第4話Part最終『魔の18歳児』
牧野:カタルーニャ料理店 バルセロナ店内 個室席 (夜)
牧野です。私の命の次に大事なバレッタが手元に戻ってきました。
嬉しくて、私は思わず涙を流してしまいました。
「牧野ちゃん・・・」
「東京に来てから、スランプで、ずっと落ち着かなくて、寂しくて。友達も出来なくて。
このバレッタだけが唯一の支えだったんです。だから今、本当に嬉しいです。犬伏さんありがとうございます」
「私は指野さんに頼まれただけだから」
「頼まれた?」
網浜:カタルーニャ料理店 バルセロナ店内 個室席 (夜)
アミリンです。大変なことになってきました。
どうやらバレッタは指野さんが遺失物置き場に置いてあったのを回収したらしいのです。
それは有難いことなのですが、何故ここに存在するのか? という疑問が残ります。
凜は長畑さんの方を見ました。長畑さんは脂汗をかいていて、軽く痙攣しています。
「でも美咲ちゃん、どうしてここにあるって分かったの」
「私は知らないわ。たまたま遺失物置き場を覗いたら置いてあったから回収しただけよ」
牧野さんの顔がみるみるうちに強張ってきて、そして彼女は長畑さんの方を見ました。
二人は目を合わせています。
すると牧野さんは立ち上がり、バレッタを置いて個室を飛び出していってしまいました。
「待って、タマちゃんっ」
「牧野さん」
長畑さんがバレッタを持って牧野さんを追いかけていきました。
「一体どういうこと」
事情を知らない犬伏さんはさっぱりわからないといった表情をしています。
でも凜にはわかります。これは血の雨が降る展開です。
凜も二人の後を追うことにしました。
牧野:海岸通り(夜)
牧野です。私の秘密がばれてしまいました。それも一番ばれたくない人に。
もうこの会社にはいられない。私は走りながら美咲ちゃんにLINEを送りました。
「もう会社にいられない」
「落ち着いて、何があったの」
「私がミュージシャン志望だってことが長畑さんにばれた」
「遅かれ早かれバレることよ。落ち着いて」
「落ち着いてなんかいられないよ」
私がLINEを打ちながら走っていると後ろから長畑さんの声が聞こえてきました。
どうやら彼は私を追ってきたらしいです。
「牧野さーん、髪留め忘れてるよーーーっ」
え。
そういえばバレッタを置いてきてしまっていました。
もう、私の馬鹿。
それにしても長畑さんの脚力は凄いです。
見る見るうちに追いついてきて、そして肩を掴まれてしまいました。
「離して下さいっ」
「わかった、離すよ」
長畑さんは言われたとおりにしてくれました。そして私だけがゼイゼイ言いながら向かい合いました。
「ほら、この髪留め。大切な物なんでしょう。もう失くしちゃ駄目だよ」
優しい笑顔で長畑さんは、そう言うと、私のバレッタを掌にのせて差し出してきました。
私はそれを受け取ると、無言でバレッタを身に付けました。
すると背後から聞き覚えのある声が聞こえてきました。私が振り向くと、
そこには朝稲小弦と見知らぬ若者の姿がありました。
「あら、牧野じゃない。相変わらず薄気味悪い髪留めつけてるわね」
そういうと、朝稲小弦は私の頭部に収まっていたバレッタを取り上げ、車道に放り投げました。
「あんなもの、失くした方があんたのためよ」
「おい、キミ、何て事をするんだ」
あまりの出来事に茫然自失状態の私とは対照的に、長畑さんは車が通る車道へ飛び出して、
車を避けながらバレッタを拾って戻ってきてくれました。
「何よ、あいつ。」
「いい人ぶってるね」
「長畑さん、危ないですよ」
「大丈夫、もう手放しちゃ駄目だよ」
長畑さんは私の手を取って、その手の中にバレッタを収めてくれました。
「長畑さん・・・ありがとう・・・ございます」
私は思わず涙がこみ上げてきました。
ちょうどその時、アミリンが私達の元にやってきたので、私はアミリンに抱きつきました。
「ちっ興ざめしちゃうわね」
「行こうよ」
「おいキミ達、牧野さんに謝れ」
「うるさいわよ、オッサン」
「オッサン・・・」
朝稲小弦と若者はそう言いきって去っていきました。
バレッタは少しだけ傷ついていました。
「うわああ、私の大事なバレッタが・・・」
「ちょっと貸して」
アミリンが私からバレッタを奪い取り、じっくりと見ています。
「うん、これなら直せる人を知ってるよ」
「え、本当、誰」
「凜の妹、手先が器用なんだ」
「ホントに? よかった今度お礼したいから紹介して」
「え、それはちょっと・・・」
「どうしたの?」
蘭 :自宅 蘭の部屋(夜)
蘭です。くしゃみが出ました。それにしてもススガタマ・・・許すまじ。
牧野:海岸通り(夜)
牧野です。
「やっぱり昨日歌ってたのは牧野さんだったんだね」
「あっ・・・はい。そうです。私、音楽やってて、それで・・・」
「偉い。夢があるのはいいことだよ。ぜひ応援させて欲しいな。ライブに行くよ」
「それは困ります。皆には秘密にしておきたいので」
「そっか、頑張るんだよ」
「はい、ありがとうございます」
そのときでした。長畑さんの柔らかい笑顔を見た私の体に電流が走ったのです。
でも今は恋なんていらないんです。
だって私は、夢を叶えるために、東京に来たんだから!
長畑さんも、レインバスの皆さんも、私にとっては、
ただの活動資金を稼ぐ場所、
その仕事先の人達に過ぎないんですから・・・・。
長畑:レインバス 営業事務所内 (朝)
長畑だ。
なんか朝来たら、デスクのフィギュアが全部倒れてた。
一体誰の仕業だ。ちゃんと物語構成とか考えて配置しているのに!
俺は一生懸命置きなおした。月曜の朝から超真剣になってしまった。
よし、終わったぞ。
「これで、よし(ご満悦の表情)」
「おはようございます」
げげっ牧野玉藻が現れた。
コマンド?
おだてて逃げる
無視して逃げる
大胆に逃げる
土下座した後に逃げる
俺が牧野さんと遭遇すると、
戦うという選択が無くなってしまうのは何故なんだ・・・。
牧野さんはA4の用紙をデスクに力強く叩きつけるように置いた。
そしてつんけんした様子で去っていってしまった。
フィギュアがまた全部倒れてしまった。
最初からやり直しかよ・・・・
?
ん? この紙は・・・・。
タマロック~路上9月スケジュール完全版~という表紙だ。
2枚目のカレンダーには、毎日毎日、
ぎっしりと歌う場所の予定が書き込まれている。
時間も、場所も細かく書かれている。
牧野さんって・・・わからない。謎だ。
でも、そんな彼女のことが、今、俺は気になって仕方がない。
第五話『ハロウィンなんて大嫌い』に続く
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