今日お弁当作ってきたから。

お昼は一緒に食べよう」


「え? これから犬伏さん達と外でランチなんだよ」


「外食ばかりじゃ、栄養のバランスが偏るでしょ?  

今日は私が栄養満点・蘭御膳を作ってきたから。

(重箱の包みを見せ付ける)」


「(眉をしかめる)」

「それ、おせち?」


「恐れ入りますが、本日、姉は特別栄養補給のため、

私とお昼を共にします。先輩方とのお付き合いは、

またの機会にお願い致します。では」


蘭に腕をつかまれた。


「ちょっと、離して・・・」 




犬伏:レインバス本社ビル1F エントランス(昼) 



 犬伏です。


 アミリンの妹が、アミリンを引っ張って、


 エレベーターホールに行っちゃった。


 ・・・ってことは、今日のお昼は・・・、


 あたしとアホネンの二人きり?


「しょうがない。いこ、アホネン」


「はい」


「ちょっとあなた達、受付前で談笑するな!」

え? 日下ルリが受付の下から顔だけ出してきたんだけど。


「る・・・ルリ!? いつから、そこに?!」


「女の子が来る、ちょっと前から。

狭いところって落ち着くでしょ、文句ある?」

「病気ですね(小声)」

「いや、無いけど。今日、お休みじゃないの?」



「これからGAMメンバー少数で、

被災地にボランティアに行くの。ただ今絶賛待ち合わせ中。

で、何であんたは会社にいるわけ?」


「普通に、仕事です」



「ふーん。総務の人間なのに、

シフト勤務で土曜日も出勤させられて、

最近出来た彼氏との関係に早くも暗雲が立ち込めてきて、

あーサボってデートしたいなーと思いつつも

真面目に業務に勤しむ愛社精神あふるる社畜街道まっしぐらの

可哀想なメス犬、結婚願望が意外と高い、

三十路に片足突っ込んじゃった24歳の優秀社員矢島実里と、

あなたみたいな男2人と同棲している、しつけの悪い、

汚れた血統書をお持ちのお嬢様風情が一緒に土曜日出勤して、

大体同じ額の休日出勤手当てがもらえるってわけね。

あーホントうらやましいわ、

あたしも土曜日出勤したぁ↑ーーーい(超早口)」



噛まないなー・・・流石、女優。


「(苦笑い)」


「(ふくれ面)」


日下「( ・´ー・`)ドヤッ」




ルリが実里の肩に手を置きつつ受付から出てきた。

よっこいしょっと婆臭い声を出し、あたし達の前に立ちはだかった。

ジーパンに無地のシャツに蛍光色のジャンパー。

こじゃれた長靴をはいている。

いかにもボランティアの人っぽい服装。

GAMのロゴが入った帽子の唾を斜め横にしてボーイッシュ演じてる。

長髪センターパートのクセに。



「あたし、ちょっとアミリンが心配だから、


 様子を見てこようかなー」


「水入らずなんだから邪魔するな。あんたも一緒に来なさい」


「なんでよ~~」




網浜:レインバス本社ビル6F 休憩室(昼)




 アミリンです。


 休憩室はガランとしています。


 さすが土曜日です。 


 それゆえに、入り口付近のテーブルに、


 並んで座っている二人が目立ちます。




 指野美咲と、狩川亜美奈。




 何やら、楽しそうに談笑しているみたい。


 なんでヤバイときに、ヤバイ人達がいるぅの><?


 ライトな面談www←の最中かも? であって欲しい。 


 そんなわけないか。今日土曜日だもんね。




 指野さんが凜に気づいたのか、こっちを向いた。


 凜は覚悟を決めて、指野さん達の方へ歩いていきました。









「網浜ちゃーん(笑顔で手を振る)」


「(網浜の方を向く)」









 指野さん、いつものようなスーツ姿じゃない。


 私服かな? 二人とも地味な格好。ブルゾン着てる。


 髪型はいつも通り、サイドを垂らした、


 デコ出しの活動的なポニーテールに編み込み。美人だけどイケメン。


 狩川さんは金髪ボブショート。可愛い。


「どうもーこんにちわ。


 今日は土曜日なのに、お仕事ですかー?」


「いいえ。これからGAMで、東北にボランティアに行くのよ。

今は待ち合わせ中なの」

 なるほど、ボランティアの人っぽい服装だ。


「えー凜、そんなの知らなかったですよ。

何で教えてくれないんですか~」


「ごめんなさい。今回は少数精鋭なのよ」

「お姉ちゃん。このお二方も?」

「うん、凜の友達だよ」


「(微笑みつつ)秘書課の指野美咲です。宜しくね」

川「(指野の背中から顔を出し)ガチョーン!」


「(一瞬驚きながらも)ガチョーン」

「!(驚いた様子で蘭を見る)」


「あはは。この子、可愛いね。しかも、ノリが、いいっ」


「どう致しまして」


「あたしは広報部の狩川亜美奈。よろしくねん」


「どうも。お二人とも、とてもお美しいですね」


「あら、若いのにお世辞が上手ね。学生さん?」


「はい。16歳になりました」


「可愛い・・・生足だよ。可愛い(発情した様子)」


「(苦笑)」


「ご挨拶が遅れました。


 ワタクシ、私立晴嵐学園女子高等学校2年生の、


 網浜蘭と申します。姉がいつもお世話になってます(お辞儀)」



「どう致しまして」


「晴嵐って、名門進学校の、あの晴嵐?」



「はい。成績は特進クラスの人間を抑えて、1位です」


「やだ~。あーた、あたしの後輩じゃんかよー」

「え? 晴嵐出身なんですか?」


「そうだよ~ん。あたし金髪でチャライけど、

これでも国立大学出ていまーっす(投げキッス)」


「まさかこんなところで先輩に出会えるなんて・・・」


「(ニヤニヤ)」


「今日、これからお二方は被災地へ赴くのですね。

そうだ。ぜひこのお弁当を持っていって下さい」


「ありがとう。現地で炊き出しするから、

お気持ちだけもらっておくわ」


「そうでしたか。では、せめて

私の作ったお弁当で栄養補給をしていって下さい」


蘭がお重の包みをといて、重箱を並べ始めた。

中身は、本当に豪華だ。

ハンバーグやロールキャベツ、

三色肉巻き等の肉料理メインの重箱、

卵焼きや揚げ物など弁当の定番的な重箱、

色とりどりに工夫された俵むすび、巻き寿司メインの重箱、

エビフライなどの、揚げ物の重箱、


山菜や煮物メインの重箱。

フルーツメインの小箱まである。

伊勢海老が入ってる重箱もあるんだけど、

本当に、どういうこと、これ? 


「ちょっ何これ?」

「豪華ね」


蘭が小皿と割り箸をカバンから取り出して、

指野さんと狩川さんの前に置いた。

その後、肩にかけた魔法瓶を指野さんの前に置いた。

「みそ汁も作ってきましたので」

蘭がカバンから紙コップを出して二人の前に置いた。

そして蘭の刺繍が入った前掛けを指野さんと狩川さんにつけた。


「バブ~(前掛けをつかみつつ)」

「服を汚さないための配慮です、バブ~」

「ありがとう。いただきまーす」


 ほんと、この娘、実の妹ながら抜かりないわ・・・。



「ところで指野さん。お体の怪我、大丈夫ですか?」


「(微笑を浮かべ、軽く首をかしげる)」

「(驚いた顔で蘭を見つめる)」

「(指野と蘭を交互に見る)」

「怪我?」


あの常に冷静沈着な指野さんが、

ちょっと動揺している、ような気がするが、気のせいか。

むしろ狩川さんの方が動揺してる。









「指野さんの背中から、湿布の匂いがしました。


 それと、前掛けをつけるときなんですが、


 ポニーテールで隠れた綺麗なうなじに目が行きまして、ムフ。


 指野さん、医療用コルセットを装着されていらっしゃいますよね。


 上半身に怪我でもされているのかと?」



「(指野を真剣な表情で見つめる)」


「(警戒心を露にした表情で蘭を見つめる)」


「指野さん。やっぱり怪我してるんですか?」


「ええ。実は、背中をやっちゃったの。

でも今、体に巻いてるのは背筋矯正サポーターよ。

私、背筋が悪いから」


「そうなんですかー」

「恥ずかしい・・・(頬に手を当てる)」


「・・・腰痛をおしてまでのボランティア活動。

 私、指野さんを尊敬致します」

「どう致しまして」

「くれぐれも、ご無理なさらず」


「(笑顔で重箱から食べ物を迷いなく取りながら)

気をつけるわね」


怪我、ねえ・・・。

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